「工事は受注できているのに、なぜか手元にお金が残らない」——建設業の経営者から最も多く聞く悩みの一つです。実際、建設業の営業利益率は全産業平均と比べて低い水準にあり、特に中小建設業では営業利益率3〜5%に留まる企業が大半を占めます。
しかし、同じ建設業でも粗利率25%以上を安定的に実現している企業が存在するのも事実です。本記事では、大手ゼネコンで20年間、設計から財務、現場管理までを経験した建設業専門コンサルタントが、建設業の利益率が低い構造的な要因を明らかにし、それを改善する具体的な手法を解説します。
建設業の利益率の現状:他業種との比較
国土交通省の建設業活動実態調査によると、建設業全体の営業利益率は約4〜5%で推移しています。これは製造業の約6〜7%、情報通信業の約8〜10%と比較すると明らかに低い水準です。
特に注目すべきは、スーパーゼネコン5社ですら営業利益率が5〜8%程度であるという事実です。私がゼネコンに在籍していた時代も、売上高は大きくても利益率の低さは常に経営課題でした。規模の大小を問わず、建設業は構造的に利益が出にくい産業なのです。
建設業の利益率が低い5つの構造的要因
要因1:重層下請け構造による利益の分散
建設業最大の構造的問題は、発注者→元請け→一次下請け→二次下請け…と続く重層下請け構造です。各層で管理費や利益が抜かれるため、実際に工事を行う企業に到達する金額は元の発注額から大幅に目減りしています。このピラミッド構造が業界全体の利益率を押し下げる最大の要因です。
要因2:受注産業ゆえの価格決定力の弱さ
建設業は基本的に「受注産業」であり、発注者が示す予算の範囲内で競争入札を行います。製造業のように自社で価格を設定できる立場にないため、価格決定力が弱いのが特徴です。特に公共工事では最低制限価格制度があるものの、民間工事では値引き圧力が強く、適正利益を確保しにくい構造になっています。
要因3:個別受注生産による原価管理の難しさ
建設業は一つとして同じ現場がありません。地形、気候、近隣環境、設計仕様すべてが異なる「個別受注生産」であるため、原価を正確に見積もることが極めて困難です。結果として、工事完成後に「想定以上にコストがかかっていた」と判明するケースが頻発し、利益率を下げる原因となっています。
要因4:人手不足による労務費の高騰
建設業就業者の約3分の1が55歳以上という高齢化の中で、技能労働者の不足が深刻化しています。2024年問題(時間外労働の上限規制)も重なり、労務費は年々上昇しています。一方で、工事単価への転嫁が追いついておらず、利益を圧迫する大きな要因となっています。
要因5:資材価格の高騰と転嫁の遅れ
鉄鋼、セメント、木材などの建設資材価格は、ウクライナ情勢や円安の影響で大幅に上昇しました。しかし、工期が長い建設業では、契約時と施工時の価格差を契約に反映できないケースが多く、スライド条項(物価変動に応じた契約金額の調整)の適用も進んでいないのが実情です。
利益率25%を実現する企業に共通する改善策
私がコンサルティングの現場で支援してきた中小建設業の中には、粗利率25%以上を安定して実現している企業があります。彼らに共通する改善策を紹介します。
改善策1:工事別原価管理の徹底
利益率改善の第一歩は、工事別の原価管理を「見える化」することです。工事台帳をExcelで管理している企業は、まず工事管理ソフトへの移行を検討してください。リアルタイムで原価の進捗が把握できれば、赤字工事を早期に発見し、対策を打つことが可能になります。
改善策2:「元請け比率」の引き上げ
重層下請け構造から脱却するためには、元請け比率を高めることが最も効果的です。下請け専業から元請けへの転換は容易ではありませんが、地域密着型の営業強化、自社ブランドの確立、公共工事の入札参加資格取得などにより、段階的に実現できます。
改善策3:適正価格での受注と価格交渉力の強化
「安くても仕事を取る」という発想からの脱却が必要です。自社の技術力・品質・実績を根拠にした価格交渉を行い、利益の出ない工事は断る勇気を持つことが、長期的な利益率改善につながります。
改善策4:DXによる生産性向上
ICT施工、BIM/CIM、ドローン測量、施工管理アプリなどの建設DXツールの導入は、生産性向上とコスト削減の両面で効果を発揮します。初期投資は必要ですが、中長期的には人件費削減と工期短縮により、大きな利益改善効果が期待できます。
改善策5:経審スコアの戦略的向上
公共工事を受注する企業にとって、経営事項審査(経審)のスコアは受注機会に直結します。W評点(社会性等)の改善や技術職員の資格取得支援など、戦略的に経審スコアを向上させることで、より大型で利益率の高い工事の受注機会を増やすことが可能です。
まとめ:利益率改善は「統合最適化」で実現する
建設業の利益率が低い原因は、重層下請け構造、価格決定力の弱さ、個別受注生産の難しさ、人手不足、資材高騰という5つの構造的要因が複雑に絡み合っています。これらの課題は個別に対処しても効果は限定的であり、「統合最適化」のアプローチで同時並行的に改善していくことが重要です。
当社では、大手ゼネコン出身のコンサルタントが、利益率改善・資金繰り安定化・人材確保を一体的に支援する「統合最適化コンサルティング」を提供しています。建設業の経営課題でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
