結論——評価の物差しは、もう国が作っている
人事評価制度を作ろうとして、途中で止まった。建設業の社長から、いちばんよく聞く話です。等級をいくつに分けるか、誰が誰を評価するか、点数をどう配ればいいのか。決めることが多すぎて、決算と現場が重なった月に止まり、そのまま1年が過ぎます。
先に結論を書きます。技能者の評価については、物差しを自分で作る必要がありません。国が認めた4段階の物差しが、すでに50の分野ぶん出来上がっています。建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価です。
そして2026年4月から、その4段階には「いくら払うのが標準か」という金額まで、国が数字でつけました。つまり、等級表も、賃金の目安も、外側はもう用意されている。会社がやるのは、自社の人をその段に置き、段ごとの仕事を1行ずつ書き、規程に落とすことだけです。

1. 2026年4月、レベルごとの年収に「標準値」と「目標値」がついた
まず、いちばん新しい数字から押さえます。国土交通省が2026年4月に改定した「CCUSレベル別年収」です。
全国・全分野(単位:万円/年収)
| レベル | 標準値 | 目標値 |
|---|---|---|
| レベル1 | 395 | 535以上 |
| レベル2 | 444 | 599以上 |
| レベル3 | 472 | 664以上 |
| レベル4 | 572 | 754以上 |
もとになっているのは令和7年10月の公共事業労務費調査です。目標値は「平均以上」、標準値は「下位15%程度」の年収に相当する水準として作られています。資料には「本資料に示す金額に法的拘束力はなく、支払いを義務付けるものではない」と明記されています。
ただ、そのすぐ上に、経営者が読み落とせない一文があります。
目標値と標準値の2つの水準の値を設定し、適正な賃金として目標値以上の支払いを推奨するとともに、標準値を下回る支払い状況の事業者については、請負契約において労務費ダンピングの恐れがないか重点的に確認する。
自社の賃金が標準値を下回っていると、賃金の問題ではなく、請負契約の問題として見られる。これが、いま人事評価制度に手をつけるいちばん大きな理由です。「うちは払えていますか」ではなく「うちの契約は疑われませんか」という話に変わりました。
もうひとつ、実務で外せない注意があります。この年収はブロック別に出ています。全国の数字を、そのまま自社にあてはめないでください。
たとえば全分野平均のレベル4で見てみます。関東は標準値606万円・目標値800万円以上です。いっぽう中国は標準値489万円・目標値645万円以上。同じ4段目でも、100万円を超えるひらきがあります。使うのは、自社が仕事をしているブロックの数字です。

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2. 4つのレベルは、何で決まっているのか
物差しを借りる以上、目盛りの意味は知っておく必要があります。CCUSの能力評価は、次の3つで決まります。
- 経験 — 就業日数
- 知識・技能 — 保有資格
- マネジメント能力 — 登録基幹技能者講習・職長経験
この3つを組み合わせて、4段階に分かれます。国の資料での書かれ方は、こうです。
| レベル | 国の資料での表現 |
|---|---|
| レベル1 | 初級技能者(見習い) |
| レベル2 | 中堅技能者(一人前の技能者) |
| レベル3 | 職長として現場に従事できる技能者 |
| レベル4 | 高度なマネジメント能力を有する技能者(登録基幹技能者等) |
ここで、社内の役職と読み替えができます。レベル3が職長、レベル4が基幹技能者。多くの会社が頭のなかで持っている序列と、ほぼ同じです。だから新しく覚えることが少なく、現場に説明しやすい。
判定の実績も見ておきます。令和8年6月30日現在で、合わせて172,927件です。うちわけは、レベル4が68,952件、レベル3が48,724件、レベル2が55,251件。なお、国が出しているのはレベル2から4までで、レベル1の件数はのっていません。
ここで目を留めたいのは、いちばん多いのがレベル4だという点です。制度がベテランのがわから動いていて、若手のがわはまだうすい。裏を返せば、レベル1と2の育て方を先に決めた会社が、採用の場面で差をつけられるということです。
「うちに入ると、何年でどの段に上がり、いくらになるか」。これを紙で見せられる会社は、いまの建設業にほとんどありません。求人票にのせられるのは、たいてい入口の金額だけです。そのさきの道すじまで見せられるかどうかが、そのまま応募の数に返ってきます。

4つの段は技能の段です。段に置く前に「その人をどう見ているか」を整理しておくと、等級表は使われるものになります。見方の整理は建設業の人材力強化|じんざいフレームワークで考えるにあります。
3. 作り方は3ステップ。紙1枚から始まる
ステップ1|いまの人を、4つの段に置く
社員と、可能なら常用の協力会社の技能者も含めて、名前を4つの段に並べます。この時点では、正式なレベル判定を受けている必要はありません。就業日数・資格・職長経験の3つで、仮に置いてみるだけです。紙1枚、30分で終わります。
ここで必ず見えるものが2つあります。ひとつは、段の偏り。3段目に人が固まっていて、2段目が空いている、といった形です。もうひとつは、同じ段にいるのに給料が違う人。これが、いまの賃金が何で決まっているのかを社長自身が言えない、という状態の正体です。
ステップ2|段ごとに「何ができる人か」を1行で書く
借りるのは目盛りだけで、中身は自社の言葉で書きます。国の定義をそのまま貼っても、現場では動きません。
- レベル2の例:「一人で持ち場をまわせる。段取りは指示を受ける」
- レベル3の例:「班をまとめ、翌日の段取りを自分で組める。新規入場者教育ができる」
1行です。書き出すと長くなりますが、長い定義は誰も読みません。1行にすると、評価する側もされる側も、同じ絵を思い浮かべられます。
ステップ3|段ごとの年収を決め、規程に書く
自社のブロックの標準値と目標値を、段ごとにあてます。いきなり目標値に届かなくても構いません。まず標準値に届いているかを確認し、届いていない段があれば、そこが最優先です。
そして、ここを飛ばすと制度になりません。決めた中身は、就業規則と賃金規程に書きます。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使う使用者に、就業規則を作って行政官庁に届け出るようもとめています。そこに書かなければならない事項の2号が、これです。
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
表を作った時点では、まだ制度ではありません。規程に書いて、初めて制度です。ここを飛ばした会社の「新しい評価制度」は、社長が交代したり、忙しい期が来たりすると、半年で元に戻ります。

4. 先行している会社の使い方は、4つに分かれる
国土交通省が集めている取組例を見ると、CCUSレベルの使い方は大きく4つに分かれます。
① レベルに応じて手当を出す
谷脇組(北海道)は、自社の技能者にCCUSレベルに応じた「キャリアアップ手当」を月額で支給しています。大和ハウス工業(大阪)は、協力会社の技能者を対象に、CCUSレベルと独自の評価制度を組み合わせて手当を出しています。松井建設(東京)は、一定回数以上の就業履歴を蓄積した技能者に、レベルに応じた報奨金を四半期ごとに支給しています。
② 独自の評価制度の要件として使う
西松建設(東京)は、協力会社の技能者を対象にした優良技能者制度を持っています。認定にあたってCCUSレベルを考慮し、認定された役職ごとに手当を出す形です。手当の額は、CCUSにたまった就労履歴の日数から計算されます。
③ 昇給・昇格の要件として使う
フクザワコーポレーション(長野)は、自社の技能者の昇格基準にCCUSレベルを設定しています。岡庭建設なども同じ形です。
④ 建退共の掛金を元請が全額負担する
協力会社の技能者がCCUSに登録している場合に、建退共の掛金を元請がぜんぶ持つやり方です。竹中工務店、三井住友建設、仙建工業、矢作建設工業などが取り入れています。
中小企業がまず取るべきは③です。①と②は手当の原資が要りますが、③は紙とルールだけで動きます。「レベル3になったら職長手当」ではなく、「レベル3が職長になる条件」と決めるだけなら、来月からできます。お金を出す前に、道すじを見せる。順番はこちらが先です。

5. いちばん多い失敗は「人件費だけが増える」
評価制度を入れれば、賃金は上がります。上がった分を請負代金に乗せられなければ、制度は1年で止まります。ここが、人事の話が経営の話に変わる地点です。
2025年12月2日、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成し、その実施を勧告しました。運用方針は令和7年12月に出され、令和8年6月に最終改正されています。要点はこうです。
- 見積りは、材料費・労務費などを内訳明示した見積書(材料費等記載見積書)を使うよう努める
- 見積書を受け取った注文者は、その内容を考慮・尊重するよう努める
- このルールは公共・民間の別、職種、下請次数、会社規模を問わず適用される
- 基準を下回る水準の労務費での見積り・受注は、建設業法第20条第2項違反の見積り、または第19条の3第2項違反のダンピング受注に該当する恐れがある
- 当初見積書と最終見積書は、目的物の引渡しから10年間の保存が義務(建設業法第40条の3、施行規則第26条第5項・第28条第2項)
つまり、賃金を上げることと、その元手を請負代金で受け取ることが、法律のがわで1本につながりました。評価制度・賃金表・見積書の労務費欄。この3つを同じ数字でつなげれば、「上げた分をもらいに行く」よりどころになります。切りはなしたまま賃金だけ上げると、そのぶんが利益から出ていきます。
言いかえると、こういうことです。評価制度は、人事の紙ではなく、値段の紙になりました。うちの3段目はいくらの人なのか。それを自分の言葉で言えないまま見積りを出すと、いくらで受けるのが安すぎるのかも、自分では分かりません。先に決めておくべきなのは、点数のつけ方ではなく、段ごとのねだんのほうです。

工期の側から同じ話を見た記事もあります。あわせてお読みください。
評価制度・賃金表・見積書の労務費欄を、同じ数字でつなぐ設計を30分でご相談いただけます(無料経営相談・毎月5社まで)
6. 統合最適化の3軸で見る
当社は、施策を「人材育成 × DX推進 × 収益改善」の3軸で見ます。CCUSを背骨にした人事評価制度は、この3つが1つの動きでつながる、めずらしい打ち手です。
人材育成——段と、段ごとの1行定義があると、育成が「気持ち」から「工程」に変わります。次の段に必要なのは、就業日数か、資格か、職長経験か。3つのうちどれが足りないかが名前ごとに分かるので、来期の受講計画がそのまま作れます。
DX推進——評価の証拠を集める手間が、ほぼゼロになります。CCUSは現場の入退場で就業履歴が積み上がる仕組みなので、「何日、どの現場に出たか」を人が数えなくてよい。評価制度がうまくいかない原因の多くは、評価そのものではなく、記録を集める手間で潰れることです。ここが自動で埋まる意味は大きい。なお、就業履歴の蓄積は経営事項審査でも評価の対象になっています(経営事項審査とは|点は決算日までに決まる)。
収益改善——段ごとの年収が決まると、1人あたりの原価が段単位で読めます。見積りの労務費と、実際に払っている賃金が、同じ表の上で照合できるようになる。「この工事に3段目を2人入れると原価がいくらか」が事前に出せる会社と、出せない会社では、価格交渉の強さが変わります。

7. 3か月でやるなら、この順番
| 時期 | やること | 成果物 |
|---|---|---|
| 1か月目 | 事業者登録・技能者登録の状況を棚卸しし、いまの人を4段階に仮置き | 名簿1枚 |
| 2か月目 | 段ごとの1行定義と、自社ブロックの標準値・目標値をあてた年収レンジ | 等級表1枚 |
| 3か月目 | 就業規則・賃金規程の改定と届出、見積書の労務費欄との接続 | 規程・見積様式 |
登録がまだの場合、手続きは1回で済ませられます。令和7年3月から、技能者登録(新規)と能力評価の申請をいっしょに申し込めるワンストップ申請が始まりました。
能力評価の基準は、いま50の分野で作られています。令和8年8月には「型枠解体」が加わりました(受付が始まるのは10月23日の予定です)。自社の職種に基準があるかどうかは、動き出す前にたしかめておいてください。基準がない職種だと、この記事の手順は途中までしか使えません。
CCUSの登録そのものの手順は、建設業のCCUS活用ガイド|登録から処遇改善までにまとめています。
まとめ
- 人事評価制度を一から作らない。国が50分野で認めた4段階を、等級表の背骨にする
- 2026年4月から、レベルごとの年収に標準値と目標値がついた。標準値を下回ると、請負契約の側で労務費ダンピングを重点確認される
- 年収はブロック別。全国の数字をそのまま使わない
- 作り方は3ステップ。紙1枚 → 段ごとの1行定義 → 賃金規程に書く。規程に書いて初めて制度になる
- 先行企業の使い方は4つ。中小がまず取るのは「昇格の要件にする」。原資が要らず、来月から動く
- 賃金・評価・見積書の労務費を同じ数字でつなぐ。切り離すと利益だけが削れる
よくある質問(FAQ)
Q. 社員が10人未満でも、人事評価制度は要りますか。
就業規則を作って届け出る義務は、常時10人以上の事業場にかかります(労働基準法第89条)。ただし、レベル別年収の標準値のほうは、人数に関係なく見られる数字です。届出の義務がないことと、賃金の水準を説明できることは、別の話です。等級表と年収のはばだけでも、先に作っておくことをおすすめします。
Q. うちの職種に能力評価の基準がありません。
現在50分野で策定済みですが、対象は順次拡大されています。基準がない職種の場合、レベル別年収も算定されていません。その場合は、資料に参考値として示されている「特殊作業員」「普通作業員」の年収が目安になります。
Q. 協力会社の技能者まで対象にする必要がありますか。
義務ではありません。ただし、先行企業の取組例では、大和ハウス工業・西松建設のように協力会社の技能者を対象にしている例が多いのが実態です。手当や建退共の掛金負担を通じて、優先的に人を出してもらう関係を作る狙いです。まずは自社から始め、常用の協力会社に広げる順番で構いません。
Q. レベル判定を受けていない人は、評価できませんか。
仮置きは、就業日数・保有資格・職長経験の3つで自社でもできます。正式なレベル判定は、賃金を確定させる段階で取りに行けば間に合います。先に等級表を作り、あとから判定で裏を取る順番のほうが、止まりません。
出典(一次・2026年8月時点)
1. 国土交通省「CCUSレベル別年収の概要(令和8年4月改定)」 https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260331_01.pdf
2. 国土交通省【CCUSポータル】能力評価制度について(令和8年6月30日現在の能力評価判定件数・50分野) https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_fr2_000040.html
3. 国土交通省「能力評価制度の概要」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001477116.pdf
4. 国土交通省「CCUSの能力評価等を活用した処遇改善の取組例」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/ccus_roumuhi_teate.pdf
5. 国土交通省「『労務費に関する基準』の運用方針」(令和7年12月/令和8年6月最終改正) https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260325_02.pdf
6. 労働基準法 第89条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
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本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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