適正工期とは、法律が決めている「通常必要と認められる期間」のこと
「工期が短い」というはなしは、現場では長く精神論で語られてきました。気合いで巻く、休日を削る、人を増やす。そうやって帳尻を合わせてきた会社はすくなくありません。
ですが、いまは法律の話になっています。
建設業法は、短すぎる工期での契約そのものを禁じています。条文はこうです。
注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。
建設業法 第19条の5 第1項
ここでいう「通常必要と認められる期間」が、いわゆる適正工期です。つまり適正工期とは、現場の感覚ではなく、法律がよりどころにしている期間のことです。
ただし、条文が禁じているのは、その期間に比して「著しく短い」工期です。通常必要な期間をすこし下回っただけで、ただちに違反になるわけではありません。著しく短いかどうかは、「工期に関する基準」に照らして、契約ごとの事情を総合的に見て個別に判断されます。
見おとされがちな第2項 ― 受けた側も違反になります

おおくの解説は、いま引用した第1項までで終わります。しかし、この条文には第2項があります。
建設業者は、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。
建設業法 第19条の5 第2項
主語が「注文者」から「建設業者」に変わっています。
つまり、短すぎる工期をおしつけられて、それを飲んだ側も、同じ条文で違反になります。「うちは受け身だから関係ない」とは言えないつくりになっています。
ここは経営としておもい意味をもちます。無理な工期を受けることは、これまでは「苦しいがしかたのない営業判断」でした。いまは、それに加えて法令違反のリスクを自社がひき受ける判断になっています。
発注者への勧告と公表 ― ただし金額の条件があります
では、短い工期を出した発注者はどうなるのか。建設業法は勧告と公表のしくみを置いています。
国土交通大臣または都道府県知事が、発注者に必要な勧告をすることができます。そして、その勧告に従わないときは、その旨を公表することができると定めています(第19条の6 第2項・第3項)。
ただし、ここに条件がひとつあります。条文には「請負代金の額が政令で定める金額以上であるものに限る」とあります。
すべての契約が勧告の対象になるわけではありません。ここを「どんな案件でも公表される」と説明している記事を見かけますが、条文はそうなっていません。自社の案件が対象になるかは、金額の要件をたしかめる必要があります。政令で定める金額は、500万円(建築一式工事は1,500万円)です(建設業法施行令 第5条の8)。この金額の条件は勧告の話で、第19条の5の禁止そのものに金額の条件はありません。
工期のものさしは「工期に関する基準」にあります
「通常必要と認められる期間」と言われても、判断するものさしがなければうごけません。
そのものさしが、中央建設業審議会がつくった「工期に関する基準」です。
- 令和2年7月 ― 中央建設業審議会が作成
- 令和6年3月27日 ― 同審議会で審議され、同日その実施が勧告された
改定の理由は、国土交通省がはっきり書いています。「令和6年4月から、建設業においても罰則付き時間外労働規制が適用されることも踏まえ、規制の遵守の徹底を図るべく」見直した、とされています。
つまりこの基準は、2024年問題とひと続きのものです。働く時間の上限が決まった以上、工期の側も動かさざるを得ない、という筋です。
令和6年の改定でくわわった、じつ務に効く3点
改定の中身のうち、見積と原価にじかにひびくものが3つあります。
移動時間も労働時間に含まれうると明記されました
技能労働者やオペレーターの移動時間も労働時間に含まれうることが書かれました。
現場が遠いほど、じっさいに働ける時間はけずられます。これまで「移動は自己責任」として工期におりこまれてこなかった時間が、いまはおりこむべき時間になりました。
猛暑日の不稼働が自然要因に加わりました
猛暑日における不稼働が、雨や雪と同じ自然要因として書きくわえられました。
夏に止まる日を見込まずに組んだ工程は、その時点でむりがあるということです。これはここ数年の気温のじったいにあわせたものです。
工期確保経費を請負代金に反映することがはっきり書かれました
工期を確保するための経費を、請負代金に適正に反映する必要性が書かれました。
ここが、この改定でいちばん経営に効く部分だと考えています。工期の話は、これまで工程表の話でした。いまは代金の話になっています。
上限規制の数字 ― 自社は45時間か、42時間か
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工期を考えるとき、まえ提になるのが時間外労働の上限です。労働基準法第36条は、次のように定めています。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則(限度時間) | 1か月 45時間 / 1年 360時間 |
| 1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月を超えるばあい | 1か月 42時間 / 1年 320時間 |
| 特別条項(臨時的な特別の事情) | 1か月 100時間未満(休日労働を含む) / 1年 720時間以内 |
| 限度時間(45時間または42時間)を超えられる回数 | 1年について 6か月以内 |
| 複数月の平均 | 2〜6か月の平均で 80時間以内(休日労働を含む) |
ここでたしかめていただきたいのは、自社の上限が45時間なのか、42時間なのかです。
建設業では、1年単位の変形労働時間制をとっている会社がおおくあります。その対象期間が3か月を超えていれば、上限は45時間ではなく42時間です。年間も360時間ではなく320時間になります。この42時間は、その制度で働く人にかかります。制度の対象になっていない人は45時間のままです。
自社の36協定と就業規則を見れば、どちらかはすぐ分かります。ここをとりちがえたまま工程を組むと、月に3時間ずつ、年で40時間ぶん見込みがずれます。
2026年9月からの労基署のみかた(2026年10月追記)
残業の法律の上限は、原則の月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制なら月42時間・年320時間)で、かわりません。特別条項でも、年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内です。
かわったのは労基署の指導で、2026年9月1日から、月45時間までへらすよういちりつにもとめるやり方をみなおしました。そのかわりに、業種をとわず、36協定できめた健康・福祉確保措置がおこなわれているかを、おもにたしかめます。過重労働で健康をこわすおそれが高いときの指導は、これまでどおりつづきます。
工期は、工程表の話ではなく原価の話です

ここからが、財務の見方です。
工期が延びたとき、何が増えるのか。整理すると、ふえる費用はせいしつがふたつに分かれます。
| せいしつ | 費目の例 | 工期が延びたときの動き |
|---|---|---|
| 期間に比例するもの | 現場事務所の賃借料、仮囲い・足場のリース料、警備費、光熱費、現場管理者の人件費 | 日数に比例してそのまま増える |
| 出来高に比例するもの | ざいりょう費、直接工事の労務費 | 工期が延びても総量は原則変わらない |
見おとされやすいのは、うえの段です。
現場事務所も、足場も、警備も、うごいていない日にも費用が出ています。月ぎめの契約なら、工期が1か月延びれば、その1か月ぶんがそのまま原価に乗ります。日ぎめの警備など、契約の形で増えかたは変わります。出来高は1円も増えないのに、費用だけがふえる仕組みです。
だから、短い工期を無理に飲むことは「きつい」だけの話ではありません。
- 無理な工期 → 人を増やす、休日に出る → 労務費と割増賃金が増える
- 上限規制に触れる → 稼働を止める → 工期が延びる
- 工期が延びる → 期間に比例する費用が増える
短工期は、まわりまわって原価をおし上げます。工期は原価です。
ためしに、ひと月のばしてみます

かんたんな例で見てみます。数字はわかりやすさのために丸めたものです。
ある現場で、月ぎめでかかっているものが、つぎのようだったとします。
| かかるもの | ひと月あたり |
|---|---|
| 現場事務所の借り賃と光熱費 | 15万円 |
| 足場・仮囲いのリース料 | 40万円 |
| 警備 | 25万円 |
| 現場代理人ひとりぶんの人件費 | 60万円 |
| あわせて | 140万円 |
この現場の工期が、ひと月のびたとします。
すると、この140万円がまるごと乗ります。出来高はふえていません。売上も1円もふえていません。ふえたのは費用だけです。
もしこの工事のもうけが、もともと200万円だったとしたら、そのうちの140万円が消えます。のこりは60万円です。ひと月のびただけで、もうけが7割へりました。
ここでよく起きるのが、こういうやりとりです。「工期がきびしいので、人をふやして巻きます」。ところが人をふやせば、その人の手間ちんがふえます。休みの日に出れば、わりましちんもつきます。巻くためにお金をつかって、それでも間にあわなければ、のびたぶんの140万円もはらうことになります。
だから、工期のはなしを工程表の上だけでするのは、あぶないのです。紙の上では線をつめられますが、お金は線のとおりには動きません。
契約前に確かめる3点
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さいごに、じつ務で使えるかたちにまとめます。契約の前に、次の3つをたしかめてください。
1. その工期は、自社の上限規制で回りますか
必要なのべ時間を、じっさいに動ける日数と、配置できる人数でわってください。それが1人1日の必要時間です。そこから法定労働時間(原則1日8時間。変形労働時間制なら協定で定めた時間)をひいたのこりが、1人1日の時間外です。
それを月ごとに足して、1人あたりの月間時間外が45時間(または42時間)を超えるなら、その工期はその時点で回りません。人を増やすか、工期を延ばすかのふたつにひとつです。特別条項は、通常予見できない臨時の事情のためのものです。契約の時点で見込める残業を、特別条項でまかなうことはできません(労働基準法第36条第3項・第5項)。
2. 移動時間と、止まる日を見込んでいますか
現場までの移動時間も、労働時間に含まれうるものとして見込みます。猛暑日・雨天で止まる日も、基準が認めた自然要因です。見込んでいない工程表は、基準に照らして根拠がよわくなります。
3. 工期を確保する経費を、見積に入れていますか
令和6年の改定で、工期確保経費を請負代金に反映することがはっきり書かれました。これはこうしょうのためのざいりょうになります。「工期を延ばしてください」ではなく「この工期なら、この経費が要ります」と、金額で話せます。
3つの軸で考えると、打ち手がつながります
当社は、人材育成・DX推進・収益改善の3つをひとつのものとして考える「統合最適化メソッド」で支援しています。工期の問題は、この3つがきれいにつながる例です。
記録がなければ、こうしょうができません。 適正工期を主張するには、実際に何時間かかったのかという数字が要ります。ところが、日報が紙のままだと、その数字はしゅうけいされないまま消えます。
- DX推進 ― 勤怠と日報をデジタルで取る。移動時間も含めて記録する
- 収益改善 ― その記録が、工期確保経費を請求する根拠になる
- 人材育成 ― 数字が見えると、若手でも工程の無理を指てきできる。勘にたよらなくなる
適正工期は、こうしょう力の問題ではなく、記録の問題です。 記録がある会社だけが、根拠をもって工期と代金を話せます。
まとめ
- 適正工期とは、建設業法がいう「通常必要と認められる期間」のこと
- 第19条の5は第2項で建設業者も対象にしている。受けた側も違反になる
- 発注者への勧告と公表はあるが、請負代金の額に条件がある
- ものさしは「工期に関する基準」。令和2年7月に作成、令和6年3月27日に改定
- 改定で移動時間・猛暑日・工期確保経費がくわわった
- 上限は45時間とは限らない。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制で働く人なら42時間・年320時間
- 工期が延びると、期間に比例する費用がそのまま原価に乗る
工期の話を、工程表の話で終わらせないでください。代金の話にしたときに、はじめて経営のはなしになります。
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出典
- 建設業法 第19条の5・第19条の6(e-Gov法令検索)
- 建設業法施行令 第5条の8(e-Gov法令検索)
- 労働基準法 第36条(e-Gov法令検索)
- 国土交通省 建設業担い手確保・育成ポータル FAQ「『著しく短い工期』とはどう判断するのか」
- 国土交通省「工期に関する基準」
- 国土交通省 報道発表「工期に関する基準の実施を勧告」(令和6年3月27日 中央建設業審議会で審議・同日勧告)
- 工期に関する基準 本文(PDF)
- 工期に関する基準 新旧対照表(PDF)
- 厚生労働省「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」(2026年8月19日)
本記事の法令・基準は2026年8月時点の内容です(「2026年10月追記」の節は、厚生労働省が2026年8月19日に公表した資料にもとづきます)。点数や要件は改正されることがあります。実際の契約にあたっては、許可行政庁および国土交通省の最新の案内をご確認ください。
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本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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