受注が止まった月に眠れなくなる。現場で事故が起きた夜に頭が真っ白になる。職人が辞めると言い出した翌朝に体が重い。建設業の社長が抱えるこの重さは、性格の問題ではありません。この業種の構造から出てくるものです。
この記事では、そもそも折れにくい状態をどうつくるかを扱います。すでにストレスを抱えている状態への対処法は経営者のストレス対策:中小企業の建設業社長のためのガイドにまとめてあります。あちらが「起きたあとの手当て」、こちらが「起きても倒れない土台づくり」です。順番としては、この記事を先に読んでいただくほうが効きます。
社長のメンタルが削られるのは、性格ではなく構造です
建設業には、社長の判断だけではどうにもならない要素が3つあります。

1つ目は、受注産業であることです。自社が努力しても、発注がなければ売上は立ちません。来期の見通しが自社の手の中にない状態が、毎年続きます。
2つ目は、重層構造です。元請の判断が下請に降りてきて、下請の遅れが元請の責任になります。自分が原因でない問題の責任を、自分が取る場面が構造的に発生します。
3つ目は、担い手不足です。国土交通省の資料によると、建設業就業者は1997年の685万人から2025年には478万人まで減っています。就業者のうち55歳以上が36.6%、29歳以下は11.9%です。
つまり、辞められたら代わりがいない。だから強く言えない。言えないから自分で抱える。この流れが、社長ひとりに負荷を集めます。
ここを「自分が弱いから」と受け取ると、対処を間違えます。気合いで直す話ではなく、構造から来る負荷をどう受け止め、どう減らすかという話です。
2028年4月から、50人未満の会社にもストレスチェックが義務になります
改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務づけられます。厚生労働省は、令和10年(2028年)4月1日からと公表しています。
従来、ストレスチェックは2015年から義務化されていましたが、50人未満の事業場は当分の間の努力義務にとどまっていました。そこが変わります。

| 事業場の規模 | これまで | 2028年4月1日から |
|---|---|---|
| 50人以上 | 義務(2015年〜) | 義務(変更なし) |
| 50人未満 | 努力義務 | 義務 |
もう1つ、先に動く改正があります。ストレスチェックの集団分析について、特定の個人を識別できない方法で実施することが労働安全衛生規則に明記され、令和9年(2027年)4月1日から施行されます。個人が識別されないよう配慮するという従来の考え方を明文化したものだと、厚生労働省は説明しています。
建設業の会社の多くが、この50人未満に入ります。施行日から1年以内の実施が必要になるため、2028年度中に一度は回すことになります。厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しており、準備は今から進められます。
ただし、ここで注意点を1つ。ストレスチェックの対象は労働者であって、社長は対象外です。制度が整っても、社長自身のメンタルは誰も測ってくれません。だからこそ、社長は自分で自分を扱う方法を持っておく必要があります。
なお、自社が義務化の対象に当たるか、いつ何を準備すればよいかが判断しづらい場合は、無料経営相談(毎月5社まで)で30分お話をうかがっています。制度の確認だけでも構いません。
折れない社長がやっている3つの型
ここからは、メンタルトレーニングの分野で長く経営者を指導してきた西田文郎氏の著書『面白いほど成功する 運の大原則 「突き抜ける人」の脳の使い方』(清談社Publico)から、建設業の現場でそのまま使える3つの型を取り出します。
3つとも、気持ちの持ち方ではなく、脳の反応を扱う具体的な手順である点が特徴です。

型1|3秒で切り替える
同書では、湧いてしまったマイナスの感情をどれだけ早く消せるかを「クリアリング能力」と呼び、その手順として「3秒ルール」を挙げています。ミスや失敗でいやな感情が湧いたとき、落ち込む時間を3秒以内で終わらせるというものです。
3秒である理由は、脳の性質にあります。マイナスの出来事を引きずるほど「失敗した自分」という否定的なデータが脳に刻まれ、能力を発揮するためのホルモンの分泌が止まる、と説明されています。
やり方で重要なのは、イメージを使わないことです。同書は、パニック状態で前向きな映像を思い浮かべようとすると、かえって失敗の場面がよみがえると指摘しています。代わりに使うのが「言葉」と「動作」です。指を鳴らす、太ももを叩く、深く息を吐く。その動作と一緒に「よし、次!」と口に出す。この組み合わせを決めておきます。
建設業に置き換えると、こうなります。朝の巡回で不具合を見つけた。見積を出し忘れていたことに気づいた。そのとき、頭の中で原因を追い始める前に、決めた動作と言葉で一度切る。原因の追及は必要ですが、それは感情が落ち着いてからのほうが正確にできます。
同書は、本番だけ切り替えようとしても脳は対応しないので、日常の小さな場面から練習することを条件に挙げています。
型2|いったん認めてから切り替える
頭の中のひとりごとを、メンタルトレーニングの分野では「セルフトーク」と呼びます。同書は、脳は声に出した言葉だけでなく心の中のつぶやきにも反応する、としています。
ここで紹介されているのが「イエス・バット法」です。マイナスの感情を否定せず、いったん承認してから切り替えます。
「YES、たしかにこれは困った状況だ」と自分の思いを一度認める。そのうえで「BUT、けれども、これを乗り越えれば会社はもう一段強くなる」と続けます。
なぜ否定してはいけないのか。同書は、目の前に明らかなピンチがあるのに不安を無理に押し殺すと、脳が「無理をしているということは、やはり本当にまずいのだ」と受け取り、マイナスの感情をかえって強めると説明しています。
建設業の社長にとって、この型は特に相性がよいと考えます。工期遅延、追加費用、施主からの指摘。「大丈夫です」と言わなければならない場面が多い業種だからこそ、自分の中では一度「まずい」と認める工程が要ります。認めないまま前向きな言葉だけを重ねると、どこかで切れます。
型3|苦しさを燃料に変える
3つ目が「苦楽力」です。同書はこれを「脳の振り子の原則」で説明しています。振り子を右(喜び)に大きく振るには、まず左(苦しみ)に大きく引く必要がある。左に引くのを避けていれば、右にも小さくしか振れない、という考え方です。
そのうえで、苦しい状況で無理にでも前向きな言葉を出す理由として、脳幹にあるRAS(網様体賦活系)というフィルター機能を挙げています。強く意識した情報だけを集中して取り込み、それ以外を遮断する働きです。
ここは誤解されやすいので、はっきり書きます。苦しい状況を我慢しろという話ではありません。苦しさの先に何があるかを、先に決めておけという話です。この赤字工事を乗り切ったら原価管理の仕組みが手に入る。この人手不足を越えたら育成の型が残る。その「先」が具体的であるほど、目の前の負荷は扱いやすくなります。
順番を間違えると、気合いは効きません
同書の中心にあるのが「氣→縁→運」という順番です。運は単独では来ず、必ずこの順に連動した結果として来る、としています。

同書はこれを、人間の脳の3層構造と対応させて説明しています。
| 段階 | 対応する脳 | やること |
|---|---|---|
| 氣 | 大脳新皮質(知性) | 自分の状態を前向きに保つ |
| 縁 | 大脳辺縁系(感情) | 信頼できる関係を育てる |
| 運 | 脳幹・本能 | 結果として向こうから来る |
この順番が、建設業の社長にとって実務的な意味を持ちます。受注(=運に見える部分)だけを追いかけて、目の前の協力会社や職人との関係(=縁)を雑に扱えば、順番が逆になります。人がいなければ受注は取れない業種です。
同書は人を見きわめる視点として「縁のABC分析」も挙げています。相手を「ツキ」「運」「恩感力(受けた恩を感じ、感謝する力)」の3つで見て、A・B・Cに分ける考え方です。協力会社の選定を、価格だけでなくこの軸でも見る。建設業の社長にとっては、そのまま使える視点だと考えます。
そのうえで同書は、経営者に必要な力として「知・徳・胆」の3つを挙げています。知は戦略と分析、徳は人望、胆は決断する度胸です。3つがそろって初めて機能する、という整理です。
そもそも、社長のメンタル負荷は減らせます
ここまでは受け止め方の話でした。ここからは、負荷そのものを減らす話です。当社が建設業の支援で使っている統合最適化は、人材育成・DX推進・収益改善の3つを同時に動かす考え方です。この3つは、社長のメンタル負荷にそれぞれ別の効き方をします。

人材育成の面から。判断が社長ひとりに集まる状態は、それ自体が負荷です。現場代理人が自分で判断できる範囲を決めて広げていけば、社長に上がってくる判断の数が物理的に減ります。メンタルの問題に見えていたものの一部は、実は業務分担の問題です。
DX推進の面から。不安の多くは「分からない」から来ます。原価が今どうなっているか、工程がどこで詰まっているかが見えないまま考えると、頭の中で最悪の想定を組み立ててしまいます。数字が見える状態は、それだけで不安を減らします。
収益改善の面から。赤字工事は、完了してから分かると打つ手がありません。早期に検知できれば、まだ交渉も工程変更もできます。手が打てる状態と打てない状態では、同じ赤字でも社長にかかる重さが違います。
3つは連動します。数字が見えるから任せる範囲を決められ、任せられるから社長の判断が減り、判断が減るから重要な決断に集中できる。どれか1つだけでは続きません。
よくある質問
Q. 3秒ルールは、本当に3秒でできるものですか。
A. いきなり本番ではできない、というのが同書の立場です。日常の小さな場面から動作と言葉をセットで練習しておくことが条件として挙げられています。
Q. 社長もストレスチェックを受けられますか。
A. 制度上の対象は労働者です。役員は原則として対象外になります。ただし事業場の判断で任意に実施することは妨げられていません。詳細は実施前に労働基準監督署または産業医にご確認ください。
Q. 2028年4月まで、何もしなくてよいですか。
A. 施行日から1年以内の実施が必要になるため、直前に始めると準備が間に合わない可能性があります。厚生労働省が2026年2月に小規模事業場向けのマニュアルを公表しているので、先に目を通しておくことをおすすめします。
Q. 気合いや根性では、やはりだめですか。
A. 続きません。同書も、精神論ではなく脳の反応を扱う手順として説明しています。加えて、業務の設計そのものを変えて負荷を減らすほうが、確実で再現性があります。
まとめ|今週やる3つ
1つ目。切り替えの動作と言葉を1組だけ決めてください。「指を鳴らして、よし次」で構いません。決めておかないと、その場では出てきません。
2つ目。自社の従業員数を数えて、2028年4月の義務化に当たるか確認してください。50人未満なら対象になります。
3つ目。今週、社長に上がってきた判断を数えてください。そのうち何件が現場で決められたかを見れば、減らせる負荷が具体的に見えます。
メンタルの強さは、生まれつきの性格ではありません。切り替える手順を持っているか、負荷が集まらない仕組みになっているか。どちらも、あとから設計できるものです。
出典
- 労働者数50人未満の小規模事業者の方(厚生労働省/2026年9月5日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70761.html
- 令和10年4月1日から労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます(厚生労働省 滋賀労働局/2026年9月5日閲覧)https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/news_topics/newpage_00014.html
- ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策(厚生労働省/2026年9月5日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
- 労働安全衛生法(e-Gov 法令検索/2026年9月5日閲覧)https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 参考資料集 令和8年4月3日(国土交通省 不動産・建設経済局/2026年9月5日閲覧)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf
- 西田文郎『面白いほど成功する 運の大原則 「突き抜ける人」の脳の使い方』清談社Publico

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。あわせて建設業の人事評価制度|CCUSの4レベルを等級表の背骨にする・大福帳に学ぶデータの置き方|AIに読ませる前に決める3つ・建設業の災害時応援協定|結ぶ前に決める3つと経審W3の20点もどうぞ。
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