相見積もりに出しました。仕様はほぼ同じです。それなのに、他社より高いという一点だけで落ちました。
このとき多くの会社が考えるのは「次はもう少し下げよう」です。それを続けた先にあるのは、利益の出ない現場と、値下げが前提の関係です。
問題は金額ではありません。比べ方を相手に任せていることです。金額しか書いていない見積書を出せば、金額でしか比べられません。逆に言えば、比べる軸を先に渡せば、金額だけで判断されにくくなります。
しかも建設業の見積書は、書き方の一部が法律で決まっています。2025年12月12日に改正建設業法が完全施行され、見積りのルールは以前より具体的になりました。知らずに出していると、根拠を示せないだけでなく、法令の側から不利になります。

「安いほう」と言われるのは、比べ方を渡していないから
発注者の立場になってみます。3社から見積書が届きました。中身はこうです(説明のために作った架空の例で、実在の案件ではありません)。
| A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|
| 表記 | 「〇〇工事一式 850万円」 | 「〇〇工事一式 790万円」 | 「〇〇工事一式 810万円」 |
| 内訳 | なし | なし | なし |
| 条件 | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
この3枚から読み取れる違いは、金額しかありません。だからB社が選ばれます。発注者が価格しか見ていないのではなく、価格しか書かれていないから、価格で選ぶしかないのです。
ここで多くの会社が「うちは丁寧にやっているのに」と思います。その丁寧さは、見積書のどこにも書かれていません。書いていないものは、無いのと同じです。
見積書には、法律で決まっている部分がある
建設業法第20条は「建設工事の見積り等」という条文です(本記事の条文はすべて2026年9月時点で確認しています)。努力義務と、禁止と、義務が混ざっています。ここを分けて理解すると、何を書くべきかがはっきりします。

① 内訳と日数を書く(努力義務)
建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費……その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した建設工事の見積書……を作成するよう努めなければならない。
(建設業法 第20条第1項)
材料費・労務費・不可欠な経費の内訳に加えて、工程ごとの日数まで書くことが求められています。
このうち2024年の改正で新しく入ったのは「材料費等」の考え方のほうです。工程ごとの日数の記載は、それ以前の条文にもありました。改正で加わった部分と、もともとあった部分は分けて理解してください(国土交通省の改正解説)。
② 労務費を著しく下回ってはいけない(禁止)
材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであつてはならない。(建設業法 第20条第2項)
これは努力義務ではありません。
ただし、条文が禁じているのは「著しく下回る」場合です。労務費を1円でも下げたら違反、という意味ではありません。
基準になるのは「通常必要と認められる材料費等の額」です。安く見せるために、そこを大きく割り込ませた見積書が条文に反します。
③ 請求されたら交付する(義務)
建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。(建設業法 第20条第4項)
④ 注文者は、その内訳を考慮するよう努める
同じ第4項の前段が、注文者の側を縛っています。見積書は「出す側」だけの書類ではありません。
見積期間は、法律で日数が決まっている
「明日までに出して」と言われたことがある会社は多いはずです。
これが通るかどうかは、工事の予定価格で変わります。法律は、予定価格に応じた日数を注文者に義務づけているからです。
建設工事の注文者は……建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な期間として政令で定める期間を設けなければならない。(建設業法 第20条第3項)
その政令が、建設業法施行令第5条の9です。

| 工事1件の予定価格 | 見積期間 |
|---|---|
| 500万円未満 | 1日以上 |
| 500万円以上 5,000万円未満 | 10日以上 |
| 5,000万円以上 | 15日以上 |
ただし書きで、やむを得ない事情があるときは、10日と15日の区分について5日以内に限り短縮できると定められています。逆に言えば、5,000万円の工事で「3日で出して」は、短縮の限度を超えています。
この日数を知っていること自体が、交渉材料になります。「施行令の見積期間が10日以上なので、その前提でお出しします」と言えば、急かされて根拠の薄い数字を出す事故が減ります。工期そのものの妥当性は適正工期とは|短い工期は受けた側も違反になるで扱っています。
一式計上をやめる
内訳を書くと言っても、細かすぎると読まれません。発注者が判断できる粒度にします。

数量と単価に分けるだけで、比較の軸が3つに増えます。数量が違うのか、単価が違うのか、経費の見方が違うのか。他社より高い場合も、どこが高いのかを相手が特定できるようになります。特定できれば、そこだけを協議できます。
現場管理費と一般管理費を「一式」に隠さないでください。ここを内訳から外して単価に溶かすと、値切られたときに何を削ったのか自社でも分からなくなります。受注後にこの内訳がそのまま原価管理につながる形にしておくと、実行予算を作り直す手間が消えます。
単価の出どころを書く
内訳の次は、その数字がどこから来たかです。「うちの経験値です」では根拠になりません。

2025年12月2日、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成し、その実施を勧告しました。改正建設業法は2025年12月12日に完全施行されています。この改正で入ったのが次の枠組みです。
ここは条文を分けて理解してください。禁止しているのは第20条第2項です。
前項の場合において、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであつてはならない。(建設業法 第20条第2項)
この禁止に、金額の下限はありません。小さな工事でも対象です。基準の中身は国土交通省の特設サイトで公開されています。
そして発注者に対する勧告と公表は、禁止とは別の項・条文に置かれています。
工期は第19条の6、労務費等の変更要求は第20条第7項・第8項です。混ざりやすいので、表にします。
| 条文 | 対象になる違反 | できること | 金額の下限 |
|---|---|---|---|
| 第19条の6第1項 | 第19条の3第1項(不当に低い請負代金)・第19条の4 | 勧告 | なし |
| 第19条の6第2項 | 第19条の5第1項(著しく短い工期) | 勧告 | 500万円(建築一式は1,500万円)※施行令第5条の8 |
| 第19条の6第3項 | 第2項の勧告に従わないとき | 公表 | — |
| 第20条第7項 | 第20条第6項(労務費等を著しく下回る変更の要求) | 勧告 | 500万円(建築一式は1,500万円)※施行令第6条の2 |
| 第20条第8項 | 第7項の勧告に従わないとき | 公表(第19条の6第3項を準用) | — |
気をつけていただきたいのは2点です。ひとつは、公表は自動ではないこと。勧告を受けて、それに従わなかったときにはじめて公表できます。もうひとつは、「500万円・建築一式1,500万円」という金額が、どこにかかるのかです。
禁止のほうに、金額の線引きはありません。20条2項も6項も、金額の大小に関係なく効きます。1件30万円の工事でも、著しく下回れば条文に反します。
金額の線が引かれているのは、勧告のほうです。そして、その線は工期の話にも、労務費の話にも、どちらにもあります。
根拠になる条文と政令が別なだけで、金額はどちらも同じです。
工期のほうは19条の6第2項と施行令5条の8。労務費などの変更を求めた場合は20条7項と施行令6条の2です。
「500万円は工期の話だけ」と説明しているものを見かけますが、正確ではありません。
ここは、こう覚えておくといいと思います。やってはいけない、というところに金額の線はありません。国や県が発注者に対して「あらためなさい」と言えるかどうか、そこではじめて金額が出てきます。そういう分かれ方をしています。
いずれにしても、労務費を叩くことは、当事者どうしの交渉ごとでは済まなくなりました。見積書に労務費の根拠を書いておくことは、自社を守るための具体的な手段になります。
| 費目 | 書く根拠 |
|---|---|
| 労務費 | 労務費の基準・自社の実績歩掛〈ぶがかり。1単位の作業に必要な人数と時間の目安〉(人工数 × 日額) |
| 材料費 | 仕入見積の日付と有効期限 |
| 経費 | 工期に対する率、または実費 |
日付を入れてください。「2026年9月時点の仕入価格による」の一行があるだけで、次の章の話につながります。
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条件と除外を、金額の前に書く
トラブルは、金額そのものより「これは入っていると思った」から起きることが多いです。(当社が相談を受けてきた範囲での実感で、割合を数えた統計ではありません。)見積書の1枚目、金額の上に置きます。

除外を書くのは、逃げではありません。発注者にとっても、あとから追加の請求が出るより、先にわかるほうがありがたいはずです。「見積りが安く見えるように、あえて書かない」会社と差がつくのは、この1枚です。
有効期限と、資材が上がったときの取り決め
見積書に有効期限を書いていない会社が、いまだにあります。資材価格が動く前提の時代に、期限のない見積書は自社を縛るだけです。
そして2024年の改正で、資材高騰への対応が条文に入りました。
建設業者は、その請け負う建設工事について、主要な資材の供給の著しい減少、資材の価格の高騰その他の工期又は請負代金の額に影響を及ぼす……事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに……注文者に対して、その旨を……通知しなければならない。
(建設業法 第20条の2第2項)
同条第3項は、協議を申し出られる条件を定めています。
通知しておいたその事象が、契約後に実際に発生したとき。そのときに、工期・工事内容・請負代金の変更について協議を申し出ることができます。
通知しただけでは足りません。事象が起きたことが条件です。
第4項は注文者の側です。申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に応ずるよう努めなければならないとされています。「努めなければならない」なので、応じる義務そのものではありません。それでも、通知しておくかどうかで立場は変わります。
順番が決まっているということです。契約の前に伝えていなければ、あとから言い出しても弱くなります。見積書の段階で、こう書いておくのは、この考え方に沿った実務です。
「鋼材価格の変動が見込まれるため、変動時は協議を申し入れます」。
ただし、この一文だけで第20条の2第2項の通知を満たすとは限りません。条文は、事象の状況を把握するために必要な情報を併せて伝えることを求めており、通知の方法も国土交通省令で定められています。
正式な通知として出すなら、省令の定めに沿った形にしてください。契約書側の条項はスライド条項とは|資材高騰は交渉ではなく請求で通す3つの条項に整理しています。支払方法の側は建設業の手形払いにまとめています。
比較のされ方を、自分で設計する
最後に、根拠を作ったうえでの見せ方です。
① 1案ではなく、3案で出す
| 標準案 | 仕様を落とした案 | 仕様を上げた案 | |
|---|---|---|---|
| 金額 | 850万円 | 790万円 | 940万円 |
| 違い | — | 内装グレードを下げる | 工期を2週間短縮 |
同じ会社の中に価格差を作ると、比較の土俵が「他社と自社」から「自社の案の中」に移ります。そして安い案があることで、「高い会社」という印象そのものが消えます。
② 金額の隣に、工期と体制を書く
工期が2週間短いことに価値がある発注者は必ずいます。書いていなければ、その価値は伝わりません。公共工事であれば、経営事項審査の評価につながる体制も、そのまま説明材料になります。
③ 質問を1つ用意する
「今回、価格・工期・仕上がりのどれを最優先されますか」。この一行を見積書の送付状に入れると、相手の判断軸が返ってきます。次の見積りから、外さなくなります。
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見積書を、人から仕組みへ
見積りが属人化している会社は多いはずです。ベテランの頭のなかに歩掛と単価があって、その人が忙しいと見積りが出てきません。
統合最適化メソッド(人材育成 × DX推進 × 収益改善)で整理します。

人材育成 — 歩掛と単価を、表にする
表にすると、若手が一次案を作れるようになります。ベテランは確認にまわればよくなります。教える時間が減り、出せる件数が増えます。
DX推進 — ひな形に、欄を作っておく
見積書のひな形に、条件・除外・有効期限・根拠の欄を最初から入れておきます。書き忘れが構造的に消えます。過去の見積りと実績原価を並べて残せば、次の歩掛が実測から出ます。
収益改善 — 失注しても、情報が残る
内訳のある見積りは、失注しても情報が残ります。
ただし、自社の見積書だけを見ても、どの費目で負けたかはわかりません。競合の内訳も、発注者が何を見て選んだかも、こちらには見えないからです。
内訳を残す意味は、次に聞ける形になることにあります。「どのあたりが高かったですか」と費目を挙げて聞ければ、答えが返ってくることがあります。
一式で出していると、その質問すらできません。
まとめ
- 「安いほう」と言われるのは、比べ方を相手に任せているから
- 建設業法第20条は、内訳と工程ごとの日数の記載(努力義務)、労務費を著しく下回ることの禁止、請求時の交付(義務)を定めている
- 見積期間は施行令第5条の9で1日/10日/15日以上。短縮はやむを得ない場合に5日以内まで
- 2025年12月12日に改正建設業法が完全施行。著しく低い労務費での見積りや変更依頼は禁止(禁止に金額の下限はない)
- 勧告には金額の要件がある。工期は19条の6第2項+施行令5条の8、労務費等の変更要求は20条7項+施行令6条の2。どちらも500万円・建築一式1,500万円
- 一式計上をやめ、数量 × 単価に分ける。現場管理費と一般管理費を隠さない
- 条件と除外を、金額より前に書く
- 有効期限を書き、資材高騰は契約前に通知しておく(第20条の2)
- 3案で出し、金額の隣に工期と体制を書く
見積書は、価格を伝える紙ではありません。判断の材料を渡す紙です。材料を渡さなければ、価格だけで判断されます。
いちどに全部を変えなくて大丈夫です。つぎに出す1枚から、条件と除外を金額より前に書く。ここだけでも、聞かれ方が変わります。
出典
条文は2026年9月8日にe-Gov法令検索で取得し、施行2025年12月12日版で確かめました。
- 建設業法(e-Gov法令検索)
- 建設業法施行令(e-Gov法令検索)
- 労務費に関する基準(国土交通省)
- 改正建設業法「労務費の基準」特設サイト(国土交通省)
- 建設業法等改正法が完全施行されます(国土交通省 報道発表)
- 建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について(国土交通省)
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。
建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
あわせてスライド条項とは|資材高騰は交渉ではなく請求で通す3つの条項・適正工期とは|短い工期は受けた側も違反になるもどうぞ。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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