公共工事の営業で、いちばん多い誤解があります。「がんばって営業すれば、大きい工事も取れる」というものです。
取れません。出られる工事の金額は、営業を始める前に決まっています。決めているのは点数です。経営事項審査の点と、発注者が付ける技術評価の点。この2つを足した総合点数で等級が決まり、等級ごとに「出られる工事の予定価格の帯」が決まっています。
結論|営業の前に、出られる土俵が決まっています
はじめに、いちばん大事なところだけ書きます。
公共工事に出るには、2つの審査を順番に通ります。1つめが経審で、これは許可行政庁に申請します。2つめが競争参加資格審査で、これは発注者に申請します。順番が決まっていて、飛ばせません。
そもそも、経審は受けるかどうかを選べる制度ではありません。建設業法に、こう書かれています。公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者は、経営事項審査を受けなければならない(第27条の23第1項)。
そして資格審査では、こう計算されます。
総合点数 = 客観的な点(経審の点)+ 主観的な点(技術評価点など)

この総合点数で等級(格付け)が決まり、名簿に載ります。等級が決まると、入札に出られる工事の予定価格の帯が決まります。ここが本題です。
ここまでを、いちど言いかえてみます。お店にたとえると、こういうことです。まず、おおもとの帳簿を見てもらって、そのお店がどれくらいの体力なのかをはかってもらう。これが経審です。つぎに、その数字をもってお客さまのところへ行き、「うちは、このくらいの大きさの仕事までまかせてもらえますか」とたずねる。これが資格審査です。どちらか片方だけでは、いくらがんばっても、そもそも売り場に立たせてもらえません。
そして、ここがいちばん大きなちがいです。ふつうの商売なら、売り場に立ってから、うでの見せどころがあります。ところが公共工事は、売り場のどこに立つのかが、立つ前にもう決まっているのです。ですから、営業のうまさでひっくり返せるものと、そうでないものを、はじめに分けておくほうがいい。ここを分けずに走ると、取れない工事を追いかけたまま、一年が終わってしまいます。
等級の壁は、そのまま金額の壁です
言葉で説明するより、実数を見るほうが早いです。国土交通省 関東地方整備局が公表している、令和7・8年度の等級区分をそのまま載せます。
| 等級 | 総合点数 | 出られる工事の予定価格 |
|---|---|---|
| A | 3,040点以上 | 8億2,000万円以上 |
| B | 2,630点以上 3,040点未満 | 3億4,000万円以上 8億2,000万円未満 |
| C | 1,660点以上 2,630点未満 | 7,000万円以上 3億4,000万円未満 |
| D | 1,660点未満 | 7,000万円未満 |

この表は、上から下へ読むより、右から左へ読むほうが分かりやすいと思います。「いくらの工事に出たいか」を先に決めて、そこから「何点いるか」をさかのぼって読む。そういう表です。
CとBの境目は2,630点で、そこに3億4,000万円の壁があります。C等級のままなら、3億4,000万円以上の工事は、どれだけ営業しても入札に出られません。出られないものは、受注できません。
BとAの境目は3,040点で、差は410点です。この410点を積むかどうかで、8億2,000万円以上の工事に手が届くかが変わります。
工種によって、壁の高さが違います
同じ関東地方整備局でも、工種ごとに点数の線が違います。自社の主戦場がどこかで、見るべき数字が変わります。
| 工種 | A | B | C |
|---|---|---|---|
| 一般土木工事 | 3,040点/8億2,000万円〜 | 2,630点/3億4,000万円〜 | 1,660点/7,000万円〜 |
| 建築工事 | 2,950点/8億2,000万円〜 | 2,180点/3億4,000万円〜 | 1,550点/7,000万円〜 |
| アスファルト舗装工事 | 2,450点/1億4,000万円〜 | 1,730点/6,000万円〜 | — |
| 電気設備工事 | 2,360点/2億3,000万円〜 | 1,560点/6,000万円〜 | — |
| 暖冷房衛生設備工事 | 2,210点/2億3,000万円〜 | 1,140点/6,000万円〜 | — |
| 造園工事 | 1,100点/3,000万円〜 | — | — |

造園工事はA・Bの2段しかなく、線は1,100点です。一般土木の3,040点と比べると、同じ「A等級」でも意味がまったく違います。自社の工種の線を知らずに「Aを目指す」と言っても、話が始まりません。
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技術評価点が0点だと、経審が高くても最下位です

ここは、見落とすと痛い注記です。関東地方整備局の公表資料に、こう書かれています。
一般土木工事、アスファルト舗装工事、造園工事においては、技術評価点数が0点の場合、下記の区分に関係なく最下位等級で認定されます
経審の点をどれだけ積んでも、技術評価点が0点なら、区分に関係なく最下位等級になります。技術評価点は、その発注者での工事実績や成績評定から付きます。つまり「その発注者の工事を、まだ1件もやっていない会社」は、そこから始まるということです。
ここは、少し理不尽に見えるところだと思います。会社としてしっかりやってきて、経審の点が積み上がっていても、その発注者から見れば「まだ知らない相手」だということです。だから、まず知ってもらうところから始めるしかありません。
これは営業の順番を変えます。いきなり大きい工事を狙うのではなく、小さくても1件やって、成績を残して、技術評価点を作る。その順番でしか上がれない構造になっています。
申請は2年に1回。逃すと2年待ちです
資格審査の申請は、2年に1回の定期受付です。国土交通省の地方整備局等では、令和7・8年度の資格が現在の期になります。
ここで、経審との時間の関係が効いてきます。資格審査に使われる経営事項評価点数は、申請の時点で有効な経審の結果です。経審は決算日を審査基準日として受けるので、決算日までの1年間の判断が、2年ぶんの土俵を決めます。
経審の点そのものをどう動かすかは、経営事項審査とは|点は決算日までに決まる2026年改正の3つに書きました。本記事は、その点が「どの金額の工事に出られるか」に変わるところの話です。

営業判断に訳しなおす|①いまの等級を確認する
最初にやることは、自社がいま何等級かを確認することです。有資格者名簿は発注者が公表しています。思っている等級と、実際の等級が違う会社は、めずらしくありません。
そのうえで、次の等級までの点差を出してください。「あと何点で、いくらの工事に出られるか」——これが分かると、経審の1点の意味が変わります。あと50点なら現実的な話ですし、あと600点なら今期の目標にはなりません。
むずかしく考えなくてかまいません。まずは、いまの自社の点数と、すぐ上の線までのへだたりを、紙に1行だけ書いてみてください。「いまの点」と「つぎの線」と「そのへだたり」。この3つだけです。ここがはっきりすると、あと何をすればいいのかが、ひとりでに見えてきます。へだたりが小さいのなら、来年の決算のやりかたを少し変えるだけで、こえられることもあります。ぎゃくに、大きくひらいているのなら、いまの土俵で勝てる仕事を、数多く確実にこなすほうがさきに効いてきます。どちらがいいという話ではありません。どちらの手をとるのかを決めないまま走るのが、いちばんもったいないのです。

営業判断に訳しなおす|②発注者ごとに土俵が違う
等級の線は、発注者ごとに決められています。本記事に載せたのは国土交通省 関東地方整備局の数字で、他の整備局、都道府県、市町村では、それぞれ別の線が引かれています。
だから「どの発注者を狙うか」は、営業の好みではなく、点数と線の組み合わせで決まります。同じ総合点数でも、A等級になる発注者と、C等級になる発注者があります。自社の点数がいちばん高く評価される発注者はどこか。これは調べれば分かる話です。
価格で勝ちにいかない考え方は建設業の差別化戦略|価格競争を抜け出す方法にまとめました。公共工事では、その前に「出られるかどうか」があります。

営業判断に訳しなおす|③点数を上げる手と、実績を作る手を分ける
総合点数は2つの足し算なので、打ち手も2つに分かれます。
- 客観点数(経審)を上げる:完成工事高、自己資本、技術職員の資格、制度への加入。決算日までの経営判断で動きます。
- 主観点数(技術評価)を上げる:その発注者での工事実績と、工事成績評定。1件ずつ積むしかありません。

この2つは、効き方も時間の掛かり方も違います。経審は決算日という締切がある代わりに、1年で動かせます。技術評価点は締切がない代わりに、工事を1件ずつ完成させて、良い成績をもらう以外に道がありません。
もうひとつ、よく聞かれることがあります。「うちのような小さな会社でも、上をねらえますか」というものです。ねらえます。ただし、すぐには変わりません。点数のもとになっているのは、これまで積み上げてきたものだからです。ひと月やふた月でどうにかなるものではなく、いちばん早くても、つぎの決算をまたぎます。だからこそ、2つを分けて持っておくほうがいいと思います。ひとつは、いま出せる工事のなかで取りきること。もうひとつは、何年かかけて線をこえにいくこと。この2つは、混ぜないほうがうまくいきます。
そして、良い成績をもらうために効くのが、現場の記録とデジタル化です。工事成績評定は、施工体制、出来形、品質、工程の管理状況を見ます。写真も書類も後追いで揃える現場と、その日のうちに残す現場では、同じ工事でも点が変わります。——人を育て、記録を仕組みにして、翌年の受注につなげる。当社が人材育成とDXと収益改善を分けて考えないのは、こういう場面で3つが1本になるためです。
自社がいま何等級で、次の等級まで何点かを一緒に確認する無料経営相談はこちら(毎月5社まで)。
よくある質問
Q. 経審を受けていれば、入札に出られますか。
出られません。経審は許可行政庁への申請で、入札に出るにはそのあとに発注者への資格審査の申請がいります。2つは別の手続きです。経審だけ受けて、資格審査を申請していない会社があります。
Q. 等級はどうやって上がりますか。
総合点数が、次の等級の線を超えることです。総合点数は経審の点と技術評価点の合計なので、どちらを上げても構いません。ただし技術評価点は、その発注者での実績と成績で決まるため、時間がかかります。
Q. 実績がない発注者には、出られませんか。
出られますが、一般土木・アスファルト舗装・造園では、技術評価点が0点だと最下位等級になります(関東地方整備局の場合)。まず小さい工事を1件取って、成績を残すところからです。
Q. 申請の時期を逃したら、どうなりますか。
定期受付は2年に1回です。逃すと次の期まで待つことになります。随時受付を設けている発注者もあるので、逃した場合はまず発注者に確認してください。
Q. 中小でも等級は上がりますか。
上がります。ただし、上がる速さは工種によって違います。造園工事は1,100点で最上位、暖冷房衛生設備工事は2,210点。一般土木の3,040点と比べれば、規模の小さい会社でも届く工種があります。自社の工種の線を見ることが先です。
まとめ|出られない工事は、営業の対象になりません
主張は1つです。公共工事の営業は、名簿に載った等級の中でしか成立しません。
だから、公共工事を増やしたい会社がまずやるべきことは、営業先を増やすことではありません。いまの等級を確認し、次の線までの点差を出し、その点差を「経審で埋めるのか、実績で埋めるのか」を決めることです。
点差が分かれば、決算日までに何をするかが決まります。そして決算日を過ぎると、その期はもう動かせません。営業の話に見えて、じつは決算の話です。
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参考にした一次資料
数値と条文は、2026年8月24日に公式資料で確かめています。
- 令和7・8年度関東地方整備局一般競争(指名競争)参加資格における等級区分別総合点数(国土交通省 関東地方整備局):6工種の等級と点数の線。
- 国土交通省地方整備局等 建設工事 競争参加資格審査申請書作成の手引き 令和7・8年度版(PDF):申請の区分と手続。
- 公共工事の競争参加資格審査の概要(国土交通省・PDF):2つの点を足して等級を決める仕組み。※同資料のP点の算式は作成当時のもので、いまの算式とは違います。
等級の線と予定価格の区分は、発注者ごと・年度ごとに異なります。実際の申請にあたっては、各発注者の最新の公表資料をご確認ください。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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