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スライド条項とは|資材高騰は交渉ではなく請求で通す3つの条項

スライド条項とは 資材高騰は請求で通す

資材が上がったとき、多くの会社が最初にやるのは「値上げのお願い」です。ところが公共工事では、お願いする前に、請求できる条項が契約書にもともと入っています。

そして2024年12月13日から、民間の工事でもルールが変わりました。契約書に「変更の方法」を書くことが法律で決まり、その条項を消すと建設業法違反になります。それでも請求は増えていません。理由は、条項を知らないからではありません。請求するときに要る記録が、現場に残っていないからです。

目次

結論|値上げ交渉の前に、請求のしかたが決まっています

はじめに、いちばん大事なところだけ書いておきます。むずかしい手続きの話ではありません。知っているかどうかと、そのための備えがあるかどうかだけの話です。

資材の高騰は、交渉ごとではなく、手続きで通す部分があります。公共工事標準請負契約約款の第25条には、賃金や物価が動いたときに請負代金の変更を請求できる、と書かれています。「お願いできる」ではなく「請求することができる」です。

先に、条番号について1つ断っておきます。本記事は約款の条番号で「第25条」と書きますが、国土交通省の直轄工事で使われる工事請負契約書では、現行は第26条です。国交省の技術調査のページにも、運用マニュアルの表題に「第25条」と書いたうえで「※現行は第26条」と注記されています。お手元の契約書を開いて番号が合わないときは、この違いです。単品スライドなら第26条第5項にあたります。

約款第25条と工事請負契約書第26条の対応表。単品スライドは第26条第5項
契約書を開いて番号が合わないのは、書面が違うからです。中身は同じ条項です。

しかも、その請求は受注者の側からも出せます。約款は「甲又は乙は」と書いてあり、甲が発注者、乙が受注者です。発注者が言い出すのを待つ条項ではありません。

ではなぜ使われていないのか。この記事の主張は1つです。使えていない原因は、条項の知識ではなく、日付と数量の記録にあります。請求には「いつの価格が、いつの価格に対して、どれだけ動いたか」が要ります。そこが紙のままの会社は、条項を知っていても請求に持ち込めません。

スライド条項は3つあります|全体・単品・インフレ

まず、全体像を1つの表にします。3つは別の条項で、要件も計算も違います。

全体スライド 単品スライド インフレスライド
条項 第25条 第1項〜第4項 第25条 第5項 第25条 第6項
何が動いたとき 賃金水準または物価水準(価格の全般) 主要な工事材料の価格(特定の品目) 急激なインフレーションまたはデフレーション
使える工事 工期が12か月を超える工事 すべての工事 すべての工事
いつから 契約の日から12か月を経過した後 期間の定めなし 期間の定めなし
受注者の負担 変動前残工事代金額の1000分の15(1.5%) 対象工事費の1.0% 協議による
変更される額 差額 − 残工事代金額×1.5% 変動額 − 対象工事額×1.0% 甲乙の協議で定める
出典:公共工事標準請負契約約款 第25条および国土交通省「スライド条項について(契約約款第25条)」。
スライド条項3種の比較 全体1.5%・単品1.0%・インフレは協議
3つは別の条項。動いたものが違えば、使う条項も計算も違う。

表の下2行が、いちばん誤解されるところです。上がった分の全額が戻るわけではありません。一定の割合までは受注者が持ち、それを超えた分だけが変更されます。

約款はその考え方を、はっきり書いています。価格の変動が通常の範囲なら請負契約なのでリスクは受注者が負う。通常の範囲を超えるなら、受注者だけに負わせるのは適切でない。——この線引きが、1.5%や1.0%という数字の正体です。

①全体スライド|12か月を超える工事の1.5%

使えるのは、工期が長い工事です。まず、契約の日から12か月がたっていること。そのうえで、賃金や物価が動いたために請負代金が見合わなくなった、と認めたとき。この2つがそろえば、相手方に変更を請求できます。

計算は残っている工事が対象です。すでに終わった出来形の分は関係ありません。請求した日を基準にして、その時点の残工事の代金と、動いた後の賃金や物価で計算しなおした残工事の代金を比べます。その差額のうち、変動前の残工事代金額の1000分の15を超える額が、変更の対象になります。

全体スライドの計算 残工事代金額Bの1.5%を超えた分が変更される
対象は残っている工事。終わった出来形は関係ない。

1回で終わりではありません。第4項に、変更を行った後に再度請求できると書かれています。その場合の起算日は、契約の日ではなく、前回の変更の基準にした日です。長い工事では、ここを知っているかどうかで結果が変わります。

②単品スライド|資材1品目で1.0%を超えたとき

こちらは工期の長さを問いません。特別な要因により、工期の中で主要な工事材料の国内価格に著しい変動が生じ、請負代金が不適当になったときに請求できます。単年度の工事のように全体スライドが使えない工事でも使えます。

計算は対象工事費の1.0%が線です。主要な材料の変動額が、変動前の対象工事額の1.0%を超えたときに、超えた分が変更の対象になります。材料費だけを見る計算で、労務費や経費は入りません。

単品スライドの計算 対象工事額Cの1.0%を超えた分が変更される
材料費だけを見る計算。労務費や経費は入らない。

全体スライドとの併用については、国土交通省の資料に全体スライドの適用期間における負担はないと書かれています。同じ期間で二重に負担を求められる形にはなっていません。

③インフレスライド|予期できない急激な変動のとき

3つめは、めったに出てこない条項です。使えるのは、予期することのできない特別な事情があったときに限られます。そのうえで、工期の中で国内に急激なインフレーションまたはデフレーションが起き、請負代金が著しく見合わなくなったこと。ここまでそろって、はじめて請求できます。

ここには割合の定めがありません。変更する額は甲乙の協議で決めます。前2つのように計算式で出るものではなく、あくまで例外の扱いです。日常の資材高騰でここを持ち出すのは、筋が違います。

インフレスライドの3要件と、変更額が協議で決まること
3つがそろって、はじめて請求できます。割合の定めはなく、額は協議で決まります。

期限が2つあります|7日と14日

ここは実務でいちばん効く話なので、独立させて書きます。

請求したあと、いつ協議を始めるかは発注者が決めて通知します。ただし第8項に、こう書かれています。

甲が第1項、第5項又は第6項の請求を行った日又は受けた日から7日以内に協議開始の日を通知しない場合には、乙は、協議開始の日を定め、甲に通知することができる

スライド条項の期限は7日と14日の2つ
7日を過ぎたら、受注者の側で協議開始の日を決めて通知できる。

7日を過ぎたら、受注者の側で協議開始の日を決めて通知できます。止まったまま待つ必要はありません。ここを知らないまま、ただ返事を待っているだけになっている——そういう会社が、とても多いです。

もう1つが14日です。協議を始めてから14日たってもまとまらないとき、発注者が定めて受注者に通知する。約款はそう書いています(注記で、原則14日と記入することになっています)。つまり、話し合いが長引いても、宙に浮いたままにはならない作りです。ただし、決めるのは発注者の側です。だからこそ、こちらの数字を先に用意しておくかどうかで結果が変わります。

2024年12月13日から、民間工事のルールも変わりました

ここまでは公共工事の約款の話です。では、民間の工事はどうなるのか。改正建設業法が2024年(令和6年)6月14日に公布されました。そのうち、価格転嫁に関する規定は2024年12月13日から施行されています。もう1年半以上たっています。

変わったのは3つです。うち2つは契約の前、1つは契約の後です。

いつ 条文 内容
① 契約の前 建設業法 第19条 契約書に変更の方法を書く。価格等の変動による工事内容や請負代金の変更と、その額の算定方法を定める
② 契約の前 第20条の2 第2項 受注者は、資材高騰などの「おそれ情報」を注文者に通知する
③ 契約の後 第20条の2 第3項・第4項 受注者は変更協議を申し出ることができ、注文者は誠実に応じる努力義務。公共発注者は義務
出典:国土交通省「建設工事の契約前後のルールが変わります!」(令和6年12月)および改正建設業法(令和6年法律第49号)。
改正建設業法の3つの新ルール 契約前2つと契約後1つ
2つは契約の前、1つは契約の後。順番に意味がある。

①で押さえておくべきは、消せなくなったということです。国土交通省のリーフレットには「変更条項の削除は法律違反!」と書かれています。これまでは、力関係で変更条項が落とされることがありました。今後は、落とすこと自体が違反になります。

②は、見落とされやすい義務です。資材高騰が生じるおそれがあると認めるときは、契約を結ぶまでに受注者から注文者へ通知することになっています。裏付けの資料としては、報道記事や資材業者の発表、公的機関や業界団体の統計が挙げられています。

ここが実務の分かれ目です。契約の前に出しておかないと、後から請求しにくくなります。「上がると思っていたなら、なぜ言わなかったのか」と聞かれる形になるためです。おそれ情報の通知は、義務であると同時に、後で請求するための布石です。

民間工事での価格交渉の進め方そのものは建設業の価格転嫁|利益を守る価格交渉5ステップにまとめました。本記事は、その手前にある「契約書と条項で決まっている部分」の話です。

なぜ請求できないのか|知識ではなく、記録です

条項も法律も整いました。それでも請求は増えていません。当社が現場で見てきた範囲では、詰まる場所はいつも同じ3つです。

  • 契約書に変更条項が入っていない——2024年12月13日より前の契約が、そのまま残っている。
  • おそれ情報を出していない——上がると分かっていたのに、契約前に文書にしていない。
  • いつ、いくつ、いくらで買ったかが分からない——請求の計算に必要な数字が出てこない。
スライド条項の請求が止まる3か所。本丸は日付つきの価格と数量の記録
詰まるのはいつも同じ3か所。本丸は3つめ、日付つきの記録です。

3つめが本丸です。スライド条項の計算は、どれも「変動前」と「変動後」を比べる形です。比べるためには、変動前の価格と数量が、日付つきで残っていなければなりません。

ところが、資材の発注と受入れが紙の伝票と電話で回っている現場では、この数字が集まりません。集めようとすると、過去1年分の伝票を人が数えることになります。それで数週間かかり、その間に工期が終わります。

つまりこれは、交渉力の問題でも、法律の知識の問題でもありません。記録の問題です。原価の記録をどう作るかは建設業の原価管理|改正建設業法に対応する5つの実務で扱っています。

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経営判断に訳しなおす|①契約書を点検する

最初にやることは、いま手元にある契約書を見ることです。公共工事なら約款どおりのはずですが、民間の工事は、まちまちです。

見るところは1つだけです。価格が動いたときに、どう変更するかが書いてあるか。書いていなければ、2024年12月13日以降の契約では法律に沿っていません。次の契約から直せば済む話なので、揉める前に確認しておくほうが早いです。

経営判断に訳しなおす|②おそれ情報を、型にする

「おそれ情報」は、その都度考えて書くものにしないでください。毎回ゼロから作ると、忙しい時期に飛びます。

型にしてしまうのが早いです。資材の名前、いま把握している価格、上がると見ている根拠(記事や統計の出どころ)、影響しそうな工種。この4つを並べた1枚を作り、見積書に添えるところまでを決まりにします。

おそれ情報は4項目の型にして見積書に添える
毎回ゼロから書かない。4項目の型にして、見積書に添えるところまでを決まりにする。

これは事務を増やす話に見えますが、逆です。型があれば5分で済み、無ければ後から数日かけて掘り返すことになります。事務の負担をどこに置くかという判断で、前に置くほうが軽くなります。この考え方は建設業のBPO|事務を外に出して現場に人を戻す順番とも重なります。

経営判断に訳しなおす|③日付と数量を、その日のうちに残す

ここがDXの話になります。スライド条項で要るのは、立派な原価管理システムではありません。いつ・何を・いくつ・いくらで買ったかが、日付つきで後から引ける状態です。

紙の伝票を後でまとめて入力する運用では、これが作れません。入力が追いつかないからではなく、まとめて入力すると「いつの価格か」が消えるからです。日付が消えた数字は、比較の材料になりません。

あとでまとめて入力すると日付が消えて比較できない
まとめて入力すると「いつの価格か」が消える。日付が消えた数字は比較の材料にならない。

だから打ち手は、システムを買うことではなく、その日のうちに1行だけ残す運用を作ることです。写真1枚と数量でも構いません。後から人が数える作業を、前に1行ずつ置き直すという話です。やることは、それだけです。ただ、それをやっている会社とやっていない会社で、上がった分を取り返せるかどうかが分かれます。

そして、この記録は請求のためだけのものではありません。同じ数字が原価の把握にも、次の見積の精度にも効きます。人が減っている中で、数える仕事を後ろに溜めない。——当社が人材育成とDXと収益改善を分けて考えないのは、こういう場面で3つが同じ1本になるためです。人手の面からの打ち手は建設業の人手不足|原価を守る経営改善5施策にまとめています。

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よくある質問

Q. スライド条項は、民間の工事でも使えますか。

約款そのものは公共工事のものです。ただし民間の契約でも、公共工事標準請負契約約款を参考にして条項を入れることはできます。国土交通省も、契約書の作成には標準請負契約約款の活用をすすめています。加えて2024年12月13日からは、変更の方法を契約書に書くこと自体が建設業法で決まりました。

Q. 上がった分は、全額戻ってきますか。

戻りません。一定のところまでは、受注者が持つ決まりになっています。全体スライドなら変動前の残工事代金額の1.5%、単品スライドなら対象工事費の1.0%です。それを超えた分だけが変更されます。ふつうの範囲の値動きは請負契約のリスクとして受注者が負う、という考え方によるものです。

Q. 請求したのに、発注者が動いてくれません。

7日を過ぎたら、受注者の側で協議開始の日を決めて通知できます(約款第25条第8項)。待ち続ける必要はありません。民間工事についても、注文者は誠実に協議に応じる努力義務を負い、公共発注者は義務とされています。

Q. 契約書に変更条項がありません。

2024年12月13日以降の契約であれば、建設業法に沿っていない可能性があります。国土交通省のリーフレットにも、変更条項の削除は法律違反と明記されています。次の契約から直すのがいちばん現実的です。既存の契約は、覚書で足すことができます。

Q. 小さい会社でも請求できますか。

単品スライドには工期の条件がありません。単年度の工事でも使えます。規模ではなく、材料費の変動が対象工事費の1.0%を超えたかどうかで決まります。むしろ工事の数が少ない会社ほど、1件の影響が大きく出ます。

請求に持ち込める会社と持ち込めない会社の違いは記録
同じ値上がりでも、取り返せる会社と取り返せない会社に分かれる。違いは記録。

まとめ|請求できるかどうかは、契約の前に決まっています

ここまでを、ひとことにまとめます。

資材高騰は、交渉の前に手続きで通せる部分があります。公共工事なら約款第25条の3つの条項、民間工事なら2024年12月13日から施行された建設業法の3つの新ルールです。

請求できるかどうかは契約の前に決まる
3つとも、価格が動く前に済ませておく話。動いてからでは材料がそろわない。

そして、請求できるかどうかは、値上がりしてから決まるのではありません。契約書に変更条項が入っているか、契約前におそれ情報を出したか、日付つきの記録が残っているか。3つとも、価格が動く前に済ませておく話です。

去年と同じやり方のまま資材が上がれば、その分は自社の利益から出ていきます。条項は用意されています。使えるようにしておくかどうかだけです。

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参考にした一次資料

本文の条文と数値は、2026年8月24日にすべて公式の資料で確かめています。

条項の運用や対象資材は、発注者や年度によって異なります。実際の請求にあたっては、契約書の条文と発注者の運用をご確認ください。


佐藤 望 株式会社AppliBank代表取締役

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180/[email protected] へ。あわせて建設業の利益率はなぜ低いのか・建設業の経営相談もどうぞ。

本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。


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スライド条項とは 資材高騰は請求で通す

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