顧客管理を入れたのに、半年で誰も開かなくなった。建設業では、よく聞く話です。
原因は、たいてい機能ではありません。何を載せるかを決めないまま、動かし始めたことです。営業会社のかたちのまま使うと、建設会社の仕事は入りません。工事があり、工期があり、協力会社があり、原価があるからです。
この記事では、Zoho CRM に「工事」「協力会社」「原価」をどう載せるかを、項目のレベルまで書きます。製品の比較はしません。載せ方だけの話です。
使われなくなるCRMは、たいてい中身が空か、逆に別のもので埋まる
先に、身内の恥から書きます。
当社のCRMを開いてみたところ、見込み客として並んでいたのは、そのほとんどが当社に売り込みに来た会社でした。人材紹介、広告、SaaSの営業。買ってくれる相手ではありません。
さらに、そのすべてでステータスが空欄でした。誰も更新していなかったということです。取引先のほうも、業種の欄はほとんど埋まっていませんでした。建設業だけを絞り込むことすらできません。
これは珍しい話ではありません。入り口だけ作って、何を入れるかを決めなかったCRMは、こうなります。そして「使えないシステム」と呼ばれて閉じられます。悪いのは製品ではありません。

CRMが使われなくなる理由そのものは、建設業のCRMが使われない5つの理由と定着のさせ方に整理しています。この記事は、その先の「では何を載せるか」を書きます。
建設業の土台は3つ。工事・協力会社・原価
一般的なCRMは、顧客と商談の2つで作られています。建設業では、これでは足りません。3つ必要です。
| 載せるもの | なぜ要るか | どこで使うか |
|---|---|---|
| 工事 | 建設業は顧客ではなく工事の単位で動く。1社から複数の工事が出る | 進捗、工期、請負金額 |
| 協力会社 | 発注者と同じ台帳に混ぜると壊れる。許可や保険の期限がある | 発注、安全書類、法令確認 |
| 原価 | 受注できたかではなく、いくら残ったかで判断する | 見積と実績の差 |

この3つが入っていないCRMは、建設会社にとっては住所録です。開く理由がありません。
ここで、なぜ「顧客」ではなく「工事」なのかを、もう少しかみくだいておきます。
ものを売る会社であれば、お客さまが1人いて、そのお客さまが何回か買ってくれる、という形になります。だから顧客を中心に並べれば、だいたいのことは見えます。
ところが建設業は、そうなりません。同じ発注者から、まったく性質のちがう工事が同時に出ます。片方は来月に終わり、もう片方は来年まで続く。担当者もちがえば、利益の出かたもちがいます。発注者の名前で束ねてしまうと、この2つが1つに見えてしまいます。
そして、いちばん大きなちがいは工期です。ものを売る仕事には、売れた日しかありません。建設業には、始まる日と、終わる日と、その間の長い時間があります。この「間」を持てるかどうかが、建設業のCRMとそうでないCRMの分かれ目です。だから工事を単位にします。
工事・協力会社・原価の載せ方を自社の項目に落とすところまで、無料経営相談で一緒にやります(毎月5社まで)
① 工事をどう載せるか
Zoho CRM で営業の基本になるのは、見込み客・連絡先・取引先・商談の4つです。このうち「商談」を工事案件として使います。名前は商談のままで構いません。中身を建設業に合わせます。
入れる項目は、次のとおりです。
| 項目 | 中身 | 備考 |
|---|---|---|
| 工事名 | 現場で呼んでいる名前 | 正式名称と通称が違う場合は両方持つ |
| 工事番号 | 自社の管理番号 | 会計や工事台帳と同じ番号にする。ここがずれると後で合わない |
| 発注者 | 取引先とひもづける | 元請か施主かを区別する |
| 元請・下請の別 | どちらの立場か | 書類も義務も変わるため、必ず持つ |
| 工期 | 着工予定日と完工予定日 | 実績日は別の欄にする。予定と実績を同じ欄に上書きしない |
| 請負金額 | 税抜 | 変更契約が出たら履歴を残す |
| 現場所在地 | 都道府県まででも可 | 移動時間の判断に効く |
| 担当技術者 | 主任技術者・監理技術者 | 専任が要る工事かどうかの判定に使う |
ステージは、営業用のまま使わないでください。初期値は「見込み」「提案」「交渉」などになっていますが、建設業の流れは違います。引合、見積提出、受注、着工、施工中、完工、引渡、検収・入金。この8段階です。

ここを直さないと、現場の人が自分の仕事を選べません。選択肢に自分の状況がないシステムは、開かれなくなります。
② 協力会社をどう載せるか
いちばん壊れやすいのがここです。発注者と協力会社を同じ「取引先」に混ぜると、台帳として使えなくなります。当社の取引先で業種の欄すら埋まっていなかったのも、同じ理由です。区分を先に決めていませんでした。
混ざると、どうなるか。ひとつ例をあげます。
「今年おつきあいのある会社に、年賀のあいさつを出そう」と思って一覧を出すと、そこに協力会社も、仕入先も、営業に来た会社もぜんぶ並びます。仕分けに半日かかって、けっきょく去年の紙のリストを見ることになります。そうやって一度でも「使わなかった」経験ができると、次からは開かれません。
もうひとつ。協力会社に何かをお願いしたいとき、許可が生きているかどうかをその場で見たい。ところが一覧に発注者が混ざっていると、探すのに時間がかかります。急いでいるときほど、電話とファクスに戻ります。
取引先に「区分」の欄をひとつ足して、発注者・協力会社・その他を分けます。それだけで、絞り込みができるようになります。足すのは欄ひとつです。あとから足すより、はじめに足すほうがずっと楽です。

協力会社には、発注者には要らない項目が必要です。
| 項目 | なぜ要るか |
|---|---|
| 建設業許可の業種と番号 | 発注できる工事の範囲が決まる |
| 許可の有効期限 | 建設業の許可は5年ごとの更新です。切れていると発注できません |
| 社会保険の加入状況 | 未加入だと現場に入れない元請が多い |
| CCUS事業者ID | 現場のカードリーダーと連動する。持っていない会社は入場登録で止まる |
| グリーンサイト等の登録 | 元請が使っている場合、書類の出し方が変わる |
| 安全書類の提出状況 | 最新の提出日を持つ。毎回さがす時間がなくなる |
期限のある項目には、必ず通知を立ててください。許可の更新も、保険も、気づいたときには切れています。建設業許可の更新は、有効期間が満了する30日前までに申請する必要があります。つまり期限の当日に気づいても間に合いません。60日前に通知を立てておくのは、この30日の締切から逆算した数字です。Zoho CRM はワークフロールールで、日付の項目を起点にした通知を作れます。ここを自動にしておくと、台帳が生き続けます。
CCUS やグリーンサイトとの関係は、建設業のBCP|発災72時間の実務と事業継続力認定で触れている非常時の連絡網とも重なります。同じ台帳を、平時と非常時の両方で使えます。
③ 原価をどう載せるか。CRMに全部を入れない
ここは、やりすぎないことが大事です。
CRMに原価管理を全部入れようとすると、必ず失敗します。入力が重くなり、会計と数字が合わなくなり、どちらが正なのか分からなくなるからです。
役割を分けます。
| どこに置くか | 持つ数字 |
|---|---|
| CRM(商談) | 見積原価、見積金額、受注金額、粗利の見込み |
| 会計・原価システム | 実行予算、発生した実績原価、支払 |

CRMが持つのは「受注するまでの数字」です。着工したあとの実績は、会計側が正です。CRMには、締めた後の数字を月に1回戻すだけで足ります。
この線を引かないまま両方に入れると、現場は二重入力になり、そこで運用が止まります。実行予算そのものの作り方は、建設業の実行予算の作り方|脱どんぶり勘定の原価管理に分けて書いています。
ここまでやって、はじめてAIが答えられるようになる
いま、多くの会社がAIを試しています。うまくいかない理由の多くは、AIの性能ではありません。聞かれても答えようがない状態で、聞いているからです。
上の3つが入っていれば、AIはこういう質問に答えられます。
- この発注者から、去年は何件受注して、粗利はいくらだったか
- いま施工中の工事で、完工予定が今月末のものはどれか
- 協力会社のうち、建設業許可が3か月以内に切れるのはどこか
- 見積を出したまま、30日返事が来ていない案件はどれか

どれも、難しい質問ではありません。ただし、工事番号と工期と区分が入っていなければ、AIは1つも答えられません。AIが賢いかどうかの前に、聞かれたことが台帳のどこに書いてあるか、という話です。
当社のサイトのAI窓口にも、実際に質問が届きます。答えられるのは、答えのもとになる材料が置いてあるからです。置いていないことは、答えられません。人と同じです。
この記事で書いたのは、AIが読む側の台帳の作り方までです。AIをどう載せるか、どう呼び出すかは、翌日の記事で分けて書きます。
最初の30日でやること
全部を一度にやらないでください。順番があります。

1週目:区分を足す。取引先に「発注者/協力会社/その他」の区分だけを足して、既存のデータを振り分けます。これだけで台帳が見えるようになります。
2週目:商談のステージを建設業の流れに直す。引合から検収まで。現場の人が自分の状況を選べる状態にします。
3週目:工事の項目を足す。工事番号、工期、元請下請の別、請負金額。過去の分をさかのぼって埋める必要はありません。今動いている工事だけ入れてください。
4週目:協力会社の期限に通知を立てる。許可と保険の期限だけで十分です。ここまでで、台帳は生き始めます。
過去データの一括移行は、あとで構いません。動いている案件が入っていないシステムは、どれだけ過去を積んでも開かれません。
この4週間でやっているのは、道具を入れることではありません。「どの欄に、何を、どう書くか」を会社として決めることです。決まっていれば、担当者が代わっても同じ判断ができます。新しく入った人に教えるときも、口で伝えるのではなく、画面を見せるだけで済みます。台帳を整えることは、そのまま人を育てる土台になります。
順番は、いつも同じです。台帳が整うと、AIやデジタルの道具が効くようになります。道具が効くと、工事ごとの原価と粗利が見えます。数字が見えると、判断した理由を人に説明できるようになり、そこで人が育ちます。人材育成・DX推進・収益改善は、別々の取り組みではありません。土台がひとつだからです。
よくある質問
Q1. Excelの工事台帳がすでにあります。やめる必要がありますか。
すぐにやめる必要はありません。まず、動いている工事だけをCRMに入れて、両方を1か月並べてください。CRM側だけで用が足りるようになった時点で、Excelを止めます。先に止めると、現場が困って戻ります。
Q2. 現場の職人にも入力してもらう必要がありますか。
いりません。入力するのは、事務と営業だけで足ります。現場に入力を求めると、たいてい失敗します。現場から集めるべきは写真と日報で、それは別の仕組みの話です。
Q3. どのくらいの規模の会社から意味がありますか。
工事が同時に3件以上動いていれば、意味があります。社長の頭の中で全部の工期と入金日が並べられなくなった時が、入れどきです。
まとめ
Zoho CRM を建設業で使うときに決めるのは、機能ではなく、載せるものです。
工事、協力会社、原価。この3つを、それぞれの役割で分けて置く。工事は商談に、協力会社は区分を分けた取引先に、原価は受注までをCRM、実績は会計に。
そして、ここまで置いてはじめて、AIは答えられるようになります。土台のないところに、AIを載せても動きません。順番は、いつも土台が先です。
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参考にした一次資料
制度の記述は、2026年9月1日に公式資料で確かめました。
- 建設業の許可とは(国土交通省):建設業許可の有効期間は5年間で、5年ごとに更新を受けなければ失効すること。更新の申請は、従前の許可の有効期間が満了する30日前までに行う必要があること
- 建設キャリアアップシステム(CCUS 公式):事業者ID・技能者IDと現場でのカードリーダー運用
- Zoho CRM(Zoho Japan 公式):見込み客・連絡先・取引先・商談のモジュール
- Configuring Workflow Rules(Zoho CRM 公式ヘルプ):日付の項目を起点に、その前後で通知を送るワークフローの設定
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