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建設業の価格転嫁|利益を守る価格交渉5ステップ

建設業の価格転嫁 利益を守る価格交渉5ステップ

「資材も人件費も上がっているのに、請負代金にはほとんど反映できない」。建設業の経営者から最も多く聞く悩みが、この価格転嫁の問題です。公正取引委員会の調査によると、原材料費の転嫁率が80.0%に達する一方、労務費の転嫁率は30.0%にとどまります(出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」2023年11月29日公表)。上がったコストの7割を自社が飲み込んでいる計算で、これが建設業の利益率を押し下げる最大要因の一つです。

結論から言えば、価格転嫁は「お願い」ではなく、根拠と制度を味方につけた交渉で実現するものです。2024〜2025年の法改正により、いまは過去最大の追い風が吹いています。本記事では、価格転嫁が進まない理由、活用すべき制度、利益を削らせない価格交渉の5ステップを、建設業30年の実務経験をもとに解説します。

図1 コスト種別ごとの価格転嫁率の棒グラフ。原材料費80.0%、エネルギーコスト50.0%に対し、労務費の転嫁率は30.0%と突出して低い(出典:公正取引委員会 特別調査)
図1:コスト種別ごとの価格転嫁率(出典:公正取引委員会 特別調査)
目次

建設業で価格転嫁が進まない3つの理由

値上げ交渉が苦手なのは、経営者の交渉力の問題ではありません。建設業という産業の構造に原因があります。

理由1:重層下請け構造で価格決定力が弱い

元請・一次下請・二次下請と続く重層構造では、下位になるほど価格決定力を失います。発注者が提示した金額を「飲むか、仕事を失うか」の二択になりやすく、コスト上昇分を転嫁する余地が構造的に狭いのが実態です。

理由2:原価が「どんぶり」で値上げの根拠を示せない

価格転嫁の交渉では、コストがいくら上がったのかを数字で示せるかが勝負を分けます。ところが工事別の原価管理ができていないと、資材費・労務費・外注費の内訳があいまいになります。これでは、発注者を説得する根拠資料が作れません。転嫁できない最大の社内要因は、交渉力の不足ではなく、原価の「見える化」の不足です。

理由3:「労務費」は最も転嫁しにくいコスト

資材費は単価表や仕入れ伝票で値上がりを客観的に示せます。しかし労務費は、自社の賃上げ分を相手に負担してもらう性格上、心理的にも交渉が難しいコストです。図1のとおり、転嫁率は労務費が30.0%と突出して低い水準にあります。

いまが追い風:2024〜2025年の制度変化を味方につける

価格転嫁を「言い出しにくいお願い」から「制度に裏打ちされた正当な交渉」に変える環境が、ここ2年で整いました。経営者が知っておくべき公的な後ろ盾は次の2つです。

① 公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」

内閣官房と公正取引委員会は、この指針を2023年11月29日に公表し、2025年12月26日に改正しました(公正取引委員会・指針本文)。発注者・受注者がそれぞれ採るべき行動を12の行動指針として明文化しています。受注者側のポイントは次のとおりです。

  • 労務費の上昇分について、受注者から発注者へ価格転嫁を「言い出してよい」ことが明確化された
  • 賃上げ表明や最低賃金の上昇率などの客観データを根拠資料として使える
  • 発注者は協議に応じることが求められ、応じない・買いたたく行為は独占禁止法・下請法上問題となり得る

価格転嫁の交渉を持ちかけること自体が、国の推奨する正当な行為として位置づけられたということです(参考:政府広報オンライン「労務費を反映した価格交渉」)。

② 改正建設業法・入契法(令和6年法律第49号)

建設業に直接効くのがこの法改正で、新ルールは2025年12月12日に施行されました(国土交通省・建設業法及び入契法の改正について)。価格転嫁に関わる主な改正点は3つです。

  • 標準労務費の勧告:中央建設業審議会が工種ごとの「労務費に関する基準(標準労務費)」を勧告。適正な労務費の水準が示され、見積りの根拠に使えます。
  • 「著しく低い労務費」の禁止:標準労務費を著しく下回る額での見積り依頼(発注者)・提出(受注者)が禁止に。違反した発注者には国土交通大臣が勧告・公表を行います。
  • 資材高騰時の協議ルール:契約のあとに資材が高騰した場合、受注者は請負代金の変更協議を申し出ることができます。注文者は、その協議に誠実に応じる努力義務を負います。

従来は「値上げを言い出すと角が立つ」と泣き寝入りしていた場面でも、いまは法律が交渉の後ろ盾になります。この制度を知らずに転嫁を諦めるのは、利益を自ら手放しているのと同じです。

利益を削らせない価格転嫁の5ステップ

制度を踏まえ、実務で利益を守る手順を5つに整理します。アプリバンクが掲げる統合最適化メソッド(人材育成 × DX推進 × 収益改善)の考え方で、単発の値上げではなく利益が残る体質づくりとして取り組むのが要点です。

図2 価格転嫁の5ステップの縦フロー。1工事別に原価を見える化(DX推進)、2上昇分を客観データで裏づけ(収益改善)、3交渉のタイミングを設計(収益改善)、4契約にスライド条項を盛り込む(収益改善)、5交渉できる人材を育てる(人材育成)
図2:価格転嫁の5ステップ(統合最適化メソッド)

ステップ1:工事別に原価を「見える化」する

すべての出発点は、工事ごとに資材費・労務費・外注費・経費がいくらかかっているかを把握することです。原価管理ソフトを使えば、どの工事のどのコストが上昇したかを即座に提示でき、交渉の根拠資料がそのまま出力できます。見える化はDX推進であると同時に、転嫁交渉の武器そのものです。

ステップ2:上昇分を「客観データ」で裏づける

交渉で効くのは主観ではなく数字です。資材は建設物価・積算資料などの公表単価や仕入れ伝票、労務費は公表されている標準労務費・最低賃金の上昇率・自社の賃上げ実績を用意します。前述の公取委指針は、これらを根拠資料として使うことを正面から認めています。

ステップ3:交渉のタイミングを設計する

価格転嫁は契約締結前が原則です。加えて改正建設業法では、契約後の資材高騰についても変更協議を申し出る権利が整備されました。年度更新・期初・公共工事の積算改定など、相手が見直しを受け入れやすいタイミングを逃さないことが成功率を左右します。

ステップ4:契約条項に「スライド条項」を盛り込む

その都度の交渉に頼らず、資材価格や労務費が一定以上変動したら請負代金を見直す「スライド条項(物価スライド)」を契約に組み込めば、転嫁を仕組み化できます。公共工事ではすでに一般的な仕組みで、民間工事でも導入を提案する価値があります。

ステップ5:交渉できる人材を育てる

価格転嫁を経営者一人の交渉力に依存させると、組織として続きません。原価データを読み、根拠を示して交渉できる現場代理人・営業担当を育てることが、人材育成と収益改善を同時に実現します。これが統合最適化メソッドの狙いです。

「自社の原価管理から価格転嫁の進め方まで相談したい」という経営者の方へ。アプリバンクの無料経営相談では、建設業30年の実務経験から具体的な打ち手をご提案します。

価格転嫁と同時に進めたい利益改善3施策

転嫁は利益改善の入口にすぎません。「上げる」と並行して「残す・削る」を進めることで、利益率は加速度的に改善します。

  • 原価管理DXの徹底:工事別の予実管理を仕組み化し、赤字工事を着工前に発見する。転嫁交渉の根拠づくりと利益確保が一度に進みます。
  • 元請比率の引き上げ:下請依存から脱却し、価格決定力のある元請工事の比率を高めることが、転嫁問題の根本解決になります。
  • 人手不足対策との両輪:労務費転嫁で確保した原資を賃上げ・定着に回し、採用難の悪循環を断ちます。

よくある質問(FAQ)

Q. 値上げを切り出すと取引を切られないか心配です。

A. 公取委の指針は、受注者からの価格転嫁の申し出を正当な行為と位置づけています。発注者が協議に応じず、一方的に買いたたく行為は、独占禁止法・下請法の上で問題となり得ます。法律が後ろ盾になっている点をふまえ、客観データを持って交渉することが、感情論に陥らないコツです。

Q. 公共工事と民間工事で進め方は違いますか。

A. 公共工事は物価スライド条項が制度化されており比較的転嫁しやすい一方、民間工事は個別交渉が中心です。違いを整理すると次のとおりです。

論点 公共工事 民間工事
スライド条項 制度化済(単品・全体・インフレ) 個別に契約へ明記して導入
価格の根拠 公表積算基準が使える 原価データの提示が要
主な打ち手 スライド条項の適用申請 スライド条項の提案+原価開示

民間でもスライド条項の契約への明記を提案することで、転嫁の仕組み化が可能です。

Q. 何から手をつければよいですか。

A. まず「工事別原価の見える化」です。コストがいくら上がったかを数字で示せなければ、どんな制度も活用できません。原価管理の整備が、価格転嫁と利益改善の共通の土台になります。

まとめ:価格転嫁は「お願い」ではなく「制度を使った交渉」

建設業の価格転嫁が進まないのは、経営者の交渉力ではなく、重層構造・原価の見える化不足・労務費の転嫁しにくさという構造の問題です。しかし2023年の公取委「労務費転嫁指針」、2025年12月施行の改正建設業法により、いまは転嫁を後押しする制度がそろっています。

やるべきことは明確です。①工事別に原価を見える化し、②客観データで上昇分を裏づけ、③タイミングを設計し、④スライド条項で仕組み化し、⑤交渉できる人材を育てる。この5ステップを人材育成 × DX推進 × 収益改善の統合最適化で進めれば、価格転嫁は単発の値上げではなく、利益が残り続ける経営体質へと変わります。

アプリバンクは建設業に特化し、年商10〜300億円規模の経営改善・再生を支援してきました。「どこから価格転嫁を切り出せばいいか分からない」「原価管理の整備から相談したい」という経営者の方は、お気軽に無料相談をご利用ください。

この記事の監修者

株式会社アプリバンク 建設業専門の経営コンサルタント

佐藤 望(さとう のぞむ)|株式会社アプリバンク 代表取締役

建設業界30年。海外(ブラジル)での建設・ビジネス経験を持ち、建設業に特化した経営コンサルティングを展開。年商10〜300億円規模の建設企業を対象に、人材育成 × DX推進 × 収益改善を一体で進める「統合最適化メソッド」で経営改善・再生を支援してきました。価格転嫁・原価管理・経審対策など、現場とお金の両面からの実務支援を得意とします。

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本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。


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