「求人を出しても、応募が来ない」――この一文に、心当たりのある建設業の経営者は少なくないはずです。しかし、人手不足を“採用の問題”として捉えている限り、出口は見えません。当社は建設業界30年・海外5カ国の施工経験を持つ代表が、現場と財務の両面から建設業経営を見てきました。人手不足の「原因と全体像」を俯瞰したい方は、当社コラムをご参照ください。本記事はそこから一歩踏み込みます。人手不足を「採用」ではなく「経営改善(原価×工期×組織)」の視点で捉え直し、人を増やさずに現場を回す方法を示します。なおかつ上がり続ける労務費から利益を守るための具体的な5施策を、公的統計と試算例を添えて整理します。経済産業省「DX認定事業者」(2026年6月認定)として、DX推進の実装支援にも踏み込んで解説します。
なぜ建設業の人手不足は「採用」だけでは解けないのか
結論から言えば、建設業の人手不足は「人が足りない」現象ではなく、「人が構造的に減り続ける」前提条件だからです。採用強化は対症療法にすぎません。
国土交通省「令和7年版 国土交通白書」を見てみましょう。建設業の技能者は、60歳以上が全体の約4分の1(25.7%)を占めます。一方、29歳以下の若手は11.7%(全産業16.9%)にとどまります(2024年時点)。そして60歳以上の多くは、10年後に引退が見込まれます。つまり「採れない」だけでなく「これから減る」ことが確定している。ここに採用だけで挑むのは、穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。
さらに、厚生労働省「一般職業紹介状況」では、建設・採掘の職業の有効求人倍率は全職業平均を大きく上回る水準が続いています。母集団そのものが枯渇しているため、採用単価を上げても限界があります。日本の建設業における人手不足は、2026年以降も中長期で続く構造問題だと捉えるのが現実的です。
一方で、仕事そのものは底堅く残ります。国土交通省「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」では、2025年度の建設投資は約75兆円(75兆5,700億円・前年度比+3.2%)と見込まれています(国土交通省 報道発表、2026年7月時点)。仕事はあるのに担い手が足りない――この需給ギャップこそ、採用以外の打ち手(省人化・定着・原価管理・価格転嫁)を経営者に迫る背景です。
だからこそ、視点の転換が要ります。「いかに人を集めるか」から「いかに少ない人数で回すか(省人化)」「いかに今いる人を辞めさせないか(定着)」へ。さらに「上がる労務費を原価管理と価格転嫁でどう吸収するか」へ広げるのです。これは採用部門の課題ではなく、原価・工期・組織を握る経営者の意思決定です。
人手不足が原価・工期・受注に与える連鎖
人手不足を放置すると、損失は「人件費」だけにとどまらず、原価・工期・受注へと連鎖します。経営者がまず把握すべきは、この波及構造です。

- 原価への波及:労務単価の上昇と応援要員の緊急手配で直接費が増え、完成工事高総利益率(粗利率)を圧迫します。
- 工期への波及:2024年問題(時間外労働の上限規制。原則 月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間)の本格運用により、従来の長時間労働前提の工程が組めず、工期が長期化します。仮設・現場管理費も積み上がります。
- 受注への波及:工期遅延は遅延損害金や評判リスクを生み、次回受注機会の喪失につながります。公共工事では遅延損害金が制度上定められています。
波及を数字で見る(試算例・モデル)
以下は実データではなく、波及の大きさを直感的に把握するための試算例(モデル)です。自社の数値を当てはめて検討してください。
| 前提(モデル年商10億円・粗利率15%) | 影響 | 年間インパクト(試算) |
|---|---|---|
| 人手不足で粗利率が1ポイント低下 | 完成工事総利益の減少 | 約1,000万円の利益圧縮 |
| 離職率が1ポイント悪化(採用・教育コスト再発生) | 採用・育成費の再投下 | 数百万円規模の追加コスト |
※ 上記は計算例であり、実在の案件・顧客の数値ではありません。前提が変われば結果も変わります。
原価構造の整理は、人手不足対策と同時に進めるべき論点です。利益率改善の全体像は経営改善の実践ロードマップでも整理しています。
施策1:業務の標準化と省人化(シニア×AI)
狙い:人を増やさず、同じ仕事量を少ない人数で回す。
当社が若手の長時間労働に頼る増員策を採らないのは、それが構造的に続かないからです。代わりに推奨するのが「業務の標準化 → 省人化 → シニア×AI」の順序です。
- 標準化:属人化した段取り・書類作成を手順化し、誰がやっても同じ品質で回る状態をつくる。
- 省人化:施工管理アプリ・電子化で、現場と事務所の往復や転記作業を削減する。
- シニア×AI:20年以上の現場経験を持つベテランが「判断」に専念し、資料作成・集計・一次対応はAIが担う。経験を捨てず、定型業務だけを機械に渡す発想です。

これは「若手を燃やして速度を買う」モデルの逆張りです。建設業の経営課題が「長年の現場経験を要する」こととも整合します。具体の進め方は働き方改革×DXの記事、設計・施工の省人化はBIM/CIM導入ガイドをご覧ください。
施策2:定着率を上げる組織・評価の見直し(CCUS連動)
狙い:採用の前に「辞めない会社」にする。
採用に1人投じても、定着しなければ穴は埋まりません。定着は採用より費用対効果が高い投資です。建設業で離職につながりやすい3要因と対策を整理します。
- 評価の不透明さ:「頑張りが処遇に反映されない」が離職の引き金になります。建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価と賃金体系を連動させ、評価基準を見える化します。
- キャリアの天井感:多能工化(複数工種・工程に対応できる人材育成)で、成長実感と1人当たり付加価値を同時に高めます。
- 道具・仕組みの使いにくさ:現場が使わないシステムは定着を妨げます。失敗しない導入の型はCRM定着の記事で解説しています。
評価・育成・DXを別々に進めると効果が分散します。当社は人材育成 × DX推進 × 収益改善を一体で設計する「統合最適化」で、3軸の相乗効果を狙います。
施策3:外注・協力会社マネジメントの最適化
狙い:「いつもの下請」依存から脱し、調達の選択肢と交渉力を回復する。
自社で人を抱えきれない分、外注比率は上がります。ここを放置すると、3つのリスクを招きます。付加価値の社外流出、品質コントロールの難化、そして下請の交渉力上昇(断られると現場が止まる状態の常態化)です。
- 協力会社のポートフォリオ化:1社依存をやめ、工種・地域別に複数の選択肢を持つ。
- 審査・実績の見える化:工期遵守率・書類正確度などで協力会社を評価し、属人的な「付き合い」から脱却する。
- 重層下請のリスク管理:法的責任と品質責任の所在を明確にする。詳細は多角化戦略の記事と併せ、攻めと守りの両面で検討してください。
施策4:労務費の原価インパクトを「実行予算」で数値化する
狙い:上がり続ける労務費を“感覚”ではなく“数字”で管理し、赤字案件を未然に防ぐ。
人手不足の最大のコスト影響は、労務費の上昇です。国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」では、全国全職種単純平均で前年度比+4.5%、これで14年連続の上昇となりました。加重平均値は25,834円と、初めて2万5千円を超えています。公共・民間を問わず、人件費は構造的に上がり続けているのです。

この上昇を「なんとなく高くなった」で済ませると、見積時の想定単価と実際の支払単価がずれ、工事が進むほど利益が削られます。対策は、労務費の原価インパクトを案件ごとに数値化することです。
- 実行予算の単価を毎期見直す:見積で使う労務単価を、最新の設計労務単価や自社の実支払実績に合わせて更新する。古い単価のまま積算すると赤字案件を生みます。
- 工事別の原価をリアルタイムで可視化する:完成工事原価=材料費+労務費+外注費+経費を工事ごとにデータ化し、粗利率を着工後も追う。SaaS型の原価管理ツールで、紙・Excelから段階移行できます。
- 労務費上昇分を見積に織り込む:上昇が確実なコストは、最初から見積前提に組み込む。これが次の施策5(価格転嫁)の土台になります。
「どんぶり勘定」から「工事別原価管理」への移行は、人手不足対策であると同時に、最も即効性のある利益率改善策です。建設業ではこの原価管理が、販管費一括ではなく工事間接費として各工事に配賦されるべき領域でもあります。
施策5:賃上げ原資を価格転嫁で確保する
狙い:人を確保するための賃上げ原資を、値下げ競争ではなく適正な価格転嫁で生み出す。
定着・採用には賃上げが要りますが、その原資をどこから出すかが問われます。労務費の上昇を自社で抱え込むのではなく、発注者へ適正に転嫁することが、人手不足対策と利益改善を両立させる鍵です。制度はすでに整いつつあります。
- 公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月公表):労務費上昇分の価格交渉を、発注者・受注者双方の取るべき行動として明文化しています。
- 改正建設業法(2025年12月施行):「労務費の基準(標準労務費)」の考え方が導入され、著しく低い労務費による見積・契約に歯止めがかかりました。買いたたきを禁じる建設業法第19条の3とあわせ、制度を味方にできます。
- スライド条項の活用:公共工事標準請負契約約款には、物価・賃金の変動に応じて請負代金の変更を請求できるスライド条項(全体・単品・インフレの3類型)が定められています。民間工事でも契約に同様の条項を盛り込むことで、労務費上昇リスクを発注者と分担できます。
価格転嫁の具体的な進め方は、価格転嫁の5ステップで、公的データと交渉術を交えて詳しく解説しています。人手不足対策は、最終的に「適正な利益を確保し、その利益を人に再配分する」循環づくりに行き着きます。
5施策の優先順位(早見表)

| 施策 | 主な狙い | 着手しやすさ | 3軸(人材/DX/収益) |
|---|---|---|---|
| 1 標準化・省人化(シニア×AI) | 少人数で回す | 中 | ○ / ◎ / ○ |
| 2 定着・評価見直し(CCUS連動) | 辞めさせない | 高 | ◎ / ○ / ○ |
| 3 外注・協力会社最適化 | 調達力回復 | 中 | ○ / ○ / ◎ |
| 4 労務費の原価数値化(実行予算) | 赤字案件を防ぐ | 高 | ○ / ◎ / ◎ |
| 5 価格転嫁で賃上げ原資確保 | 利益を取り戻す | 中 | ○ / ○ / ◎ |
※ 着手しやすさ・効果は自社状況により異なります。優先順位は現状分析のうえで判断してください。
まとめ:人手不足は「経営改善」で解く
建設業の人手不足は、採用努力だけで乗り越えられる課題ではありません。技能者の高齢化と母集団の枯渇という構造を前提に、(1)標準化・省人化(シニア×AI)、(2)定着・評価の見直し、(3)外注・協力会社の最適化、(4)労務費の原価インパクトの数値化、(5)価格転嫁による賃上げ原資の確保――この5施策を、原価・工期・組織を握る経営者の意思決定として束ねることが要点です。若手を燃やして速度を買うのではなく、経験者×AIで一人当たりの付加価値を最大化し、上がる労務費は原価管理と価格転嫁で守る。これが当社の考える持続可能な解です。
何から着手すべきか迷う場合は、優先順位の整理から始めるのが近道です。進め方は初回相談の進め方をご覧ください。
御社の人手不足、まず「優先順位」を30分で整理しませんか?
建設業界30年・海外5カ国の施工経験を持つ代表が、原価・工期・組織の3軸で論点を整理します。初回相談 0円。
※ 無料相談は建設業の企業様に限らせていただきます。
【執筆・監修】株式会社アプリバンク 代表取締役 佐藤 望
建設業専門の経営コンサルタント/建設業界30年(現場〜本社財務、海外5カ国の施工経験)。独自メソッド「統合最適化(人材育成 × DX推進 × 収益改善)」で、建設業の経営改善を一気通貫で支援。経済産業省「DX認定事業者」(2026年6月認定)。
お問い合わせ・無料相談:株式会社アプリバンク 公式サイト / 最終更新: 2026年7月1日
関連記事のご案内
- 建設業の価格転嫁|利益を守る価格交渉5ステップ
- 建設業の働き方改革×DX|2024年問題後の勤怠管理・ペーパーレス・工期短縮を実現
- 建設業のBIM/CIM導入ガイド|中小建設会社でも始められる生産性向上の第一歩
- 建設業のCRMが使われない5つの理由と定着のさせ方
- 建設業の多角化戦略|本業を活かした新規事業で経営改善を実現する方法
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
建設業を支援する経営コンサル、株式会社アプリバンクをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


