建設業の人手不足というと、まず職人と技術者の話になります。ところが中小の建設会社で先に折れるのは、たいてい事務のほうです。
理由ははっきりしています。事務は1人しかいないからです。現場は3人が2人になっても、工程を組み替えれば回ります。事務は1人が0人になった時点で、請求も、提出も、支払いも止まります。
そして建設業の事務は、ほかの業種より重い。制度から降ってくる書類の量がちがうからです。建設業許可、経営事項審査、施工体制台帳、建退共、CCUS、社会保険、安全書類。そこにインボイスと電子帳簿保存法が乗ります。売上が同じ規模の小売業と比べて、事務の量は明らかに多いのです。
この記事の主張は1つです。人が採れないなら、採る対象を変える。現場の人を採るために、事務を外に出す。順番は5つあり、そのうち最初の3つはお金がほとんどかかりません。
結論|事務を減らすのは節約ではなく、採用の代わりです
事務の外注を「経費削減」として考えると、たいてい失敗します。比べる相手がまちがっているからです。
正しい比べ方は、こうです。
事務を外に出して浮いた時間とお金で、現場側の人を1人増やせるか。
事務パートを1人採る費用と、外注の費用を並べても、大きな差は出ません。差が出るのは、その1人を採る労力を、現場の採用に振り向けられることのほうです。求人を出し、面接をし、育てる。この体力は有限で、事務と現場の両方には配れません。
だからこれは、人事の話です。誰を採るかを決めるために、何を外に出すかを決める。順番はその向きになります。
建設業の事務が重い理由|制度が多く、しかも増えている

建設会社の事務を重くしているものを、ならべてみます。
- 建設業許可:5年ごとの更新、決算変更届は毎年
- 経営事項審査:公共工事に出るなら毎年
- 施工体制台帳・再下請負通知:下請の金額が基準を超える工事ごと
- 建退共:掛金の納付と証紙の管理、いまは電子申請
- CCUS:事業者登録・技能者登録・現場登録・就業履歴
- 社会保険・安全書類:現場ごとに様式がちがう
- インボイスと電子帳簿保存法:全業種共通だが、下請が多いぶん通数が多い
問題は数ではありません。同じ情報を何度も書いていることです。技能者の氏名と資格は、CCUSにも、安全書類にも、建退共にも出てきます。1人の情報を3回書いている会社が、いまもふつうにあります。
制度そのものは減りません。減らせるのは、二重入力のほうです。
いちばん危ないのは、事務が1人に寄っていること

中小の建設会社を見ていて、いちばん危ういと感じるのがここです。請求書の作り方も、提出先も、期限も、その人の頭の中にしかありません。
この状態は、外に出すことを考える前に、手を打つ価値があります。外に出そうとした瞬間、「何をしているか説明できない」ことに気づくからです。説明できない仕事は、外にも出せません。
逆に言えば、外注の検討そのものが、属人化のたな卸しになります。出すかどうかを決める前に、書き出すだけでも効きます。
何を外に出し、何を残すか|判断が要るかどうかで切る

線の引き方は1本で足ります。その仕事に、会社としての判断が入るかどうかです。
残すもの:見積の金額、下請への発注の可否、支払いの実行、値上げの交渉、人の評価。ここは外に出せません。出したとたん、経営そのものが外へわたります。
出せるもの:転記、様式への書き写し、期限の管理、提出、証憑の整理、データの入力。正解が決まっていて、あとで見れば合っているかどうかが分かる仕事です。
迷うのは、まん中にあるものです。請求書の作成は、金額が決まっていれば転記です。金額を決めるところから任せるなら、それは経営です。同じ「請求」でも、どこで切るかで扱いが変わります。
出し方は3つ|人に出す、機械に出す、制度側で減らす

①人に出す(BPO)。経理、給与、社会保険、請求。月ぎめで契約する形が中心です。利点は、明日から回ること。欠点は、量に比例して費用が増えることと、建設業の様式を知らない相手だと立ち上がりに時間がかかることです。
②機械に出す(AI・システム)。入力の自動化、証憑の読み取り、様式の自動作成。利点は、量が増えても費用が増えないこと。欠点は、社内のデータが紙とLINEに散っている状態では効かないことです。渡せるデータが無ければ、どんな道具も動きません。
③制度側で減らす。ここがいちばん見落とされています。そして、いちばん安い。次の章で書きます。
いちばん安いのは「二重入力をやめる」こと
例を1つ出します。建退共とCCUSは、現場と就業履歴の情報を自動で連携できます。この機能は2025年9月に出ています。すでに電子申請で動いている工事も、2026年1月から自動連携へ切りかえられます。出典は建設業振興基金の運営状況(2026年7月)です。
つまり、CCUSにタッチした就業履歴を、建退共へもう一度入力する作業は、もう要りません。やめれば、その時間はまるごと消えます。外注費も、システム費もかかりません。
ただし条件があります。技能者の被共済者番号がCCUSに正しく登録されていること、現場の施工体制技能者情報が登録されていること。ここが抜けているとエラーになります。切りかえの前に、登録した内容の点検が要ります。
同じ発想で、ほかにも減らせる場所があります。グリーンサイトなどの元請システムとCCUSはAPIで連携しており、入退場の管理で使っているしくみから就業履歴を流せます。新しい機器を買う前に、いま使っているものがつながるかを確かめてください。CCUSの全体像は建設業のCCUS活用ガイド|登録から処遇改善までにまとめてあります。
お金の手当て|省力化投資補助金は、いま公募中です
機械に出すなら、費用の一部は補助金でまかなえます。中小企業省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業の省力化投資を支援する制度で、2つの型があります。
| 型 | 補助上限 | 対象 | 公募時期(2026年8月20日時点) |
|---|---|---|---|
| カタログ注文型 | 最大1,500万円 | カタログに載っている汎用製品を選んで導入する | 公募中 |
| 一般型 | 最大1億円 | 個別の現場や事業内容に合わせた設備導入・システム構築 | 第8回 2026年8月18日〜10月中旬(予定)/申請ポータル受付は9月中旬予定 |
一般型の第8回公募は、2026年8月18日から10月中旬(予定)です。申請ポータルでの受付開始は9月中旬の予定と公表されています。申請には「GビズIDプライム」が要り、取得に一定の期間がかかります。持っていない会社は、公募要領を読む前にIDの手続きから始めてください。ここで間に合わなくなる会社が毎回出ます。
もう1つ、デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)があります。枠は通常枠のほかに4つあります。インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)、セキュリティ対策推進枠、複数者連携デジタル化・AI導入枠です。事務の電子化はこちらの枠が合う場合があります。金額と要件は年度で動きます。必ず公式で確かめてください。補助金の選び方は省力化投資補助金に間に合わない時|建設業が次に狙う3枠にまとめています。
自社の事務のうち、いくら分を外に出せるかを一緒に数える無料経営相談はこちら(毎月5社まで)
もう1つ、書類そのものを減らせる場面があります。施工体制台帳や再下請負通知は、下請の金額が基準を超えたときに作る書類です。その基準は、元請が下請に出す総額で5,000万円です。建築一式工事のときは8,000万円になります(建設業法第24条の8第1項、建設業法施行令第7条の4)。つまりどの工事で発生するかは、契約の組み方で決まります。意味もなく重層になっている現場では、書類が増えるだけです。詳しくは施工体制台帳|作成義務の金額基準5,000万円と実務にまとめました。
費用の比べ方|外注費ではなく、採用費と並べる
判断が止まるのは、たいてい「月いくらか」で比べたときです。並べる相手を変えてください。

事務の担当を1人採るときにかかるのは、給与だけではありません。求人の費用、面接にかける時間、覚えてもらうまでの数か月、社会保険の会社負担。そして辞めたときに、もう一度これを繰り返す確率です。
外注は、このうち「もう一度繰り返す確率」を会社の外に出せます。担当が辞めても、契約先が代わりの人を立ててくれます。中小にとって効くのは、月額の差ではなく、この途切れなさのほうです。
そのうえで、金額の目安は自社でも作れます。事務にかかっている時間を1か月だけ記録し、時給を掛ける。これだけで、外注費と比べられる数字が出ます。目の子で話し合わないことが、この判断の8割です。
この考え方は、生産性の見方とも重なります。一人当たりの付加価値は、分子を増やすか、分母を減らすかでしか動きません。受注産業では分子に天井があるので、分母である「人が使う時間」を減らすほうが、先に効きます。その考え方は建設業の生産性向上|一人当たり付加価値5つの打ち手で書きました。
中小がとる順番|数える → 棚分け → 減らす → 機械 → 人

1.数える。1か月だけ、事務にかかった時間を仕事ごとに書き出します。ここを飛ばすと、あとがぜんぶ当てずっぽうになります。
2.棚分けする。判断が要るものと、要らないものに分けます。要らないものだけが、外に出せる候補です。
3.減らす。二重入力をやめます。建退共とCCUSの自動連携、元請システムとの連携。お金がかからず、すぐ効きます。
4.機械に出す。残った転記と読み取りを、機械にやらせます。補助金が使えるのはここです。
5.人に出す。それでも残ったものを、外に出します。3と4を先にやると、出す量が減るので費用も下がります。
この順番には、当社が申し上げている統合最適化の3つが入っています。棚分けは人材の育成です(誰に何を任せるかが決まります)。連携と自動化はDXの推進。そして浮いた費用と時間を現場の採用へ回すのが、収益の改善です。逆から入ると、外に払うお金だけが増えます。
二重入力がどこに残っているかを一緒に洗い出す無料経営相談はこちら(毎月5社まで)
事務の担い手そのものを社内で作り直す道もあります。その考え方は建設ディレクターとは|仕事内容・資格・費用とAI代替で書きました。
よくある質問
Q. 事務員が1人しかいません。外注したら、その人の仕事がなくなりませんか。
逆になることが多いです。外に出すのは転記と提出で、残るのは判断が要る仕事です。その1人には、原価の集計や資金繰りの管理といった、会社の意思決定に近いほうへ移ってもらう形になります。いま忙しすぎて手が付いていない仕事が、たいてい社内にあります。
Q. 建設業の様式を知らない外注先で大丈夫でしょうか。
ここは選ぶときの要点です。経理と給与は業種を問わず任せられますが、施工体制台帳や安全書類は建設業を知らないと止まります。最初から全部を1社に出さず、業種を問わない部分から始めるのが安全です。
Q. AIに任せれば、外注は要らなくなりますか。
まだそこまでではありません。渡せるデータが社内に整っていることが前提で、紙とLINEに散っている状態では動きません。順番としては、先に減らし、次に機械、最後に人です。人に出す部分は当面残ります。
Q. 補助金はいつ動けばよいですか。
GビズIDプライムの取得が先です。これに時間がかかるため、公募の開始を見てから動くと間に合わないことがあります。使うかどうかを決めていなくても、IDだけ先に取っておいて損はありません。
Q. どのくらいの規模から意味がありますか。
事務の担当が1人か2人の会社が、いちばん効きます。0人(社長と奥様が兼務)の会社も対象です。むしろその形のほうが、経営者の時間が事務に食われている分だけ、戻る時間が大きくなります。
まとめ|外注から始めないでください
この記事の主張は1つです。事務の外注は、経費削減ではなく採用の代わりです。比べる相手を変えてください。「外注費と人件費」ではなく、「事務に使う体力と、現場に使う体力」です。
そして順番があります。数える、棚分けする、減らす、機械に出す、人に出す。3番目の「減らす」まではお金がかかりません。建退共とCCUSの自動連携のように、やめるだけで消える作業が、まだ社内に残っています。
人が採れない時代に効くのは、採用をがんばることではなく、採る対象を絞ることです。事務を外に出すのは、そのための手段です。
事務にかかっている時間を数えるところから一緒にやる無料経営相談はこちら(毎月5社まで)
参考にした一次資料
本文の数値としくみは、2026年8月20日にすべて公式サイトで確かめています。
- 中小企業省力化投資補助金(中小企業基盤整備機構):カタログ注文型 最大1,500万円/一般型 最大1億円/一般型 第8回公募 2026年8月18日〜10月中旬(予定)・申請ポータル受付は9月中旬予定・GビズIDプライムが必要
- デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金):通常枠/インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)/セキュリティ対策推進枠/複数者連携デジタル化・AI導入枠
- 建設キャリアアップシステムの運営状況について(2026年7月・建設業振興基金):建退共との自動連携、民間システムとのAPI連携一覧、連携時の注意点
- CCUSについて・システムの利用料金(建設業振興基金)
- 建設業退職金共済事業本部:電子申請方式
- 建設業法(e-Gov法令検索):第24条の8(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)
- 建設業法施行令(e-Gov法令検索):第7条の4「法第二十四条の八第一項の政令で定める金額は、五千万円とする。ただし、特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事が建築一式工事である場合においては、八千万円とする」(条文を直接取得して確認)
監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。経済産業省「DX認定事業者」。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。あわせて建設業の生産性向上|一人当たり付加価値5つの打ち手・建設業でAIに任せられる仕事30選もご覧ください。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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