薄利多売、価格競争、人材不足。この3つは、建設業の経営者からいちばん多く聞く悩みです。 本記事では、利益率を動かすために打てる手を7つに整理しました。 自己資本比率と利益率を、どこから動かすか。順番のついた手順として書いています。 一度に全部やる必要はありません。自社の数字を見て、動かせそうなものから始めてください。
利益が残らない7つの理由
はじめに、いま業界で何が起きているかを数字で見ます。ここは推測ではなく、公表されている決算の数字です。
2026年3月期、スーパーゼネコン5社は「売上は伸びていないのに、利益が伸びた」という決算でした。5社合計の売上高は約114,149億円で前期からほとんど動いていません。それでも営業利益は合計約8,347億円まで膨らみました。伸び率は鹿島建設+58.5%、清水建設+67.1%、大成建設+56.4%、竹中工務店+75.0%です。
つまり量ではなく、採算で稼いだ1年でした。大成建設の完成工事総利益率は15.37%(前期9.79%)で、5.6ポイント改善しています。
この構造は、規模が違っても同じです。売上を追うか、工事1件あたりの粗利を追うか。そこで差がつきます。数字の読み方はスーパーゼネコン5社の決算分析にまとめました。
では、自社の利益はなぜ残らないのか。多くの場合、次の7つのどれかに当たっています。
日本の建設業界は、かつてない危機に直面しています。少子高齢化による深刻な人材不足、世界的なインフレによる資材価格高騰、そして長年続いた下請け構造による低利益率。 多くの企業が、この閉塞感から抜け出せずに苦戦しています。
しかし、これは単なる「現状」ではありません。多くの場合、次の7つのどれかに当たっています。
理由1:受け身のまま。「下請け体質」から抜けられない
「昔からそうしてきた」「これが業界の常識だ」…そんな言葉は、成長の芽を摘み取る毒です。 世界は目まぐるしく変化しています。 過去の成功体験にしがみつくのではなく、未来を見据えた戦略が必要です。 ~国土交通省の令和6年の国土交通白書~ は、この現状を明確に示しています。
理由2:薄利多売。件数で埋めようとして現場が疲れる
赤字覚悟の入札、値切られ続ける価格…この悪循環から脱却しなければ、企業の存続すら危ぶまれます。 社員のモチベーションは低下し、優秀な人材は流出します。
理由3:価格競争。下げ合いから降りられない
価格競争は、企業の価値を毀損します。 他社との差別化を図らず、価格だけで勝負する企業は、淘汰される運命にあります。 あなたは、顧客にどのような価値を提供できますか?
理由4:技術への投資が後回しになっている
熟練職人の技術は、あなたの企業の宝です。しかし、高齢化による技術伝承の危機、若手職人の育成不足…これは、企業の未来を脅かす深刻な問題です。
理由5:人材不足。若手が入らず、続かない
魅力的な職場環境、適正な賃金、キャリアパス…優秀な人材を確保し、定着させるための取り組みは、急務です。 現状維持では、人材は集まりません。
理由6:やり方を変える判断が先送りされている
デジタル化、グローバル化…これらの潮流に対応できない企業は、生き残れません。 新しい技術、新しいビジネスモデルの導入に躊躇する企業は、衰退の一途を辿るでしょう。
理由7:制度改正や補助金の情報が届いていない
市場トレンド、最新技術、競合他社の動向…これらに対するアンテナの感度を高めなければ、変化の波に乗り遅れてしまいます。
7つとも当てはまる会社は、ほとんどありません。自社に効いているものが1つか2つ見つかれば十分です。次章では、それぞれに対する打ち手を示します。
利益率を動かす7つの打ち手
前章の7つの理由に、それぞれ対応する打ち手を示します。順番に読む必要はありません。自社に当てはまったものから見てください。
戦略1:高付加価値戦略:価格競争からの脱却
価格競争に終止符を打ち、顧客に「価値」を提供することで、高収益体質を構築しましょう。 そのためには、以下の3つのステップが重要です。
- 顧客ニーズの徹底的な分析: 顧客が本当に求めているものは何かを、徹底的に分析します。 アンケート調査、ヒアリング、市場調査などを活用しましょう。
- 独自の強みの明確化: あなたの企業が提供できる独自の価値を明確にしましょう。 それは、技術力、品質、スピード、信頼性、顧客対応など、様々です。
- 高付加価値サービスの提供: 顧客ニーズと独自の強みを組み合わせ、高付加価値サービスを開発・提供します。 価格ではなく、価値で勝負しましょう。
考え方: 価格で比べられる土俵から降りるには、比べられない要素を足すことです。BIM/CIMによる事前検討のように、発注者側の手間を減らす提供の仕方は、その一つになります。
戦略2:徹底的なコスト削減:ムダを徹底的に排除し、効率化を推進
コスト削減は、利益率向上への近道です。「ムダ」を徹底的に排除し、業務効率化を推進することで、利益を最大化し、内部留保を増やすことができます。
- 現状把握: 全ての経費を項目別に洗い出し、現状を正確に把握します。
- ムダの特定: 各項目について、本当に必要な経費なのかを厳しく吟味します。
- 削減目標の設定: 各項目について、現実的な削減目標を設定します。
- 削減策の実施: 設定した目標に基づき、具体的な削減策を実施します。
- 効果測定: 削減策を実施した後、効果を測定し、改善点を洗い出します。
考え方: 削減しやすいのは、現場から離れた場所で発生している費用です。移動・会議・書類の3つは、現場の品質を落とさずに減らせる余地が残っていることが多くあります。
戦略3:デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進:生産性向上と業務効率化
BIM/CIM、AI、IoTは、生産性と業務効率を上げる手段です。ただし入れれば上がるものではありません。いまどの作業に何時間かかっているかを先に測ってから選んでください。
- 現状の業務プロセスの分析: 現在の業務プロセスを詳細に分析し、デジタル化できる部分を洗い出します。
- 適切なデジタルツールの選定: 業務内容に最適なデジタルツールを選びましょう。
- 従業員の教育・研修: デジタルツールの活用方法を従業員に習得させましょう。
- システム導入・運用: システムを導入し、運用を開始します。
- 効果測定と改善: システム導入後の効果を測定し、継続的に改善を繰り返します。
考え方: BIM/CIMの効きどころは、着工後の設計変更です。図面の上で先に干渉を見つけられれば、現場での手戻りが減ります。導入の判断は、自社の案件でその手戻りが何回起きているかを数えてからにしてください。
戦略4:人材育成・確保戦略:魅力的な職場環境の構築
優秀な人材の確保と育成は、企業の未来を左右します。 魅力的な職場環境、充実した研修制度、公正な評価制度…これらを整備することで、優秀な人材を引き寄せ、定着率を高めることができます。
- 魅力的な職場環境の構築: 働きやすい環境、充実した福利厚生、キャリアパスなどを整備します。
- 人材育成プログラムの開発: 若手からベテランまで、段階に応じた育成プログラムを開発・実施します。
- 採用戦略の見直し: 採用活動の改善、求人広告の見直し、採用面接方法の改善などを行います。
- 従業員のモチベーション向上: 従業員のモチベーションを高める施策を実施します。
考え方: 定着は、待遇だけでは決まりません。「この会社にいると、何ができるようになるか」が本人に見えているかどうかが効きます。資格取得の支援は、それを形にする手段の一つです。
戦略5:リスクマネジメントの強化:事業継続計画(BCP)の策定
建設業は、自然災害、経済変動、事故など、様々なリスクにさらされています。 事業継続計画(BCP)を策定し、リスクを適切に管理することで、企業の存続を脅かす事態を防ぐことができます。
- リスクの特定と評価: 発生可能性の高いリスクを特定し、その影響度を評価します。
- 対策計画の策定: 特定したリスクに対する具体的な対策計画を策定します。
- BCPマニュアルの作成: 策定した対策計画をまとめたBCPマニュアルを作成します。
- 訓練の実施: BCPマニュアルに基づいた訓練を実施し、従業員の対応能力を高めます。
考え方: BCPは、作ることより訓練することに意味があります。誰がどこへ連絡し、誰が判断するのか。年に一度でも通しで動かしておくと、書いてあるだけの計画との差が出ます。
戦略6:財務戦略の強化:自己資本比率・利益率の向上
自己資本比率と利益率の向上は、企業の財務体質を強化する上で不可欠です。 適切な財務戦略を策定し、実行することで、企業の安定性と成長性を高めることができます。
- 自己資本比率の向上: コスト削減、利益率向上、増資など、様々な手段を通じて、自己資本比率を向上させましょう。
- 利益率の向上: 高付加価値戦略、コスト削減、生産性向上など、様々な手段を通じて、利益率を向上させましょう。
- 資金繰り管理の徹底: 資金繰りを適切に管理し、資金不足に陥らないようにしましょう。
考え方: 利益率は、コスト削減と価格の両方からしか動きません。片方だけでは限界が来ます。自社の完成工事総利益率を直近3期分並べて、どちらが効いていないかを先に見てください。
戦略7:グローバル化戦略:海外市場への進出
国内市場の限界を突破し、海外市場への進出を検討しましょう。 海外展開は、リスクも伴いますが、大きな成長の機会となります。
- 海外市場調査: 進出先の市場を調査し、市場規模、競合状況、規制などを把握します。
- 事業計画の策定: 海外市場への進出戦略を策定します。
- パートナー企業との連携: 現地のパートナー企業と連携することで、事業リスクを軽減できます。
- 現地法規制の遵守: 現地の法規制を遵守することが重要です。
考え方: 海外は、国内の課題が解決してから検討する話です。国内で採算が取れていない状態のまま出ると、問題が増えるだけになります。順番を間違えないでください。
追伸: アプリバンクからのメッセージ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。7つの戦略を一度に始める必要はありません。自社の数字を見て、いちばん動かせそうなものを1つ選ぶところからで十分です。どこから手をつけるか迷われる場合は、ご相談ください。
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