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取ってはいけない工事の見分け方|受ける前に見る5つの物差し

取ってはいけない工事の見分け方。受ける前に見る5つの物差しの表

監修: 代表取締役 佐藤 望(建設業界30年・建設業経理士1級/記事末に経歴)
最終確認日: 2026年10月25日(条文と国の資料は、この日に原典で確かめました)

この記事は、見積と「受けるかどうか」を自分で決めている社長に向けて書いています。従業員10〜50人ほどの専門工事会社や、地場の工務店の方です。元請や施主から来る見積依頼に、単価と人の手配を見ながら返事をしている方を思い浮かべています。

目次

結論: 受ける前に、5つの物差しで見ます

「断ると次が来ない」。そう思って、赤字かもしれない工事を受けてしまうことがあります。けれども、赤字の工事は、受けた日から負けが決まっています。

2025年12月12日からは、原価に満たない金額や、著しく短い工期の契約を、受ける側も結んではならないことになりました。この日に、建設業法の改正がすべて施行されました。

見積依頼が来たら、受ける前に次の5つを見ます。

  • 原価: 見積の金額が、その工事に要る原価を割っていないか
  • 工期: 休みを取ったうえで終わる期間か
  • 契約書: 書面があり、変わったときの決め方と支払いの時期が書いてあるか
  • 回収: いつ、どの形で払ってもらえるか。相手に払う力があるか
  • 人: ほかの現場を崩さずに、この工事に人を出せるか

1つでも×が付いたら、すぐに断るのではありません。まず、条件を返します(後半で書きます)。返しても変わらないときに、断ります。

本記事は、来た見積依頼1件を受けるかどうかを決める、入口の5つに絞ります。どの市場・どのお客様を選ぶかという、受注の選び方そのものは別の記事で扱います。くわしくは、次の3本で書いています。

受ける前に見る5つの物差しの表。原価・工期・契約書・回収・人の5つについて、見るものと、関係する建設業法の条文を並べたもの
図1 受ける前に見る5つの物差し(建設業法の条文から当社が作成)

物差し1 原価: 原価割れは、受ける側も結んではいけない

見積を作るとき、社長が一番悩むのは「この金額で取れるか」です。けれども先に見るのは、「この金額で損をしないか」です。

建設業法 第19条の3は、注文する側と受ける側の両方に、決まりを置いています。条件は少し違います。

項 誰に 条文の要旨
第1項 注文する側 取引の立場が強いことを不当に使って、原価に満たない金額で契約を結んではならない
第2項 受ける側(建設業者) 原価に満たない金額で契約を結んではならない。ただし、正当な理由(自社が持つ安い資材を使えるなど、国土交通省令で定めるもの)があれば別

出典はe-Gov法令検索 建設業法です。

第2項は、令和6年の建設業法の改正で加わりました。2025年12月12日に施行された中身について、国土交通省の報道発表は「受注者について不当に低い請負代金・著しく短い工期による契約締結を禁止」と書いています。

出典は国土交通省 報道発表「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」(2025年11月14日)です。

つまり、「取りたいから安くした」は、いまは受ける側の違反になり得ます。

見積にも決まりがあります。第20条は、材料費や労務費などの内訳を書いた見積書を作るよう努めること、と定めています。その材料費などの額は、ふつうに要る額を大きく下回ってはなりません。国土交通省も、著しく低い労務費などで見積を出した受注者は、指導・監督の対象になると説明しています。

法律の「原価」と、自社の「下限」は分けて持つ

条文の「通常必要と認められる原価」は、会社が自分で決めるものではありません。国土交通省は、次のように説明しています。

  • その工事の施工地域で、一般的に必要と認められる直接工事費・間接工事費・一般管理費の合計をいう
  • 満たないかどうかは、同じ地域の同種工事の請負代金の実例などから、個別に判断される

出典は国土交通省「よくあるご質問」(担い手3法)です。

そのうえで、自社でも受注の下限を決めておきます。材料費と労務費だけで比べると、割れていることに気づきません。法定福利費(社会保険料の会社負担分)、現場の経費、会社を回す経費(一般管理費)まで積み上げます。そのうえで、見積がこの下限を割っていないかを確かめます。

見積と自社の受注の下限の比べ方。材料費・労務費・法定福利費・現場の経費・一般管理費を積み上げた高さより見積が低ければ、下限割れ
図2 自社の下限は、経費まで積み上げて確かめる(当社の整理。金額は示しません)

原価の積み上げ方は、建設業の原価管理|改正建設業法に対応する5つの実務でくわしく書いています。

物差し2 工期: 著しく短い工期も、受ける側が結んではいけない

「来月頭までに何とか」と言われて、残業と休日出勤で埋める段取りを、頭の中で組んだことはないでしょうか。

建設業法 第19条の5は、ふつうに要る期間に比べて著しく短い工期の契約を禁じています。注文する側(第1項)も、受ける側(第2項)も対象です。国土交通省は、長時間労働を正し、週休2日を確保するためと説明しています。

見ること ○の目安 ×の目安
工程表 休みを入れて引いても終わる 休みを削らないと終わらない
作業ごとの日数 見積に書いて出せる 根拠なく「何とかする」と答えている
前後の業者 入る日と出る日が決まっている 前の工程の遅れを、自社の日数で吸収する前提

第20条は、工程ごとの作業と準備に要る日数を見積書に書くよう、努めることを定めています。日数を見積に添えて出すと、あとで工期を話し合うときの土台になります。

物差し3 契約書: 書面に「変わったときの決め方」があるか

電話とメールで話が進み、注文書1枚で始まる工事は少なくありません。ところが、途中で図面が変わったり、資材が上がったりしたときに、決め方が書いていないと、話し合いの土台がありません。

建設業法 第19条第1項は、契約を結ぶときに書面に書いて、互いに交付する事項を定めています。受ける前に、次の4つが書いてあるかを見ます。

第19条第1項 書いてあるべきこと
第5号 前払いや出来高払い(でき上がった分に応じた支払い)をするときは、その時期と方法
第6号 設計変更や工事の中止があったときの、工期と代金の変え方
第8号 物価が変わったときの、工事内容と代金の変え方
第12号 完成したあとの、代金の支払いの時期と方法

支払いの時期がどこにも書いていないときは、受ける前に書面に入れてもらいます。

資材の値上がりが見えているときは、もう1つやることがあります。第20条の2第2項の決まりです。主要な資材の供給の不足や値上がりなど、国土交通省令で定める事象が起きるおそれがあると認めるときは、契約を結ぶまでに、注文者に知らせなければなりません。国土交通省は、対象を、天災などによって起きる、注文者と受注者のどちらの責任でもない事象と説明しています。あわせて、状況を把握するための情報も知らせます。

知らせておけば、契約のあとで実際に起きたとき、変更の話し合いを申し出られます(第3項)。注文者は、正当な理由がある場合などを除き、誠実に応じるよう努めなければなりません(第4項)。

国土交通省は、この「おそれ情報」の通知を、見積書を渡すときなどにあわせて行うよう説明しています。通知の書面やメールは、双方で保存しておくことが望ましいとしています。根拠には、資材業者の発表や公的な統計など、客観的な情報を使います。出典は国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」です。

値上げの交渉の進め方は、建設業の価格転嫁|利益を守る価格交渉5ステップで書いています。

物差し4 回収: いつ、どの形で払ってもらえるか

利益が出る工事でも、お金が入らなければ会社は回りません。見るのは、相手の払う力と、払い方の2つです。

相手の払う力は、決算書と取引の実績から読みます。読み方は建設業の与信管理|取引先の決算書から、連鎖倒産の芽を読むに書きました。

払い方で、手元のお金の要り方が大きく変わります。例で比べます(数字は説明のための例です)。

  • 請負代金1,000万円、工期4か月、原価900万円の工事
  • 原価は、毎月末に225万円ずつ払う
  • 出来高払いでは、その月の出来高(250万円)を翌月末に受け取る
  • 同じ日に払いと受け取りがあるときは、払いが先とする
払われ方 立て替える額(最大)
完成のときに一括で払われる 900万円(完成後の入金まで)
毎月の出来高払いで、翌月末に払われる 450万円(2か月目の月末・入金の直前)

同じ粗利100万円の工事でも、手元に用意するお金は2倍違います。入金が遅れると、立て替える期間が延びます。出来高払いでは、立て替えの最大額も増えます。完成払いの工事を何本も重ねると、利益が出ていても、資金が先に尽きることがあります。

払い方には、法律の決まりもあります。

  • 第24条の3第1項: 元請負人(その工事を下に出した側)の決まり。注文者から出来高や完成の支払いを受けたら、受けた日から1か月以内に、できる限り早く下請に払う。2次・3次の下請から見れば、1次の下請も元請負人にあたる
  • 第24条の6: 注文者が特定建設業者(下請に大きな金額の工事を出せる許可を持つ会社)のときの決まり。支払期日は、引渡しの申出の日から50日以内で、できる限り短い期間内に定めなければならない。期日を定めなかったときは、申出の日が支払期日とみなされる。ただし、契約に「完成の時期から20日を過ぎる日までの、決まった日に引き渡す」という特約があるときは、申出の日でなく、その特約の日から数える(第24条の4第2項ただし書)。期日までに銀行で割り引くのが難しい手形も、渡してはならない

2つの決まりは、別々にかかります。両方に当たるときは、それぞれの期限を守る必要があります。「50日あるから待てる」とは読めません。

第24条の6には、対象外があります。受ける側が特定建設業者のときや、資本金が4,000万円以上の会社のときです(4,000万円は建設業法施行令 第7条の2)。自社が対象かどうかは、許可の種類と資本金で確かめます。

条文にかかわらず、次のような条件は、受ける前に聞き直します。

  • 出来高払いがなく、完成まで数か月、立て替えが続く
  • 「前の現場の分と相殺する」など、この工事と関係のない差し引きがある

物差し5 人: ほかの現場を崩さずに、人を出せるか

朝の段取りで、職長の顔ぶれを思い浮かべてください。この工事を受けたとき、誰を出すかがすぐに決まるでしょうか。

受けられる量の上限は、現場に出せる人数で決まります。人が足りないまま受けると、ほかの現場の工期と品質が崩れ、残業が増えます。物差し2の「著しく短い工期」とも、つながっています。

見ること ○の目安 ×の目安
職長 この工事を任せる人の名前が言える 「誰か空くだろう」で受けている
ほかの現場 人を抜いても工程が回る 抜くと、ほかの現場の完成が遅れる
応援・外注 頼む先と単価が決まっている 受けてから探す

人の数から受注の上限を決める考え方は、建設業の人手不足倒産|受注の上限は、現場に入れられる人数で決まるで書きました。

受けるかどうかに迷ったら、アプリバンクの無料経営相談(60分)で、5つの物差しの当て方をご一緒に整理できます。

×が付いたら: 断る前に、条件を返す

×が付いた工事を、黙って断る必要はありません。相手にとっても、無理な条件で受けた会社が途中で止まるのは困ります。まず、×の物差しに合わせて返します。

×が付いた物差し 返すもの 根拠
原価 材料費・労務費などの内訳を書いた見積書と、この金額でないと下限を割るという説明 建設業法 第19条の3第2項・第20条
工期 作業ごとの日数を書いた工程と、休みを取ったうえで要る期間 第19条の5第2項・第20条第1項
契約書 変わったときの決め方と支払いの時期を書面に入れる提案と、資材の値上がりなどのおそれ情報の通知 第19条第1項・第20条の2
回収 出来高払いと支払いの時期を書面に入れる提案(受けるかどうかは相手との話し合いで決まる) 第19条第1項第5号・第12号(書面に書く事項)/第24条の3・第24条の6(支払いの期限)
人 出せる人数に合わせた着手の日か、工区を分ける提案 (社内の判断)

言い方の例です。

  • 原価: 「ご提示の金額では、材料と人件費、法定福利費を積むと、当社の下限を下回ります。内訳をお付けしますので、この金額でご検討いただけないでしょうか」
  • 工期: 「休みを取ったうえで、この作業はこの日数が要ります。工程をお付けしますので、着手か完成の日を調整させてください」
  • 契約書: 「資材の値上がりが続いているため、価格が変わったときの取り決めを、契約書に入れさせてください。根拠の資料をお付けします」

返しても条件が変わらないときは、断ります。断るときは、「今回の条件ではお受けできませんが、条件が合うときはぜひお声がけください」など、次の話を閉じない言い方にします。

個別の契約が法律に当たるかどうかは、この記事では判断しません。心当たりがあるときは、許可を出した行政庁(都道府県や地方整備局の建設業の窓口)や弁護士にご相談ください。

×が付いたら断る前に条件を返す流れ。5つの物差しで見る、×の物差しに合わせて内訳見積・工程・契約の取り決めを返す、変わらなければ次の話を閉じない言い方で断る
図3 ×が付いたら、断る前に条件を返す(建設業法の条文から当社が作成)

統合最適化で見る: 人・DX・収益

アプリバンクの統合最適化メソッドは、人材育成、DX推進、収益改善を一体で見ます。

軸 何をするか 効くところ
人材育成 5つの物差しを、見積を作る社員と職長に教える 社長でなくても○×を付けられる
DX推進 見積・工程・人の配置を表計算ソフトの1枚にまとめ、○×を自動で出す 見積依頼が来たその日に判断できる
収益改善 下限割れと回収の危ない工事を、受ける前に外す 赤字工事と立て替えの負担が減る

3つの軸はつながっています。物差しを社員が使えるようになると(人材育成)、見積の段階で○×がそろい(DX推進)、受ける前に赤字工事を外せます(収益改善)。

今日できる3つのこと

  1. 手元の見積依頼を1件選び、5つの物差しで○×を付ける
  2. 自社の受注の下限に入れる項目(法定福利費・現場の経費・一般管理費まで)を、紙1枚に書き出す
  3. いま使っている契約書と注文書に、変わったときの決め方と支払いの時期が書いてあるかを確かめる

物差しの作り方や、条件の返し方は、アプリバンクの無料経営相談(60分)でご相談いただけます。

よくある質問

Q1. 赤字でも、付き合いで受けないと次の仕事が来ません。

2025年12月12日から、建設業法 第19条の3第2項で、受ける側も原価に満たない金額の契約を結べなくなりました(正当な理由がある場合を除く)。まず内訳を付けて金額を返します。それでも変わらなければ、次の話を閉じない言い方で断ります。

Q2. 「通常必要と認められる原価」は、誰が決めるのですか。

条文は、具体的な金額を定めていません。国土交通省は、その工事の施工地域で一般的に必要と認められる直接工事費・間接工事費・一般管理費の合計をいう、と説明しています。

満たないかどうかは、同じ地域の同種工事の請負代金の実例などにより、個別に判断されます。自社で積み上げた額は、受注の下限として持っておくもので、法律上の判断そのものではありません。

労務費については、国土交通省が2025年12月2日に「労務費に関する基準」が勧告されたと説明しています。

Q3. おそれ情報は、どうやって知らせればよいですか。

国土交通省は、見積書を渡すときなどにあわせて知らせるよう説明しています。書面やメールは、双方で保存しておくことが望ましいとしています。根拠には、資材業者の発表や公的な統計など、客観的な情報を添えます。

Q4. 支払期日を50日以内に定める決まりは、どの工事にも当てはまりますか。

当てはまりません。建設業法 第24条の6は、特定建設業者が注文者となる下請契約が対象です。受ける側が特定建設業者のときや、資本金が4,000万円以上の会社のときは、対象外です(建設業法施行令 第7条の2)。

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出典一覧(取得日 2026-10-25)

本記事は一般的な情報提供です。個別の契約が法令に当たるかどうかは、許可を出した行政庁や弁護士にご確認ください。立て替えの表の数字は、説明のための例です。

更新履歴: 2026-10-26 公開

監修

佐藤 望

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。

保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。

株式会社アプリバンクは、経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。


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