監修: 代表取締役 佐藤 望(建設業界30年・建設業経理士1級/記事末に経歴)
最終確認日: 2026年10月26日(法令と調査の数字は、この日に原典で確かめました)
元請1社の仕事が止まっても、会社が回るようにしておきたい。この記事は、そう考える社長に向けて書いています。売上の多くを1社か2社の元請からもらっている、専門工事の会社です。毎日、現場の段取りと職人の手配に追われ、営業まで手が回らない方です。
結論: 営業は、売上の偏りを数えるところから始めます
いちばん大きい元請から仕事が止まったら、来月の売上はいくら残りますか。すぐに答えられないなら、そろそろ営業を始めるころです。
下請の会社の営業は、飛びこみや広告から始めなくてかまいません。次の3つの手を、この順に進めます。
- 手1: 元請ごとの売上の割合を、1枚の表にする
- 手2: 労務費を書いた見積書で、選ばれる側に回る
- 手3: 元請を1社ずつ増やし、発注者に直接届く入口もつくる
どれも、いまいる人で始められます。営業の担当を新しく雇う前に、社長と事務の方で進められる手順です。お金をかけて広告を出す前に、手もとの数字と書類を見なおすところから入ります。
値段だけで選ばれないための営業の考え方は、建設業の差別化戦略に書きました。この記事は、取引先を増やす手順だけをあつかいます。
国の数字も見ておきます。国土交通省の建設工事受注動態統計調査報告(令和8年7月分)は、2026年9月10日に出ました。元請の受注は前の年の同じ月より1.4%へり、下請は12.3%ふえています。
くわしくは建設業の下期計画|元請が減り、下請と設備が増えているにまとめました。
仕事があるうちに取引先を増やしておくほうが、あとで条件を選べます。手があいてから探しはじめると、どうしても安い仕事から受けることになりがちです。

手1: 元請ごとの売上の割合を、1枚の表にする
はじめの手は、数えることです。去年1年の売上を、元請ごとに分けてならべます。会計ソフトで取引先ごとの売上を出すか、請求書のひかえがあれば作れます。
表にするのは、次の4列だけです。
| 列 | 書くこと | 見るところ |
|---|---|---|
| 元請の名前 | 去年、請求書を出した相手 | 何社と取引しているか |
| 売上 | その元請への1年の請求額(決算の売上と同じ年度・同じ基準でそろえる) | 上の1社が全体の何割か |
| 支払いの条件 | 締め日・支払日・現金か手形か | 入金までの日数 |
| 声がかかった経路 | 前からの付き合い・紹介・見積の依頼など | 新しい元請はどこから来たか |
この表で見るのは、2つです。
1つは、上の1社がぜんぶの売上のどのくらいかです。どこから先があぶないという、決まった線はありません。
ただ、その1社が止まった月に、お金がどう回るかは一度たしかめておきます。給料と支払いを出したあと、手もとにいくら残るかを見ておくだけでも、打つ手の早さが変わります。
もう1つは、声がかかった経路です。新しい元請が、紹介でしか来ていない会社は多いはずです。紹介はよい入口ですが、決まるかどうかは相手しだいです。手2と手3は、こちらから増やせる入口をつくる手順です。

取引先の決算書をどう読むかは、建設業の与信管理にまとめています。表の「支払いの条件」の列と、あわせて見てください。
手2: 労務費を書いた見積書で、選ばれる側に回る
2つ目の手は、見積書を変えることです。営業の話なのに見積書から入るのは、法律が変わったからです。見積書は、相手の手もとに残る、いちばん近くにある営業の道具でもあります。
建設業法で、見積書の書き方が決まった
2025年12月12日に、改正された建設業法が、すべて動きはじめました。第20条第1項は、建設業者に、次のような見積書を作るよう努めることを求めています。ここでいう建設業者とは、建設業の許可を受けた会社のことです(第2条第3項)。
- 工事の種別ごとの材料費と労務費を書く
- 適正な施工に欠かせない経費として、省令で決める経費も書く
- そのほか、工事に要る経費の内訳も書く
- 工程ごとの作業と、その準備に要る日数も書く
同じ条の第2項は、見積書に書く材料費などの額を、通常要る額より大きく下回る額にしてはならないとしています。安く見せようとして、労務費をうんと低く書くことは、受ける側でもできないということです。
法律は、これを「材料費等記載見積書」と呼んでいます。
注文する側にも、きまりがあります。同じ条の第4項で、注文者は、この見積書の中身を考えるよう努めます。そして、注文者から求められたら、建設業者は契約までに見積書を渡さなければなりません。
第6項は、注文者の側をしばります。この見積書を渡した建設業者に、材料費などを通常要る額より大きく下回るような変更を求めてはいけません。注文者がたのまずに渡された見積書も、ふくまれます。
下請が応じたかどうかは、関係ありません。求めること、そのものがいけないのです。
さらに第19条の3第2項で、受ける側の建設業者も、その工事に通常要る原価に満たない金額で契約してはならないとされました。
ただし、省令(施行規則第13条の11)が決める正当な理由があれば、のぞかれます。手もちの安い資材を使える、技術で原価を下げられる、急ぎでやむを得ない、の3つです。
| 条文 | だれに | 決まっていること |
|---|---|---|
| 第20条第1項 | 建設業者(受ける側) | 材料費・労務費などと、工程ごとの日数を書いた見積書を作るよう努める |
| 第20条第4項 | 注文者・建設業者 | 注文者は見積書の中身を考えるよう努める。求められたら、建設業者は契約までに渡す |
| 第20条第6項 | 注文者 | 材料費などを、通常要る額より大きく下回るような変更を求めてはならない |
| 第19条の3第2項 | 建設業者(受ける側) | 省令の正当な理由がなければ、その工事に通常要る原価に満たない金額で契約してはならない |

改正前の国の調査では、元請の側が追いついていなかった
国土交通省と中小企業庁は、2026年3月31日に、令和7年度の下請取引等実態調査の結果を出しました。30,000の業者にたずね、19,964の業者が答えています。
しらべたのは2025年7月7日から9月3日なので、12月12日にすべて動きはじめる前のすがたです。
| 調査の問い | 結果 |
|---|---|
| 元請が、下請に見積に要る項目を「全て記載している」 | 17.9% |
| 下請が、労務費を内訳で明示した見積書を「交付している」「おおむね交付している」 | 71.3% |
| 下請が、明示した労務費を含む見積金額の「全額が支払われる契約となった」 | 75.6% |
不適正な取引にあたる答えをした17,207業者には、指導票が送られました。
この数字から言えることがあります。労務費を書いた見積書を「交付している」「おおむね交付している」と答えた下請が、7割ほどいるのです。調査は、書いていない会社が選ばれにくいかまでは、しらべていません。
ただ、見積書をならべて比べる元請から見ると、書いていない会社は比べにくい相手になると、当社は推定しています。反対に、労務費の根拠を書ける会社は、元請が社内で説明しやすい相手になります。
見積書と一緒に、名簿の登録もそろえる
元請のなかには、新しい協力会社をさがすとき、見積の条件に登録を入れているところがあります。日本建設業連合会の「15社における優良取組み事例集」に、こうした取り組みがのっています。
見積をたのむときの条件書に、建設キャリアアップシステム(CCUS)の事業者登録と技能者登録を加えた例です。
まだ登録していなければ、見積書を直すときに、あわせて進めておきます。あとから求められて慌てるより、先にそろえておくほうが話が早く進みます。
見積書の作り方や、元請ごとの条件の見なおしは、アプリバンクの無料経営相談(60分)でご相談いただけます。
手3: 元請を1社ずつ増やし、発注者に直接届く入口もつくる
3つ目の手で、入口をふやします。道は3つあります。ぜんぶを一度にやらなくてもかまいません。いちばん近いものを1つえらんで始めます。
| 道 | 先にそろえるもの | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 新しい元請の協力会社になる | 手2の見積書・CCUSの事業者登録・許可と保険の写し | 今の現場で一緒になった元請の担当者に、協力会社の登録の仕方を聞く |
| 公共工事を直接受ける | 経営事項審査(経審)・入札参加資格 | 県と市町村の発注見通しで、自社の工種の工事があるかを見る |
| 民間の発注者から直接受ける | 自社のホームページに、対応する工種・地域・資格者の数を載せる | 問い合わせが来たときに、だれが何日で返すかを決める |
新しい元請の協力会社になる
いちばん近い道です。いまの現場には、ほかの元請の現場ではたらく職人や、べつの元請の担当者が出入りしています。その人たちに、そのまま聞いてみるのが早いです。
聞くときに見せるのは、手2で作った見積書の見本です。工種ごとの労務費と日数が書いてあれば、相手はその場でくらべられます。
公共工事を直接受ける
国や自治体などが出す1件500万円以上の工事は、経審を受けていないと、じかには受けられません。建築一式なら1,500万円以上です。建設業法第27条の23第1項と施行令第45条が、そう決めています。災害のときの応急の工事などは、のぞかれます。
入札に出られる工事の金額は、経審の点数(客観的事項)だけでは決まりません。発注する役所ごとの評価とあわせた、格付けで決まります。出たい役所の、資格審査の要領も読んでおいてください。
すすめ方は入札参加資格とは|出られる工事の金額は点数で決まるにまとめました。どの工事がいつ出るかは、発注見通しとはで、しらべ方を書いています。
気をつけたいことが1つあります。元請として受けた工事を、ほかの会社に出すときです。
下請に出す額の合計が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)なら、特定建設業の許可がいります。建設業法第3条第1項第2号と、施行令第2条の決まりです。
民間の発注者から直接受ける
工場やお店の持ち主、管理会社から、じかに相談が来る道です。入口は、自社のホームページになることがよくあります。
のせるのは、うけられる工種と、動ける地域と、資格をもつ人の数です。問い合わせが来ない理由の見分け方は、建設業のホームページ|問い合わせが来ない会社の共通点に書きました。

今日できる3つのこと
- 去年の売上を元請ごとに並べ、上の1社が全体の何割かを数える
- 直近の見積書を1枚出し、労務費と工程ごとの日数が書いてあるかを見る
- CCUSの事業者登録が済んでいるかを確かめる
請求書がそろっていれば、3つとも社長と事務の方で、短い時間で手をつけられる作業です。手をつける順番は、上からです。数えてみて、かたよりが小さければ、見積書の見なおしから先に進めてもかまいません。
数えた表を見ながら、次に何から手をつけるかを一緒に決めたい方は、アプリバンクの無料経営相談(60分)をお使いください。
統合最適化メソッドで見る: 人・DX・収益
| 軸 | 何をするか | 効くところ |
|---|---|---|
| 人材育成 | 見積書の書き方を、職長や事務の担当者と一緒に決める | 社長がいなくても、同じ形の見積書が出せる |
| DX推進 | 売上の割合と見積書の見本を、会計ソフトの数字から毎月出す | 偏りが進んだ月に、すぐ気づける |
| 収益改善 | 労務費の根拠を書き、原価割れの条件を受けない | 1件ごとの利益が守られ、取引先も選べるようになる |
見積書を変えると、職長も、自分の工事の原価が読めるようになります。原価が読めると、条件のよくない仕事をことわるかどうかを、数字で決められます。3つの軸は、つながって効きます。
よくある質問
Q1. 今の元請に、ほかの元請とも取引すると伝えるべきですか。
伝えなければならない、という決まりはありません。ただ、いまの元請との約束や契約書に、取引をしばる条件がないかは、たしかめてください。いまの元請の仕事を減らす話ではなく、売上の柱を増やす話です。
Q2. 労務費を書くと、値下げの材料にされませんか。
建設業法第20条第6項で、注文者は、材料費などを通常要る額より大きく下回るような変更を求めてはならないとされています。書いた根拠があるほうが、交渉で押し返しやすくなります。
Q3. 営業の担当者を雇うべきですか。
さきに手1と手2を進めてください。売上の割合と見積書の形がそろってから雇うほうが、担当の人に渡せるものがあります。はじめの数か月は、社長がいまの現場で聞いて回るほうが早いことが多いです。
Q4. 経審を受けると、すぐに公共工事を受けられますか。
すぐには受けられません。経審のあとに、発注する役所ごとに、入札参加資格の申しこみがいります。申しこめる時期は役所ごとにちがうので、さきにたしかめてください。
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出典一覧(取得日 2026-10-26)
- 国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告(令和8年7月分)」(令和8年9月10日): https://www.mlit.go.jp/report/press/joho04_hh_001391.html
- e-Gov法令検索「建設業法」第2条・第3条・第19条の3・第20条・第27条の23: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」第2条・第45条: https://laws.e-gov.go.jp/law/331CO0000000273
- e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第13条の11: https://laws.e-gov.go.jp/law/324M50004000014
- 国土交通省「建設工事の取引(見積における労務費の交渉状況等)の調査結果~令和7年度下請取引等実態調査~」(令和8年3月31日): https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00342.html
- 国土交通省「下請取引等実態調査」: https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000190.html
- 日本建設業連合会 建設キャリアアップシステム推進本部「15社における優良取組み事例集」: https://www.nikkenren.com/rss/pdf/1491/ccus_casestudies.pdf
本記事は一般的な情報提供です。個別の契約や許可の判断は、許可行政庁や弁護士・行政書士にご確認ください。
更新履歴: 2026-10-28 公開
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
株式会社アプリバンクは、経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。
建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化メソッド)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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