「現場はフル稼働なのに、決算を締めると利益が思ったより残らない」——資材高騰と労務費上昇が同時に進む今、多くの建設会社がこの悩みを抱えています。国土交通省が公表する公共工事設計労務単価は、令和8年3月から適用される単価で14年連続の上昇となり、全国全職種平均で初めて2万5千円を超えました(国土交通省 報道発表・2026年2月/2026年6月時点)。人件費が構造的に上がり続けるなかで利益を守るには、「やみくもに経費を切り詰める」発想からの転換が欠かせません。
本記事では、建設業に特化した経営コンサルタントとして多くの会社の経営改善を支援してきた経験から、利益を残すコスト削減の7つの実践戦略を、公的データと建設業会計の実務を交えて解説します。単なる節約ではなく「利益を生む原価構造をつくる」視点で、人材育成・DX推進・収益改善を同時に進める統合最適化の考え方までお伝えします。
戦略1:まず「下げてはいけないコスト」を決める
コスト削減で最初にやるべきは、削る対象を探すことではありません。削ってはいけないコストを先に確定させることです。ここを曖昧にしたまま一律カットに走ると、目先の数字は良くなっても、事故・手戻り・離職という形で後から大きなコストが跳ね返ってきます。
建設業で安易に削ると致命傷になるのは、(1) 安全管理に関わる費用、(2) 品質・検査に関わる費用、(3) 人材の育成・処遇に関わる費用の3つです。安全と品質は法令遵守と信用の根幹であり、人材は受注産業である建設業の供給能力そのものだからです。
・安全対策費・保護具・教育
・品質管理/検査
・人材育成・適正な賃金
→ 削ると事故・手戻り・離職で逆に高くつく
・手配・段取りの重複
・紙・移動・待ち時間
・余剰在庫・遊休機械リース
→ 利益を生まない「見えない原価」
戦略2:原価構造を把握する——最大のレバレッジは外注費と材料費
どこを削れば効くのかは、自社の原価構成を知らなければ判断できません。一般的な中小建設会社では、工事原価に占める割合の目安は次のようになります(会社規模・業態で変動するため、自社の試算でご確認ください)。
数値は一般的な目安(会社・業態で変動)。バーは代表値で図示しています。外注費と材料費だけで原価の6〜8割を占めることが多く、ここが削減の最大レバレッジ。一般管理費(10〜15%)の切り詰めは効果が限定的です。
多くの会社は「事務用品を減らす」「接待を控える」といった一般管理費に手をつけがちですが、全体の1〜2割しかない費目を絞っても経営インパクトは小さい。原価の大半を占める外注費・材料費をどう適正化するかが勝負どころです。
戦略3:外注費の適正化——「安く叩く」ではなく「正しく払って囲い込む」
外注費が原価の最大費目である以上、ここの改善効果は大きい。ただし下請を不当に買い叩く方向は誤りです。短期的に原価は下がっても、優良な協力会社が離れ、品質低下と人手確保難を招きます。さらに、不当に低い請負代金は建設業法 第19条の3(不当に低い請負代金の禁止/e-Gov 法令検索・2026年6月時点)に抵触するおそれもあります。
正しい適正化は次の3点です。
工種別の標準単価を社内に持ち、発注のバラつきをなくす
優良協力会社へ年間・包括契約。計画発注で単価と工程を最適化
稼働率と技能を踏まえ、外注すべき工程と内製化を切り分ける
労務費の上昇局面では、協力会社からの値上げ要請に向き合うことも必要です。国は2023年11月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(内閣官房・公正取引委員会・2023年11月29日)を示しており、適正な労務費転嫁は発注者にも受注者にも求められる行動です。協力会社への適正な支払いと、自社からの適正な価格転嫁はセットで設計します。
戦略4:資材調達の見直し——価格高騰を「交渉」と「平準化」で吸収する
資材価格は依然として高止まりしています。調達コストは「その都度・現場任せ」で買うほど高くなりがちです。次の打ち手で吸収します。
| 打ち手 | 内容 | 狙い |
|---|---|---|
| 年間契約・まとめ発注 | 使用量の多い資材を年間で取り決め | 単価の安定・値上げ抑制 |
| 共同購買 | 同業・協力会社と数量をまとめる | ボリュームディスカウント |
| 発注の平準化 | 急な手配・特急便を減らす | 割増・運賃のムダ削減 |
| 価格転嫁 | 見積に資材スライド条項 | 高騰分を適正に反映 |
ここでも「下げる」だけでなく「上がった分を適正に転嫁する」両面が重要です。発注者への価格交渉は、建設業法の適正取引や前述の転嫁指針が後押ししています。
外注費・資材・間接費のどこに利益改善のレバーがあるか、建設業専門のコンサルが無料で診断します。
戦略5:工事間接費・生産支援管理費を「各工事に正しく配賦」する
建設業の利益管理でつまずきやすいのが、現場をまたいで発生する間接費の扱いです。重機リース・仮設・運搬・管理部門の労務など、特定の1工事に直課できない費用を「販管費として一括処理」してしまうと、本当はどの工事が儲かっているのかが見えなくなります。
建設業会計では、こうした共通費(生産支援管理費・工事間接費)を、完成工事高や直接費などの基準で各工事に配賦するのが実務です。配賦を正しく行うと、赤字工事が早期に発見でき、見積精度も上がります。
重機・仮設・管理労務
完成工事高/直接費 等
工事別の真の原価
見積・受注判断に反映
クラウドの原価管理ツールを使えば、この配賦と工事別採算をリアルタイムで把握できます。「締めてみないと利益が分からない」状態から、「進行中に手を打てる」状態へ変えるのが狙いです。
戦略6:DXで「手配・書類・移動」の3大ムダを削る
削りやすく、かつ利益を生む余地が大きいのが、間接業務に潜む「見えない原価」です。建設業のDXは、いきなり大規模システムを入れる必要はありません。投資5万円規模から段階導入し、効果を確認しながら広げるのが鉄則です。
写真・日報・情報共有
移動と書類を削減
工事別採算の見える化
赤字の早期発見
ドローン・3Dで
手戻りと工数を削減
まずはStep1だけでも十分な効果が出ます。現場写真の整理や日報作成の手間が減り、手配・確認のための移動と電話も減ります。導入にあたっては、中小企業のIT投資を支援するIT導入補助金(独立行政法人中小企業基盤整備機構ほか・2026年6月時点)などの公的支援も活用できます。費用対効果を見ながら、Step2・3へ広げていきます。
戦略7:コスト削減を「人材育成」に転換する——統合最適化の発想
最後の戦略が、最も大切です。コスト削減を「我慢」で終わらせず、浮いた時間とお金を人材育成と次の受注力に再投資すること。これがアプリバンクの統合最適化メソッド(人材育成 × DX推進 × 収益改善の三位一体)の核心です。
標準化・DXで生まれた時間を教育とベテランの技能伝承へ
手配・書類・移動のムダを削り、現場が本業に集中
工事別採算の見える化で赤字を防ぎ、利益率を改善
3軸は相乗する。DXで時間が生まれる→育成が進む→生産性が上がる→さらに利益が残る、の好循環。
たとえば施工手順を標準化すれば(戦略1・5)、若手やシニア人材でも一定の品質で施工でき、属人化が解消します。原価管理をデジタル化すれば(戦略5・6)、現場監督は事務作業から解放され、本来の施工管理と後進育成に時間を使えます。コスト削減と人材育成は対立しません。設計次第で同じ方向を向きます。
まとめ:節約ではなく「利益が残る構造」をつくる
建設業のコスト削減で成果を出す会社は、一律カットをしません。「下げてはいけないコスト」を守り、原価の大半を占める外注費・材料費を適正化し、間接費を各工事に配賦して採算を見える化し、DXでムダを削り、浮いた原資を人材育成へ回す——この7つを一貫した設計でつなげています。資材高騰と労務費上昇という逆風のなかでも、利益率を着実に改善している建設会社は確実に存在します。
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