現場の負担のうち、いちばん減らしやすいのに手つかずになっているのが書類です。
人を増やすのはすぐにはできません。工期も相手のあることです。ですが「作らなくてよい書類を作るのをやめる」だけなら、今日から始められます。
この記事では、国土交通省 関東地方整備局の土木工事電子書類スリム化ガイド(ver.4.1・令和8年3月)を読んで、作らなくてよい書類と、その根拠を整理します。
断りを先に。このガイドは関東地方整備局の発注工事(港湾空港関係・営繕関係を除く)のものです。ほかの整備局や自治体は、それぞれ別の手引きを持っています。考え方は参考になりますが、当てはめる前に自社の発注者のものを見てください。
このガイドは「契約図書」です
いちばん大事なところから書きます。ガイドには、こう書かれています。
「土木工事電子書類スリム化ガイド」及び「土木工事電子書類作成マニュアル」は特記仕様書に基づく”契約図書”です。スリム化ガイド等に反する書類作成の指示等は、いわゆる“お願いベース”であっても原則出来ません。
お願いベースでも、原則できないとされています。ここまで書いてあります。
さらに、追加の書類についてはこう続きます。
追加の書類作成を行う場合は、発注者は工事着手前の設計審査会に諮った上で指示することとし、設計変更の対象とします。
追加で書類を作らされるなら、それは設計変更の対象になります。つまり、費用や工期を協議する対象になる、ということです。
反する指示を受けたら、ガイドを示してよい

ガイドの「目的、適用」には、受注者側の動き方まで書かれています。
発注者等から本ガイドに反する指摘等を受けた場合は、発注者等へ本ガイドを提示し、ル-ルの再確認を行うものとする。
「提示して、確認する」ことが、ガイド自身に書かれています。現場の判断で揉めるのではなく、書いてあるものを見せればよい、という形です。
それでも折り合わないときの出口も、ガイドに置かれています。共通認識が得られない場合は、関東地方整備局の企画部 技術調査課へ報告するという経路です。
ガイドには「発注者等からの誤った指摘事例」という章が置かれています。誤った指摘が起きることを、発注者側が前提にしているということです。
実際に挙がっている「誤った指摘」
| 求められたこと | ガイドの見解 | 該当項目 |
|---|---|---|
| 設計図書にない確認・立会 | 設計図書を基本とし、施工計画書作成段階で必要な工種・頻度を確認 | 14 臨場確認 |
| 立会結果の再入力とASPへの添付 | 新たな資料の作成は不要。再度のデータ入力も不要 | 14 臨場確認 |
| 指定材料以外の品質規格証明 | 設計図書で指定された材料以外は提出不要 | 15 材料確認 |
ガイドに載っている事例から、3つ紹介します。いずれも、ガイドが「これは誤り」と明示しているものです。
事例1|設計図書にない確認・立会を求められた
段階確認や立会について、設計図書に書かれていない内容を求められた、という事例です。ガイドの見解は「設計図書を基本とし、施工計画書作成段階で、受発注者で必要な工種、頻度等を確認してください」。
事例2|立会の結果を、もう一度入力させられた
臨場確認のときの写真添付や、立会した結果をあらためてデータ入力してASPに添付するよう指導された、という事例です。ガイドの見解ははっきりしています。
受注者は臨場確認時の状況写真や、臨場確認のための新たな資料の作成は不要です。立会結果は現場でのタブレット等を用いた電子的な記録とし、受注者側で再度データ入力する必要はありません。
二度打ちは、やらなくてよいと書かれています。
事例3|指定していない材料の証明書まで求められた
材料の品質規格証明資料について、指定材料以外も提出を求められた事例です。ガイドの見解は「設計図書(共通仕様書・特記仕様書)で提出を指定された材料以外は提出不要です」。
最初から「要らない」と決まっているもの
ガイドの目次には、提出そのものが不要と整理された項目が並んでいます。
- 全ての書類は電子化。紙と電子の二重提出はしません
- ASP(情報共有システム)の選定は書類不要
- コリンズ(CORINS)登録は書類不要
「念のため紙でも」が、いちばん増えやすいところです。二重提出をやめるだけで、現場の手は空きます。
土日・深夜を抑えるしくみも入っている
ガイドにはウィークリースタンスという項目があります。土日・深夜勤務等を抑制するために実施するもので、全ての工事が対象です(災害復旧工事・維持工事等、緊急を要する場合を除く)。
書類の話と地続きです。打合せや資料の求め方が読めないと、夜や休日に作ることになります。週の進め方を先に決めておく、という考え方です。
発注者側も、負担を認識している
ガイドには「受注者が負担と感じている事例」という章もあります。挙がっているのは、たとえばこうしたものです。
- ワンデーレスポンスといいながら、回答日も示されず、こちらから訪ねても回答が返ってこない
- 設計審査会までに出張所・事務所担当課・本打合せと3段階あり、その都度、打合せと資料修正が発生して時間と労力を消費している
ガイドは、発注者側に「同様の事例で受注者へ負担を掛けることのないよう努めるとともに、必要に応じて改善対応を行うものとする」と求めています。
負担を感じているのは自社だけではない、ということです。言ってよい話として、文書に載っています。
なぜ、要らない書類が増えるのか
制度の話の前に、増えかたの話をします。要らない書類は、悪意で増えるわけではありません。
- 前の工事でそうしていたから。担当者が代わっても、様式だけが引き継がれます
- 念のため出しておく。出して怒られることはないので、判断の基準がないと増える一方になります
- 誰も「要らない」と言わない。根拠を確かめる手間より、作る手間のほうが軽く見えるためです
だからこそ、書いてあるものを根拠にするのが効きます。人と人の力関係ではなく、契約図書に何と書いてあるかの話にできます。
「断る」ではなく「確認する」
ここは言い方の問題ですが、実務では大きく効きます。
ガイドが求めているのは「ガイドを提示し、ルールの再確認を行う」ことであって、拒否ではありません。相手を否定せずに、同じ紙を一緒に見る形です。
現場での言い方としては、こうなります。
この書類は、スリム化ガイドのこの項目に該当すると読めます。念のため、一緒に確認させてください。
監督職員も、ガイドに沿って進める側です。ガイドには、発注者側に対して「スリム化ガイドの内容を発注者等で拡大解釈し、受注者へ過度な負担を掛けないこと」とも書かれています。立場が対立しているわけではありません。
自社のなかで要る書類は、別の話
もう1つ、混ぜてはいけない線があります。ガイドには、こうも書かれています。
ただし、受注者の社内で必要とされる工事書類の作成を妨げるものではない。
発注者に出さなくてよい書類と、自社に要らない書類は、別です。原価管理や安全管理のために自社で持っている記録は、提出が不要でも社内では要ります。
ここを混ぜると、「提出不要だからやめる」で、自社の管理まで薄くなります。仕分けるときは「出すか出さないか」と「持つか持たないか」を、分けて考えてください。
減らした時間を、どこに戻すか
書類を減らすこと自体は目的ではありません。空いた時間をどこに戻すかまで決めて、はじめて成果になります。
- 現場に戻す。段階確認や立会の準備、若い監督への指導にあてる
- 工事成績に戻す。創意工夫や社会性等の記録は、こちらから出せる材料です
- 定時に帰る。ウィークリースタンスは、そのための項目です
決めておかないと、空いた時間は別の書類で埋まります。これはよく起きます。
ここは減らせない、という線
誤解のないように、線も書いておきます。ガイドは、何でも減らしてよいと言っているわけではありません。
(各種法令や諸基準等で規定された書類の作成、提出を削減するものではない。)
法令で決まっている書類は、そのままです。たとえば施工体制台帳そのものは、建設業法第24条の8が作成と工事現場ごとの備置きを義務づけています。ここはガイドでは減りません。ただし、誰にでもかかる義務ではありません。同条がまず対象にするのは、下請に出した金額が一定額以上になる特定建設業者です。公共工事では、入札契約適正化法第15条第1項の読替えにより、下請契約を結んだ建設業者へ対象が広がります。民間工事か公共工事か、下請金額がいくらかで、作る・作らないが変わります。
ただし、作業員名簿に添える書類は別です。ガイドの13は「『作業員名簿』の添付書類は提出不要」「『作業員名簿』の変更は他様式の変更に併せて提出すれば良い」としています。
注意したいのは、添付書類がすべてガイドで減るわけではないことです。施工体制台帳に添える契約書の写しなどは法令側に根拠があります。ガイドが提出不要としているのは、作業員名簿に添える資格証などです。どの添付の話なのかを、その都度たしかめてください。
もう1つ。このガイドは関東地方整備局の発注工事のもので、港湾空港関係と営繕関係は除かれています。ほかの地方整備局や自治体は、それぞれ別の手引きを持っています。自社が受けている発注者のものを見てください。
自社の現場で、どの書類が減らせるのか棚卸ししたい。そうお考えでしたら、無料経営相談でご相談ください。いまの提出物から、根拠のあるものと無いものを仕分けます。
明日から動かすなら、この順番

1. いま出している書類を、1枚ずつ並べる
まず現物です。1つの工事で、何を何部出しているかを並べます。ここを見ないと、減らす対象が決まりません。
2. 根拠を3つに仕分ける
並べた書類を、「法令・諸基準で決まっている」「設計図書に書いてある」「どちらでもない」の3つに分けます。3つめが、話し合える対象です。
3. 着手前の設計審査会で決める
ガイドは、工事着手前の設計審査会で、受発注者間の役割分担を明確にする形をとっています。始まってから揉めるより、着手前に並べるほうが早く済みます。追加を求められた場合も、ここに諮るのが筋になります。
統合最適化でみると、どう効くのか
株式会社アプリバンクは、人材育成・DX推進・収益改善を切りはなさずに見ます(統合最適化メソッド)。書類の削減も同じです。
人材育成 — 根拠で話せる現場監督が育つ
「前もやっていたから」ではなく、「ガイドのここにこう書いてあります」と言えるようになること。これは技術とは別の、現場を守る力になります。
DX推進 — 二度打ちをやめるところから
大きなシステムを入れる前に、紙と電子の二重提出をやめる。立会結果の再入力をやめる。ここだけで手が空きます。空いた手で、次の仕組みを入れられます。
収益改善 — 書類の時間は、原価です
現場監督が書類に使う時間は、そのまま現場管理費です。減らした時間は、利益として残るか、別の工事に回せます。
この3つは、別々の話ではありません。二度打ちをやめる(DX)から、監督に時間が生まれ、根拠で話す余裕ができ(人材育成)、結果として現場管理費が下がります(収益改善)。ひとつの作業が3つに効くところを選ぶ、というのが統合最適化の考え方です。
まとめ
- スリム化ガイドは特記仕様書に基づく「契約図書」。反する書類作成の指示はお願いベースでも原則できないと明記されています
- 追加の書類は、着手前の設計審査会に諮ったうえで指示し、設計変更の対象になります
- 反する指摘を受けたら、ガイドを提示してルールを再確認する——これもガイド自身に書かれた手順です
- ASP選定・CORINS登録は書類不要、紙と電子の二重提出はしない
- ただし法令・諸基準で規定された書類は減りません。またこのガイドは関東地方整備局の工事のものです
現場の手を、書類から現場に戻したい。そうお考えでしたら、無料経営相談へどうぞ。建設業に特化して、人材育成・DX推進・収益改善をまとめて見ます。
本記事は制度の一般的な内容をお伝えするものです。個別の工事における書類の要否は、その工事の設計図書と発注者の担当窓口にご確認ください。
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出典
- 土木工事電子書類スリム化ガイド ver.4.1(国土交通省 関東地方整備局・令和8年3月・PDF)
- 工事書類の簡素化・統一化(国土交通省 関東地方整備局)
- 土木工事書類作成マニュアル(国土交通省 中国地方整備局・PDF)
- 工事書類の簡素化について(国土交通省 北陸地方整備局)
出典はいずれも 2026年9月27日時点で公式サイトを確認しています。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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