建設業の資金ぐりが苦しいのは、経営がへたなせいではありません。材料費と外注費が先に出て、工事代金はあとから入る。この順番が、はじめから決まっているからです。
ところが公共工事には、着工する前に現金を受け取れるしくみがあります。前払金です。使っていない会社もあります。
この記事では、前払金でいくら受け取れるのか、どの順番で請求するのか、うけとったお金を何に使えるのかを、公式の資料にあたって整理します。
前払金とは、着工前にうけとる現金のこと
前払金は、資材の購入や人の手配にあてるため、工事が始まる前に発注者からうけとるお金です。借入ではないので、返済の予定を組む必要も、利息もありません。ただし「何があっても返さなくてよい」ではありません。契約が解除されたときや請負代金が減額されたときは、受け取りすぎた分を発注者へ返します。約款の定めによっては、返す日までの利息が付くことがあります。自社の契約書で、解除・減額のときの前払金の扱いを必ず確かめてください。
国土交通省 関東地方整備局の資金繰り対策では、請負代金額の40%と説明されています。1億円の工事なら4,000万円です。
着工前に4,000万円が入るのと、入らないのとでは、下期の資金ぐりはまったく別ものになります。
「4割」は、どこで決まっているのか

ここはつまずきやすいところなので、ていねいに書きます。4割という数字は、3段になっています。
まず、法令が上限を決めています。地方自治法施行規則の附則第3条は、地方公共団体の工事について、請負代金額が50万円以上の土木建築工事の前金払を「四割を超えない範囲内」と定めています。追加の前金払(中間前払金)は「二割を超えない範囲内」です。
そのうえで、契約書の割合は発注者が書きこみます。中央建設業審議会が決めた公共工事標準請負契約約款の第35条(A)は、本体が「請負代金額の十分の〇以内の前払金の支払いを発注者に請求することができる」と空欄になっていて、その下の注に「○の部分には、たとえば、四と記入する」と書かれています。
つまり、3段です。法令が上限として4割を置き、約款が記入例として四を示す。そのうえで、実際の割合はその工事の契約書で決まります。
実務では、その工事の契約書と特記仕様書を見るのが正解です。「4割のはずだ」と思いこんで資金計画を組むと、ちがっていたときに効きます。
中間前払金で、さらに2割

前払金には、続きがあります。工期の半ばで、さらに2割を受け取れるしくみです。あわせて6割になります。
地方自治法施行規則 附則第3条第2項は、追加の前金払の要件として工期の2分の1の経過・工程表どおりの作業・既済の経費が請負代金額の2分の1以上の3つを挙げています。関東地方整備局の説明では、これに当初の前払金の支出を加えたつぎの4つとして整理されています。
- 当初の前払金が支出されていること
- 工期の2分の1を経過していること
- 工期の2分の1を経過するまでに実施すべき作業が行われていること
- 工事の進捗出来高が請負金額の2分の1以上に達していること
「工期が半分すぎた」だけでは足りません。出来高も半分に達している必要があります。ここをとりちがえると、請求してもみとめられません。
うけとるまでの順番
前払金は、請求すれば自動で振り込まれるものではありません。あいだに保証事業会社が入ります。
公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27年法律第184号)は、第1条でこの法律の目的を「公共工事に関する前金払の適正且つ円滑な実施を確保するため」と定めています。
保証事業会社が何をするかは、同法第2条2項にあります。受注者が工事を続けられなくなり、発注者が契約を解除したとき。そのときに、前払いされた額のうち出来ていない分を、受注者に代わって発注者へ支払う。そういうしくみです。
発注者から見れば、前払いしても取りはぐれない。だから前払いできる。この保証があるからなりたっている制度です。
手順そのものは、次の流れになります。
- 保証事業会社と保証契約をむすぶ(保証料がかかります)
- 保証証書を発注者にあずける
- 発注者に前払金を請求する
- 中間前払金を受け取る場合は、これに加えて発注者への認定請求と認定調書の取得、および中間前払金についての保証の手続きが要ります
保証料は、前払金の使いみちとしてみとめられています(後述の第37条)。ただし支払う順番に注意してください。都度お支払いになる場合は、保証契約を前払金の入金より先に結ぶため、保証料の振込が先になります。まとめて納める取扱いもあるので、実際の支払時期は保証事業会社にご確認ください。使いみちとして認められることと、立替えが要らないことは別の話です。
うけとったお金は、何にでも使えるわけではない

ここがいちばん誤解されるところです。前払金は、その工事のためのお金です。
公共工事標準請負契約約款 第37条(A)(前払金の使用等)は、前払金を「この工事の」次の費用以外に充ててはならないと定めています。
- 材料費、労務費、機械器具の賃借料
- 機械購入費(この工事において償却される割合に相当する額に限る)
- 動力費、支払運賃、修繕費、仮設費
- 労働者災害補償保険料、保証料
ここから先は、契約がどちらの型かで変わります。約款の第37条には(A)と(B)の2つがあり、注に「この工事において認められている前払金の使途の範囲に応じて、(A)又は(B)を選択して使用する」と書かれています。
(A)の型には、ただし書があります。前払金額の百分の○○を超えない範囲で、現場管理費および一般管理費等のうちこの工事の施工に要する費用にも充てられる、という定めです。約款の注では「たとえば、二十五と記入する」とされています。
(B)の型には、このただし書がありません。列挙された費目だけになります。どちらの型かは、その工事の契約書で確かめてください。
(A)の型では、中間前払金にこのただし書がかかりません。同条第2項が、中間前払金を上の列挙した費目に限っているためです。同じ契約のなかでも、前払金と中間前払金で使える範囲がちがいます。
ほかの工事の赤字を埋める、借入を返す、といった使い方はできません。「現金が入った」ではなく「この工事の経費が先払いされた」と受けとめるのが正確です。
資金ぐり全体の組み方は建設業の資金繰り改善に、災害復旧の工事で前払金を使う場面は災害復旧の資金と税にまとめています。この記事は、平時の公共工事で前払金そのものをどう取るかに絞っています。
前払金を受けたら、下請にも回す
元請が前払金をうけとったときには、法律が下請への配慮を求めています。
建設業法第24条の3第3項は、元請が前払金の支払いを受けたとき、下請に対して、資材の購入や労働者の募集など着手に要る費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をしなければならないと定めています。
同条2項では、出来形部分や完成後の支払いを受けて下請代金を支払う場面について、そのうち労務費にあたる部分は現金で支払うよう配慮することを求めています。
前払金は、元請の手元で止めるお金ではありません。下請も同じように、材料と人手の手配で先にお金が出ていきます。ここを回すかどうかは、来期に協力会社が残ってくれるかに直結します。
1億円の工事で、どう入ってくるか

数字で追うほうが早いので、請負代金1億円・工期6か月の公共工事を例にします。前払金を4割、中間前払金を2割としたときです。じっさいの割合は発注者によってちがいますので、ここは説明のための例とお考えください。
| 時期 | うけとる名目 | 金額 |
|---|---|---|
| 着工前 | 前払金 4割 | 4,000万円 |
| 工期の半ば | 中間前払金 2割 | 2,000万円 |
| 引渡し後 | 残りの請負代金 | 4,000万円 |
完成を待たずに、6,000万円が先に入る形になります。この6,000万円は借入ではないので、利息もつきませんし、返済の予定を組む必要もありません。
同じ1億円の工事でも、前払金を使わなければ、完成して検査が終わるまで、材料費も人件費も自社で立てかえることになりがちです。ただし契約に部分払(出来形部分払)の定めがあれば、完成前でも出来形に応じて支払いを受けられます。前払金を使わない=完成まで一切入らない、ではありません。契約書の支払条項を先に見てください。ここが、資金ぐりの重さを分ける分かれめです。
使えない工事もある
前払金は、どの工事でも使えるわけではありません。先に線を引いておきます。
- 民間の発注でも、対象になるものがあります。公共工事の前払金保証事業に関する法律第2条第1項は、国や地方公共団体が発注する工事に加えて、国土交通大臣が指定する工事も「公共工事」に含めています。指定は昭和39年建設省告示第1333号にあり、電気・ガス・鉄道の設備拡充工事、学校教育法第1条の学校の校舎など教育施設、私立図書館・私立博物館の施設、PFI法の選定事業者が発注する工事など21の区分が挙げられています。これらに当たらない民間工事は対象外で、前受けをもらうなら契約のなかで個別にとり決めることになります
- 契約に条項がなければ請求できません。中間前払金は、その工事の契約約款に条項があることが前提になります
- 保証事業会社の保証を受けられることが前提です。保証には審査があります
「公共工事だからかならずもらえる」ではありません。その工事の契約書に何と書いてあるかが、すべての出発点です。
よくある3つの失敗
1. 割合を思いこみで見積もる
くり返しになりますが、約款の割合は空欄です。「前は4割だったから今回も4割」と置いて資金計画を組むと、ちがっていたときに月をまたいで響きます。工事ごとに契約書を見ます。
2. 中間前払金を、工期だけで数える
条件は工期の2分の1と、出来高の2分の1の両方です。工期は日数で数えれば出ますが、出来高は自社でつかんでいないと出ません。出来高が月ごとに出ていない会社は、そもそも請求できるかどうかを見分けられません。
3. ほかの工事に回してしまう
約款第37条の使いみちの制限は、「この工事の」費用に限るという書きぶりです。手元に現金があると、つい別の支払いに回したくなります。ここは分けて管理するほかありません。なお保証事業会社は、前払金を預け入れる専用口座を定めることを求めます。この口座からの払い出しは使途の確認を受ける取扱いになるため、「工事ごとに口座を分けると管理しやすい」という社内の工夫とは別のものです。手続きの詳細は保証契約を結ぶ保証事業会社にご確認ください。
保証料は、いくらぐらいか
保証料の料率は保証事業会社が定めており、工事の内容や期間によって変わります。当社で一律の数字をお示しできる性質のものではありませんので、ここでは金額を書きません。
お伝えできるのは、保証料は約款第37条で前払金の使いみちとして認められているという点です。前払金のなかから払えます。じっさいの料率は、保証事業会社に見積もりを取って確かめてください。
下期に、これをどう使うか
下期は、公共工事の発注が動く時期です。前払金をつかうと、資金ぐり表の形が変わります。
- 着工月に入金が立つので、材料の前倒し発注ができる。値上がり前に押さえられます
- 借入をふやさずに運転資金を厚くできる。利息が乗りません
- 中間前払金を見込むなら、出来高の管理が前提になります。出来高が半分に届かないと受け取れません
気をつけたいのは、前払金が「入ってくる予定」のまま資金計画に組みこまれることです。保証契約を結び、証書を預け、請求して、はじめて入ります。段取りの日数を見ておかないと、要る月に間に合いません。
自社の工事で前払金が使えるのか、いくら入るのかを確かめたい。そうお考えでしたら、無料経営相談でご相談ください。契約書のどこを見ればよいかから、ご一緒します。
統合最適化でみると、どう効くのか
株式会社アプリバンクは、人材育成・DX推進・収益改善を切りはなさずに見ます(統合最適化メソッド)。前払金も同じです。
人材育成 — 契約書を読める人が育つ
割合が約款で空欄である以上、その工事の契約書を読むしかありません。前払金を取りにいく作業は、現場や事務の担当者が契約書と特記仕様書を読むけいこになります。
DX推進 — 出来高がわかると、中間前払金が取れる
中間前払金の条件は出来高が請負金額の2分の1以上です。出来高が月ごとに出ていない会社は、条件を満たしているかどうかも言えません。工事台帳に出来高が入っているかどうかが、そのまま現金に効きます。
収益改善 — 借りずに運転資金が厚くなる
同じ4,000万円でも、借入なら利息がつきます。前払金に利息はつきませんが、保証料はかかります。それでも、借入に頼らず手元を厚くできる数少ない手です。
この3つは、別々の話ではありません。出来高を月ごとに出す(DX)から、中間前払金の条件を満たしているかが判断でき(人材育成)、その結果借入に頼らず資金が回る(収益改善)。ひとつの作業が3つに効くところを選ぶ、というのが統合最適化の考え方です。
まとめ
- 前払金は着工前にうけとる現金。関東地方整備局の説明では請負代金額の40%
- 上限は法令が決めています。地方自治法施行規則 附則第3条で、前金払は「四割を超えない範囲内」、追加分は「二割を超えない範囲内」
- 約款の本体は「十分の〇」と空欄で、注に「たとえば、四と記入する」。実際の割合は、その工事の契約書で決まります
- 中間前払金でさらに2割、あわせて6割。ただし工期・出来高とも2分の1以上が条件です
- 使いみちは約款第37条で、その工事の材料費・労務費などに限定されます。(A)の型なら、ただし書で前払金額の一定割合までは現場管理費・一般管理費等にも充てられます(中間前払金は対象外。(B)の型にはただし書がありません)
- 元請が前払金を受けたら、建設業法第24条の3第3項により、下請への前払いに配慮する義務があります
下期の資金計画を、前払金まで含めてくみ直したい。そうお考えでしたら、無料経営相談へどうぞ。建設業に特化して、人材育成・DX推進・収益改善をまとめて見ます。
本記事は制度・法令の一般的な内容をお伝えするものです。個別の契約や税務の判断については、発注者の担当窓口、弁護士・税理士などの専門家にご確認ください。
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出典
- 2.資金繰り対策(国土交通省 関東地方整備局)
- 公共工事の前払金保証事業に関する法律による土木建築に関する公共工事(昭和39年建設省告示第1333号・国土交通省)
- 公共工事標準請負契約約款(中央建設業審議会・令和7年12月2日改正・PDF)
- 地方自治法施行規則(e-Gov法令検索)
- 公共工事の前払金保証事業に関する法律(e-Gov法令検索)
- 建設業法(e-Gov法令検索)
- 公共工事の前払金保証事業に関する法律(国土交通省)
出典はいずれも 2026年9月27日時点で公式サイトをたしかめています。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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