「うちは4,500万円を超えたら台帳」。そう覚えている元請の方は、いちど数字を直してください。
2025年2月1日から、5,000万円になりました。建築一式工事なら7,000万円が8,000万円です。
ここで気をゆるめると、あぶない。金額が上がったぶん「うちはもう関係ない」と読みかえてしまう会社があります。ところが公共工事には、この金額そのものが当てはまりません。そして書きもれた台帳は、監督処分から経営事項審査の減点へ、公共工事の失注へとつながっていきます。
この記事では、金額の線引き、誰を書くのか、いつまで持つのかを、国土交通省の原典にあたって整理します。
先に、いちばん多いやりとりを書いておきます。「うちはそんなに大きな工事はやっていないから」。そうおっしゃる方は、ほんとうに多い。ですが、その「大きい」のものさしが、いつのものなのか。そこだけは、いちど合わせておいてください。ものさしは、去年ずれました。
30秒で判定する——うちの工事は、台帳が要るのか
数字の話に入る前に、順番を決めておきます。金額から見にいくと、かならずもれます。見る順は3つです。
- 下請に出しましたか。1社も出していないなら、施工体制台帳は要りません。自社だけで完結する工事は対象外です。
- 公共工事ですか、民間工事ですか。公共工事なら、金額にかかわらず作ります(入契法第15条)。下請契約を1本でも結んだ時点で義務が立ちます。100万円でも作ります。ここで判定は終わりです。
- 民間工事なら、下請代金の総額はいくらですか。合計で5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)なら作ります。1社ごとではなく、その工事で結んだ下請契約の総額で見ます。
つまずくのは、たいてい2番です。5,000万円という数字だけが頭に残っていて、公共の仕事にも同じ線を当ててしまう。公共か民間かを先に見る。それだけで、いちばん多い取りちがえは防げます。
5,000万円に上がった。ただし「要らなくなった」のではない

まず、変わったところから。
国土交通省は2024年12月6日に「建設業法施行令及び国立大学法人法施行令の一部を改正する政令」を閣議決定しました。理由として挙げられているのは、建設工事費の高騰と、人件費の高騰です。
施工体制台帳をつくらなければならない下請代金の総額は、4,500万円から5,000万円へ。建築一式工事は7,000万円から8,000万円へ。いずれも2025年2月1日から動いています。
金額の線は、2025年2月1日にずれました
| 適用時期 | 一般の工事 | 建築一式工事 |
|---|---|---|
| 2025年1月31日まで | 4,500万円以上 | 7,000万円以上 |
| 2025年2月1日から | 5,000万円以上 | 8,000万円以上 |
ここで見落としやすいのが、同じ政令で特定建設業許可の金額要件も同じ数字に変わっていることです。元請として5,000万円以上(建築工事業は8,000万円以上)の下請契約を結ぶなら特定建設業の許可が要る、という線引きも、まったく同じ位置に引き直されました。
つまり4,500万円から5,000万円までの帯が、許可も台帳もいらない範囲に移ったということです。逆にいえば、5,000万円をこえた瞬間に、許可と台帳が同時にのしかかります。片方だけ手当ててほっとする、ということが起きやすい形になっています。
言いかえると、こうです。ゆるくなったのではなく、線が右にずれただけ。やることは、ひとつも減っていません。むしろ、こういうときのほうがあぶない。「上がったらしい」とだけ聞いて、いくらになったのかを見ていない。そのまま前の数字で回している会社と、新しい数字で見ている会社が、同じ現場に混ざります。
公共工事は、金額に関係なく作る

いちばんの落とし穴は、ここです。
いま挙げた5,000万円は、民間工事の話です。公共工事では、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)第15条により、下請契約の金額にかかわらず、下請契約を結んだ時点で台帳の作成義務が生じます。
100万円の下請契約でも、作ります。「小さい工事だから」は、公共工事では通りません。
ここは、ほんとうに取りちがえが多いところです。5,000万円という数字だけが頭に残ってしまう。そして、おおやけの仕事でも同じだと思ってしまう。けれども、おおやけの仕事のほうは、いくらであっても、ひとつでも下請に出したらそこで義務が立ちます。金額を見にいく前に、まずどちらの仕事かを見てください。順番が逆だと、かならずもれます。
できあがった台帳のあつかいも、公共と民間でちがいます。
公共工事では、作成した台帳の写しを発注者に提出します。ただし同省の資料には、システム等で発注者が直接、施工体制台帳を参照できるときは提出が免除されると書かれています。条件は発注者ごとにちがうので、そこは個別にお確かめください。
民間工事では、提出ではなく閲覧です。発注者から請求があったときに、備え置いた台帳を見せられる状態にしておきます。
書くのは「全部の下請」——無許可でも、三次でも

どこまで書くかでつまずく現場が、とても多いところです。
同省は「建設工事の請負契約におけるすべての下請負人が記載対象」としています。そして、建設業の許可を受けていない業者もふくみます。一次下請だけでなく、二次、三次と続くぶんも全部です。
逆に、書かなくてよいものもはっきりしています。建設工事の請負契約にあたらない、資材の納入、調査、運搬などは、建設業法のうえでは書かなくてかまいません。
ただし、ここに但し書きがつきます。発注者が仕様書などで書くことを求めているときは、書かなければなりません。同省が発注する工事では、警備会社との契約について共通仕様書で書くよう求めている、という例が挙げられています。法律で要らないことと、契約で要らないことは別だ、ということです。
いま動いている現場のうち、台帳の対象になるものはいくつありますか。
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再下請負通知書は、元請が先に動かないと集まらない

台帳は、元請がひとりで書けるものではありません。下から情報が上がってくる仕組みを、元請が先に作る必要があります。
建設業法第24条の8第2項にもとづく再下請負通知がそれです。下請が、さらに別の業者に工事を請け負わせたときは、遅滞なく再下請負通知書を、台帳を作る元請(作成建設業者)へ提出します。
そのまえに、元請がやるべきことが2つあります。
1つめは、下請への書面通知です。同省の通知では、書く内容が3点に定められています。自社の商号または名称。再下請負をしたときは通知が必要である旨。そして、再下請負通知書を提出する場所。この書面は、相手の承諾を得れば電磁的な方法でも通知できます(建設業法施行規則第14条の3第5項)。
2つめは、同じ内容を工事現場の見やすい場所に掲示することです。書面を配るだけでは足りません。
出しかたには、ゆとりがあります。二次の下請が元請へじかに出しても、一次の下請を通して出してもかまいません。いっぽうで、さらに下へ出していない下請には、通知書を出す義務はありません。末端まで一律に紙を集めようとすると、かえって現場が止まります。
言われた側からすると、ここはわかりにくい。「自分は出すのか、出さなくていいのか」が、その場でぱっと決められないからです。判断のもとになるのは、ひとつだけ。自分がさらに下へ出したかどうか。出していれば要る。出していなければ要らない。ここを最初のひとことで伝えておくと、あとのやりとりがずいぶん軽くなります。
施工体系図は、掲示する場所が公共と民間でちがう

台帳ができたら、その要約版として施工体系図を樹状図の形で作り、掲示します(建設業法第24条の8第4項、施行規則第14条の6)。
掲示する場所が、公共と民間で分かれます。
民間工事は、工事関係者が見やすい場所。公共工事は、それに加えて公衆が見やすい場所にも掲示します。入契法第15条による上乗せです。通りがかった人が見える位置に出す、ということですから、囲いの外側を意識することになります。
中身にも決まりがあります。表示するのは、現に施工中の下請負人だけです。施工中かどうかは、請負契約で定めた工期を基準に判断します。工期が終わった業者を貼りっぱなしにしていると、実態と合いません。
ここが、いちばん抜けます。作った時点では正しくても、工期のとちゅうで下請が入れかわったときに直らない。図は壁に貼ってあるので、誰も見なくなります。下請の出入りと図の更新を、同じ人の同じ手順にしておかないと続きません。
なお、デジタルサイネージによる掲示も認められています(国土交通省通達・令和4年1月27日 国不建第446号)。紙の貼り替えが更新もれの原因になっているなら、こちらを考える手があります。
引渡しで終わりではない——保存期間と、統合最適化

備え置く期間は、工事目的物を発注者に引き渡すまでです。工事現場ごとに備え付けます。
そこで捨てられません。引渡しのあとは、台帳から必要な部分を抜き出し、建設業法第40条の3の帳簿の添付資料として保存します。帳簿の保存期間は5年間。ただし、発注者と結んだ新築住宅の工事にかかるものは10年間です。
ここでもうひとつ、期間のちがう書類があります。施工体系図です。体系図は「営業に関する図書」に入るため、工事の目的物を引き渡してから10年間の保存になります。掲示をやめたら捨ててよい紙ではない、ということです。工期中に貼るものと、あとで残すものが、同じ一枚だと思われがちなところです。
電子でもかまいません。同省の通知は、ファイルや磁気ディスク等に記録され、必要に応じてその現場で紙面に明確に表示できるなら、記録をもって記載および添付書類に代えられるとしています。紙で綴じることが義務なのではない、ということです。
ここから先は、経営の話にします。
人材育成の面。台帳は、下請の許可・保険加入・配置技術者の資格が一枚に並ぶ書類です。これを若手に書かせると、法令の構造がそのまま頭に入ります。ベテランが片手間で埋めているうちは、知識も一緒に引退します。CCUSの技能者情報と突き合わせれば、育成の材料にもなります。
DX推進の面。台帳の中身は、労務安全書類と大きく重なります。同じ情報を二度入れているなら、そこが削れます。電子で持てると法令が認めている以上、紙のままにしておく理由は薄い。
収益改善の面。台帳に載る下請代金の総額は、そのまま外注費の実額です。原価管理の入り口として使えます。法令対応のためだけに作っているうちは、コストにしかなりません。
3つは、同じ台帳の上でつながります。誰が、どの契約で、いくらで入っているか。それが一枚にある状態が、出発点です。
よくある質問
資材の納入や運搬、警備会社も台帳に書きますか
建設工事の請負契約にあたらない資材の納入・調査・運搬は、建設業法のうえでは書かなくてかまいません。ただし発注者が仕様書などで求めているときは書きます。国土交通省が発注する工事では、警備会社との契約について共通仕様書で記載を求めている例があります。法律で要らないことと、契約で要らないことは別です。
二次・三次の下請や、許可を持っていない業者も書きますか
書きます。記載対象は「すべての下請負人」で、建設業の許可を受けていない業者もふくみます。一次だけで止めると、そこが書きもれになります。
台帳は、いつまで置いておきますか
現場に備え置くのは引渡しまでです。そのあとは台帳の必要部分を帳簿の添付資料として5年間(新築住宅の工事は10年間)保存します。電子での保存が認められています。施工体系図は期間がちがい、「営業に関する図書」として引渡しから10年間です。
まとめ
整理します。
- 民間工事の作成義務は下請代金の総額5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)。2025年2月1日から。それ以前の4,500万円・7,000万円は古い数字
- 同じ政令で特定建設業許可の金額要件も同額に変わった。5,000万円をこえると、許可と台帳が同時に必要になる
- 公共工事は金額にかかわらず作成義務。写しを発注者に提出する(システムで参照できるときは免除あり)。民間工事は請求があったときの閲覧
- 記載対象はすべての下請負人。無許可業者も、二次・三次下請もふくむ。資材納入・調査・運搬は建設業法上は不要だが、仕様書で求められることがある
- 元請は下請への書面通知と、現場への掲示を先に行う。再下請負をしていない下請に提出義務はない
- 施工体系図は民間=工事関係者が見やすい場所、公共=それに加えて公衆が見やすい場所。表示するのは現に施工中の下請だけ
- 備置きは引渡しまで。そのあとは台帳の必要部分を帳簿の添付資料として5年間(新築住宅の工事は10年間)保存。電子で可
- 施工体系図は「営業に関する図書」にあたり、引渡しから10年間の保存。台帳とは期間がちがう
この分野がやっかいなのは、間違えても、その場では何も起きないことです。台帳に書きもれがあっても、工事は進みます。表に出るのは、立入検査や、発注者の点検のときです。そのときには直せません。いま動いている現場で確かめられるうちに、確かめておくことです。
台帳と体系図、いまの現場で「そのまま点検を受けられる」状態になっていますか。
建設業に特化した無料の経営相談を、毎月5社まででお受けしています。施工中の工事一覧と、いま使っている施工体制台帳の様式をおもちください。書きもれが出やすいところを洗い出し、電子化で減らせる手間まで含めてお返しします。
この記事について
執筆:佐藤 望(さとう のぞむ)/株式会社アプリバンク 代表取締役
建設業界での経験は30年。大手ゼネコンでは20年にわたり、現場・財務・人事を横断して担当してきました。海外5カ国での施工経験もあります。現在は建設業に特化した経営コンサルティングを行い、人材育成・DX推進・収益改善を同時に動かす「統合最適化メソッド」を提供しています。
現場に長くいて、いちばん多く見てきたのは「作ったきり、更新されない施工体系図」です。着工のときは正しい。ところが下請が入れかわると、図だけが取り残されます。台帳や体系図を法令対応の紙だと考えているかぎり、この抜けは必ず出ます。下請の出入りを管理する道具として使っている会社は、更新もれが起きにくい。差がつくのは、書式ではなく、誰の手順に組み込まれているかでした。
なお、本記事は制度の内容をお伝えするものです。個別の工事における義務の有無や記載内容の判断は、許可行政庁または発注者にご確認ください。
お問い合わせ:株式会社アプリバンク/無料経営相談
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出典
- 国土交通省 報道発表「建設業の各種金額要件や技術検定の受検手数料を見直します」(令和6年12月6日)
- 国土交通省 不動産・建設経済局建設業課長通知「施工体制台帳の作成等について」(建設省経建発第147号・最終改正 令和4年12月28日・PDF)
- 国土交通省 関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法」(令和8年2月版・PDF)
- e-Gov法令検索 建設業法(昭和24年法律第100号)第24条の8
- e-Gov法令検索 建設業法施行令(昭和31年政令第273号)
- 国土交通省「施工体制台帳の添付資料に係る建設業法施行規則の改正について」
本記事の内容は2026年8月10日時点の情報にもとづきます。金額要件や記載事項は法令改正により変わることがあり、個別の工事における義務の有無は発注形態や契約内容により結論が変わります。実際の運用にあたっては、許可行政庁または発注者にご確認ください。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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