
その許可があるのか、わからないまま着工の日が来ていませんか。
東京都渋谷区のマンション工事では、区の工事停止命令が190日出たままでした(令和8年4月6日〜10月13日)。報道によれば、許可のないまま斜面を切ったことが発端です。
許可を取るのは工事主です。けれど、止める命令は下請にも出せます。
この記事では、元請や一次下請として切土や擁壁の段取りを組む方に向けて、着工前に自分の目でたしかめる4つ(区域・規模・許可証・検査)を、順に書きます。
10月9日に東京高裁が地裁の決定を取り消し、区は10月13日に命令を取り消しました。裁判はまだつづいています。
監修: 代表取締役 佐藤 望(建設業界30年・建設業経理士1級/記事末に経歴)
最終確認日: 2026年11月2日(裁判の経過は渋谷区の発表で、条文はe-Govの原文でたしかめました)
この記事は、社員10〜100人ほどの地場の建設会社の社長と工事部長に向けて書いています。元請や一次下請として、宅地やマンション、造成の現場を持ち、切土や擁壁の段取りを組んでいる方です。
渋谷区の現場で何が起きたか
まず、何があったのかをじゅんばんにみます。いちばんたしかな資料は、区がホームページで出した発表です。
東京都は令和6年7月31日に、盛土規制法の規制区域を指定しました。この区域の中である大きさをこえる盛土などをするときは、まえもって渋谷区長の許可がいります。
| 日付 | できごと | 出どころ |
|---|---|---|
| 2025年6月 | 許可を得ないまま、傾斜地の擁壁が壊され、切り崩した土が現場の高いところに盛られた | 報道 |
| 2026年3月31日 | 東京地裁が、近くの住民の申立てを受け、区に「停止を命じること」を仮に義務付けた | 区の発表 |
| 4月6日 | 区が事業者に、工事の停止と安全のための措置を命じた | 区の発表 |
| 4月7日 | 区が即時抗告(不服の申立て)をした | 区の発表 |
| 10月9日 | 東京高裁が、地裁の決定を取り消した | 区の発表 |
| 10月13日 | 区が停止命令を取り消した | 区の発表 |
| その後 | 住民側が最高裁に特別抗告。本体の裁判は地裁で続いている | 報道・区の発表 |
(出典: 渋谷区「盛土規制法」/東京新聞デジタル 2026年10月20日)

区が命令を取り消したのは、考えを変えたからではありません。仮の義務付けがなくなったら、それにもとづく命令も取り消す。そう行政事件訴訟法が決めているためです(第37条の5第5項)。
では、高裁は何を見たのか。報道によれば、高裁は地裁と同じく、許可のない切土は盛土規制法に違反するとみとめました。そのうえで、擁壁を壊す工事はもう終わり、新しい擁壁の工事は許可を得ているとして、止める決定を取り消しました。
ここから現場が学べることは、2つあります。1つは、許可がないまま手をつけると、違反と判断されるおそれがあることです。もう1つは、住民が裁判所に申し立てれば、止める命令が半年ほど出たままになることもある点です。
止める命令が出ていた期間は190日でした。ただし、現場が実際に何日止まったかは、たしかめられていません。
許可がいるかは「崖の高さ」と「面積」で決まる
工事部長が図面をひらいたとき、まずみるのは、切ったり盛ったりした後にできる崖の高さです。盛土規制法では、崖は「30度をこえる斜面」をいいます。かたい岩盤はのぞきますが、風化のひどい岩盤は崖に入ります(施行令第1条)。

規制区域には2つの種類があり、許可がいる線がちがいます。街や集落とその周りが「宅地造成等工事規制区域」です。それ以外のところで、盛土がくずれると人にあぶない区域が「特定盛土等規制区域」です(法第10条・第26条)。
残土などをあとで運び出すためにおく「土石の堆積」にも、別の許可の基準があります。工事に付随する仮置きの扱いもふくめ、現場のある役所の窓口でたしかめてください(法第2条4号)。
特定盛土等規制区域では、許可の線より小さくても、始める30日前までに届け出る工事があります(法第27条1項)。
| こんな工事 | 宅地造成等工事規制区域 | 特定盛土等規制区域 |
|---|---|---|
| 盛土で崖ができる | 高さ1mをこえる | 高さ2mをこえる |
| 切土で崖ができる | 高さ2mをこえる | 高さ5mをこえる |
| 盛土と切土を同時にして崖ができる | 高さ2mをこえる | 高さ5mをこえる |
| 1mや2mの崖の条件に当たらないが、盛土が高い | 高さ2mをこえる | 高さ5mをこえる |
| 上のどれでもない盛土・切土 | 面積500㎡をこえる(高さ2m以下で、地面の高さの差が30cm以下なら不要。30cmは都道府県で変わることも) | 面積3,000㎡をこえる |
(出典: e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」第3条・第23条・第28条/同「宅地造成及び特定盛土等規制法」第12条・第30条・第32条/同 施行規則第8条9号)

宅地造成等工事規制区域では、切土で2mをこえる崖ができるなら、面積が小さくても許可がいります。古い擁壁を壊して地盤を切り下げる工事も、切ったあとにできる崖の高さでみます。
図2は国の基準です。特定盛土等規制区域では、都道府県が条例で線を下げていることがあります(法第32条)。その地域の条例もみてください。
許可を取るのは工事主。でも止められるのは現場
「許可は施主のしごとだから、うちは図面どおりに施工するだけ」。下請の現場では、そう考えがちです。
法律の言葉でみると、許可を取るのは「工事主」です(法第12条1項)。工事主は、工事を注文した人か、請負によらず自分で工事をする人のことです(法第2条7号)。自分の会社の土地を、自分の会社で造成するなら、自社が工事主です。
ところが、止める命令の相手は広く決まっています。許可がない工事では、工事主だけでなく、請負人(下請をふくむ)や現場管理者にも、止めるよう命じられます(法第20条2項)。
もう1つの区域では、第39条2項が同じ決まりです。
| 場面 | 法律に書いてあること | 罰則 |
|---|---|---|
| 許可なしの工事 | 許可を受けないで宅地造成などの工事をしたとき(第55条1項1号) | 3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金。法人は3億円以下の罰金(第60条) |
| 停止命令にしたがわない | 第20条2項〜4項の命令に違反したとき(第55条1項4号) | 同上 |
| 技術的基準に合わない工事 | 技術的基準(第13条1項)に合わない設計の工事が行われたとき、設計をした人が対象。設計図書を使わず、または設計図書にしたがわずに施工していたときは、工事施行者(請負人)の代表者や従業者が対象(第55条2項) | 3年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金 |
| 標識を出さない | 許可を受けた工事主は、土地の見やすい場所に標識を掲げる(第49条) | 50万円以下の罰金(第59条) |
(出典: e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法」第20条・第49条・第55条・第59条・第60条)
第55条1項の罰則は「違反行為をした者」が相手です。請負人がどこまでとわれるかは、ひとつずつの判断です。迷ったときは、着工のまえに弁護士へたしかめてください。
第55条2項は、擁壁や排水などの技術的基準に合わない工事への罰です。ふだん罰を受けるのは、設計をした人のほうです。
ただし、設計図書を使わずに、またはしたがわずに施工していたら、請負人の側が相手です。図面にない「少しだけ切り足す」判断は、まず元請と工事主に相談してください。
下請のたちばでは、施主に「許可はありますか」と聞きにくいこともあるでしょう。役所は許可した工事を公表しているので、先に自分で見られます(法第12条4項)。渋谷区も、許可の一覧表をのせています。
着工前と施工中にたしかめる4つ
月曜の朝の工程会議で、来月着工の現場を1つずつ読みあげる。その場で、次の4つをたしかめます。
| たしかめること | 見るもの | だれに聞くか |
|---|---|---|
| 1 規制区域の中か | 現場の住所と、都道府県などが指定した規制区域 | 役所の窓口・ホームページ |
| 2 許可の規模に当たるか | 切土・盛土の後にできる崖の高さ、盛土の高さ、面積(図2の線) | 設計図・施工図 |
| 3 許可証と標識があるか | 許可証の写し、許可の設計図書と施工図が合っているか、現場の標識 | 施主・元請 |
| 4 検査の工程が工程表にあるか | 中間検査がいる大きさか。いるなら、排水施設を入れる工程と、合格証を受けとる日 | 施主・元請・役所 |

来月着工の現場で、4つのどれか1つでも答えに迷うものがあれば、現場の一覧をつくるところから一緒にととのえます。無料経営相談(60分・毎月5社まで)をご利用ください。
4つ目の中間検査は、みおとしやすいところです。検査がいるのは、大きめの工事だけです。
線は、図2のいちばん右の列と同じです(法第18条1項・施行令第23条)。都道府県などは、条例でこの線を下げられます。
検査がいる工程は、盛土をするまえか、切土をしたあとの地面に、排水施設を入れる工程です。
これをおえたら、合格証が出るまでは、そのまわりを砕石などで埋める工程にすすめません(法第18条3項・施行令第24条)。都道府県などが条例で工程を足すこともあります。
検査を申請しないで工事をつづけると、止める命令の相手になります(法第20条2項4号)。
許可証の写しが出てこないときは、開発許可(都市計画法)があるかもききます。区域が決まったあとにとった開発許可なら、この法律の許可とみなされます(法第15条2項・第34条2項)。
どちらもないなら、着工を待ってもらいます。そのやりとりは、口頭でなく書面でのこしておきます。工期がずれたときの求め方は、工期の延長は書面で求める|週休2日の上乗せが消えた後の手順にあります。
統合最適化メソッドでみる: 人・DX・収益
アプリバンクの統合最適化メソッドの3つの軸で、することを並べます。
| 軸 | 何をするか | 効くところ・測るもの |
|---|---|---|
| 人材育成 | 現場代理人と職長が、区域・崖の高さ・面積を自分で判定できるよう、図2と条例の見方を1枚にして教える | 着工前のたしかめが、部長1人に集まらない。判定できる人の数 |
| DX推進 | 現場の一覧に、区域・許可番号・中間検査の日を列で持ち、工程表と並べる | 許可証の写しがない現場が、一覧で見える |
| 収益改善 | 許可がそろうまでの待ちを、見積と契約の条件に書く | 止まったときに、工期と費用を求める足場ができる。待ちでのびた日数を請求できた件数 |
判定できる人がふえると、一覧にただしい値がはいります。一覧がそろえば、止まりそうな現場を契約の前にみつけられます。
よくある質問
Q. 下請の当社が、許可を取る必要はありますか
許可を取るのは工事主です(法第12条1項・第2条7号)。ただし、許可のない工事を止める命令は、下請をふくむ請負人にも出せます。着工のまえに許可証の写しをもらってください。
Q. 高裁が停止を取り消したなら、無許可の切土は問題なかったのですか
そうとは言えません。報道によれば、高裁は許可のない切土を違反と判断したとされます。ただ、これは仮の手続きの中の判断で、確定していません。住民は特別抗告をし、本体の裁判もつづいています。
Q. 自社の現場が規制区域かどうかは、どこでわかりますか
区域は、都道府県などがきめます。現場の住所を、役所の窓口かホームページでたしかめてください。
まとめ: 明日やる1つ
渋谷区の現場では、許可のない切土をめぐって、止める命令が半年ほど出ていました。
報道によれば、高裁は無許可の切土を違反と判断したとされます(決定書は未確認)。仮の手続きの中の判断で、確定はしていません。許可を取るのは工事主でも、止める命令は下請にも出せます。
明日やることは1つです。着工前と施工中の現場を一覧にし、区域・規模・許可証・検査の日の4つを、現場ごとに1行で書いてください。空欄がのこった現場から、工事主か元請にききます。
一覧の作り方や、工程表へのつなぎ方をいっしょにととのえることもできます。アプリバンクの無料経営相談(60分・毎月5社まで)をご利用ください。
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出典一覧(取得日 2026-11-02)
- 渋谷区「盛土規制法」(更新日 2026年10月16日。「富ヶ谷一丁目における建築工事に係る停止命令および即時抗告について」「同 停止命令の取消しについて」をふくむ): https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/toshikeikaku/seido/morido.html
- 東京新聞デジタル「渋谷区のマンション盛り土問題、最高裁へ 住民側が特別抗告」(2026年10月20日): https://www.tokyo-np.co.jp/article/522804
- 国土交通省「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称「盛土規制法」)について」: https://www.mlit.go.jp/toshi/web/morido.html
- e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法」第2条・第10条・第12条・第13条・第15条・第18条・第20条・第26条・第27条・第30条・第32条・第34条・第39条・第49条・第55条・第59条・第60条(最終改正施行 2025-06-01): https://laws.e-gov.go.jp/law/336AC0000000191
- e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」第1条・第3条・第23条・第24条・第28条: https://laws.e-gov.go.jp/law/337CO0000000016
- e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法施行規則」第8条: https://laws.e-gov.go.jp/law/337M50004000003
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」第37条の5: https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000139
本記事は一般的な情報提供です。個別の工事で許可が要るかは、工事の場所の役所の窓口に、罰則や契約の法的な解釈は弁護士にご確認ください。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
株式会社アプリバンクは、経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化メソッド)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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