「うちは小さい工事だから、アスベストの調査は要らない」。これは誤りです。
調査そのものは、金額にも規模にもよらず、すべての解体・改修で必要です。小さくなるのは、調査の要否ではありません。報告の要否です。
よく聞くのですが、ここだけは、はっきりしています。
はじめに、言葉をそろえておきます。アスベストと石綿は、同じものです。法令では「石綿」と書きます(石綿障害予防規則、大気汚染防止法)。現場では「アスベスト」と呼ぶほうが通りがよい。この記事では、条文を引くところは石綿、それ以外はアスベストと書きます。読み替えていただいて構いません。
この2つは、条文でも別のところに書かれています。調査は石綿則3条1項。報告は石綿則4条の2。混ぜて覚えていると、「報告が要らない=調査も要らない」という読みちがいが起きます。
もうひとつ、届出でつまずく方が多くいます。労基署への報告は、工事をする側が出します。しかし都道府県知事への届出は、条文上、発注者が出します。元請が代わりに出すものだと思っていると、期限を落とします。
この記事では、調査の範囲・報告の閾値・誰が何を出すのかを、条文にあたって整理します。数字はすべて、e-Gov法令検索で現行の条文を確認しています。
アスベスト調査は全工事。報告だけが閾値で決まる

まず、いちばん多い取りちがえから。ここさえ外さなければ、あとはついてきます。
事前調査の義務に、金額の線も面積の線もありません。条文はこう書いています。解体または改修の作業を行うときは、あらかじめ、石綿等の使用の有無を調査しなければならない(石綿則3条1項)。「〇〇円以上のとき」という条件は、どこにも付いていません。
しかも調査の対象は、解体する部分の「全ての材料」です(同3条2項)。方法は2つあります。設計図書などの文書を確認することと、目視で確認すること。片方だけでは足りません。
ただし、ただし書きも付いています。設計図書が無いときは目視だけでよく、構造上どうしても目で見られない材料は外せます。
一方、報告のほうには、はっきり数字が入っています。ここが次の見出しです。
言いかえると、しなくてよくなるのは「出すこと」だけです。やることそのものは、なくなりません。
報告が要るのは80㎡と100万円から

報告の対象は、4つの類型に分かれています(石綿則4条の2第1項)。
| 工事の種類 | 報告が要る線 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 工事に係る部分の床面積の合計が80㎡以上 |
| 建築物の改修工事 | 請負代金の額が100万円以上 |
| 工作物の解体・改修工事 | 請負代金の額が100万円以上(大臣が定める工作物に限る) |
| 船舶の解体・改修工事 | 総トン数20トン以上 |
解体だけが面積で、あとは金額です。ここを「解体も100万円から」と覚えていると、80㎡の小さな建物で落とします。
報告先は、所轄の労基署長。方法は電子です。条文が「電子情報処理組織を使用して」と明記しています(同4条の2第1項)。紙の様式第一号で代えることもできますが、原則は電子だと考えてください。
ここは、そのまま社内のやり方に効いてきます。紙の様式で回している会社ほど、報告のたびに二度手間になります。調査の記録を最初から電子で作っておけば、報告も、3年の保存も、同じ1本でまわります。
そして、分けても逃げられません。同じ事業者が2つ以上の契約に分けて請け負ったときは、1つの契約とみなすと書かれています(同4条の2第4項)。100万円を割るように分けても、足して見られます。
さらに、一部を下請に出しているときは、いちばん先の注文者となる事業者が出します(同4条の2第5項)。しかも作業の全部についてです。下請ごとにばらばらに出すものではありません。
アスベスト調査は「誰でもできる」わけではない

ここは、見落とされやすいところです。だれがやってもいい、と思われがちなのですが、そうではありません。
事前調査は、資格のある人に行わせなければなりません。条文には、「厚生労働大臣が定めるもの」に行わせなければならないとあります(石綿則3条4項)。社内の誰かが見て回った、では足りません。
この「大臣が定めるもの」が、いわゆる建築物石綿含有建材調査者です。区分と要件は告示で決まっています。工作物のほうには、別の区分があります。自社にいなければ、外に頼むことになります。
ここは、人を育てるか、外に出すかの分かれ道でもあります。解体や改修の受注が続く会社なら、社内に1人いるだけで、段取りの速さが変わります。講習で取れる資格なので、若手に持たせておくと、現場の見方そのものが変わります。
調べても分からなかったときは、次の段があります。アスベストの有無が明らかにならなかったときは、分析による調査を行わなければなりません(同3条5項)。ただし、アスベストが使われているものとみなして必要な措置をとるなら、分析は省けます(同項ただし書)。
この「みなす」の判断は、費用に直結します。分析に出すか、あるものとして養生と隔離をするか。どちらが安いかは、材料の量で変わります。現場任せにせず、見積のだんかいで決めておくべき論点です。
なお、分析調査にも別の資格要件があります(同3条6項)。事前調査の資格とは別枠です。
都道府県への届出を出すのは、発注者です

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。ここだけは、どうか覚えて帰ってください。
アスベストには、法律が2本かかっています。労働者を守る石綿障害予防規則(労働安全衛生法の省令)と、周辺の大気を守る大気汚染防止法(大防法)です。守るものが違うので、出す先も、出す人も違います。
大防法は、こう定めています。「発注者」または自主施工者が、作業を始める日の14日前までに、都道府県知事へ届け出る(大防法18条の17第1項)。
主語は発注者です。元請ではありません。発注者が知らないまま14日を切れば、着工そのものが動かせなくなります。受注のときに発注者へ伝えておく。ここが実務の急所です。
届出が要るのは、すべてのアスベスト工事ではありません。吹付け石綿と、石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材に限られます(大防法施行令10条の2)。成形板などは、届出の対象になりません。ただし、調べて伝える義務のほうは、材料を問わずかかります。
その伝え方も決まっています。元請は調査を行い、その結果などを書面で交付して説明しなければなりません(大防法18条の15第1項)。口頭では足りません。
発注者にも、費用を負担する義務がある

調査には費用がかかります。そして、その費用について、条文に定めがあります。
発注者は、元請業者が行う調査に要する費用を適正に負担する。そう努めなければならない、とあります(大防法18条の15第2項)。
努力義務ではあります。それでも、条文に「適正に負担する」と書かれている意味は小さくありません。見積のときに調査費を落とされたら、この一文を根拠に話ができるということです。
言いにくい話ではあります。それでも、ここは言えるようにしておきたいところです。
元請が黙って飲むやり方は、条文の想定とずれています。ここは、元請にとって、そのまま利益に効く論点です。
アスベスト調査の記録は3年。現場に貼るところまでが義務

調べて、報告して、終わりではありません。もうひとつ、あとに残る仕事があります。
事前調査と分析調査の結果は、記録として残します。保存期間は、調査を終了した日から3年間です(石綿則3条7項)。
記録に入れる項目も、条文に並んでいます。会社の名称と住所、工事の名称と概要、調べ終えた日、調べた部分、調べ方、材料ごとのアスベストの有無。ここまでは想像がつくと思います。
問題は、その次です。アスベストが無いと判断した材料については、その判断の根拠まで書きます。さらに、調べた人の氏名と、その人が有資格者だと証明する書類の写しも要ります。
「根拠」まで書かせるところが、この条文の重さです。あとから見て、なぜ無いと言えたのかが追えなければ、記録として足りません。
ここまでやって、ようやくひと区切りかというと、そうでもありません。
さらに、作業場には掲示が要ります(同3条8項)。調査終了日と、調査した部分・アスベストの有無の概要を、見やすい箇所に。除去などの作業を行う作業場には、記録の写しを備え付けることまで求められています。
よくあるご質問
Q. 50万円の小さな改修でも、アスベストの事前調査は要りますか。
A. 要ります。ここはよく聞かれます。事前調査の義務に金額の線はありません(石綿則3条1項)。100万円という数字は、調査の結果を労基署へ報告するかどうかの線です(同4条の2第1項2号)。50万円の改修なら、調査はする、報告はしないという形になります。
Q. 100万円を超えないように2つの契約に分ければ、報告は要りませんか。
A. 要ります。そこは、あらかじめふさいであります。同じ事業者が2つ以上の契約に分けて請け負ったときは、1つの契約で請け負ったものとみなすと条文にあります(石綿則4条の2第4項)。分けても足して見られます。
Q. 都道府県への届出は、元請が代行してもよいのですか。
A. ここは、思いこみが多いところです。条文上、届け出るのは発注者または自主施工者です(大防法18条の17第1項)。実務では元請が書類を用意することが多くありますが、義務を負っているのは発注者だという点は変わりません。作業開始の14日前までという期限も発注者側にかかります。受注の時点で伝えてください。
Q. アスベストが無いと分かっている建物でも、記録は要りますか。
A. 要ります。あっさり流されがちですが、そうもいきません。しかも「無いと判断した根拠」まで書きます(石綿則3条7項8号)。保存は3年間、作業場への掲示も必要です(同8項)。無かったことも、記録として残すという作りになっています。
まとめ
- アスベストの事前調査は、金額にも規模にもよらず全ての解体・改修で必要(石綿則3条1項)
- 報告が要るのは、解体80㎡以上/改修100万円以上/工作物100万円以上/船舶20トン以上(同4条の2)
- 報告は電子で、所轄の労基署長へ。分けて請け負っても合算される
- アスベスト調査は有資格者に行わせる。分からなければ分析調査か、あるものとみなして措置
- 都道府県知事への届出を出すのは発注者。14日前まで(大防法18条の17)
- 調査費用は発注者が適正に負担すると条文にある(同18条の15第2項)
- 記録は3年保存。作業場に掲示し、写しを備え付ける
おぼえることは多いのですが、はじめにおさえるのは、ひとつだけでかまいません。
この分野でいちばん怖いのは、罰則よりも工程です。14日前の届出を落とせば、その日から現場は動きません。受注の時点で、誰が何をいつまでに出すのかを、発注者と一枚の紙で共有してください。
調べる人を育て、記録を電子でまわし、調査費を適正に負担してもらう。この3つは別々の話に見えて、同じ1本の段取りの上にあります。どれか1つだけを直しても、たいてい元にもどります。
なお、調べたことを記録に残し、あとから追えるようにするという作りは、施工体制台帳と同じ考え方です。台帳側は施工体制台帳|作成義務の金額基準5,000万円と実務で整理しています。
受注のとき、発注者に「14日前までの届出」を伝えられていますか。
建設業に特化した無料の経営相談を、毎月5社まででお受けしています。直近の解体・改修の見積書と、いま使っている調査の依頼先をおもちください。調査費を誰が負担しているか、届出の期限が誰の手元で止まっているかを洗い出し、受注の時点で確認する一枚の紙まで作ってお返しします。
この記事について
執筆:佐藤 望(さとう のぞむ)/株式会社アプリバンク 代表取締役
建設業界での経験は30年。大手ゼネコンでは20年にわたり、現場・財務・人事を横断して担当してきました。海外5カ国での施工経験もあります。現在は建設業に特化した経営コンサルティングを行い、人材育成・DX推進・収益改善を同時に動かす「統合最適化メソッド」を提供しています。
現場で多く見てきたのは、「調査は誰かがやってくれている」という状態です。元請は発注者が出すものだと思い、発注者は元請が出すものだと思う。そのまま14日前を切って、着工の日だけが動かせなくなる。条文を読むと、出す人ははっきり書き分けられていました。むずかしいのは条文ではなく、受注のときに、その話をする場が無いことでした。
なお、本記事は制度の内容をお伝えするものです。個別の工事における調査・報告・届出の要否は、所轄の労働基準監督署または都道府県の担当窓口にご確認ください。
お問い合わせ:株式会社アプリバンク/無料経営相談
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出典
- e-Gov法令検索 石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)第3条・第4条の2・第5条
- e-Gov法令検索 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)第18条の15・第18条の17
- e-Gov法令検索 大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号)第3条の3・第10条の2
- e-Gov法令検索 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
本記事の内容は2026年8月13日時点の情報にもとづきます。アスベスト(石綿)に関する規制は法令改正により変わることがあり、個別の工事における結論は工事の内容や材料により異なります。実際の運用にあたっては、所轄の労働基準監督署または都道府県の担当窓口にご確認ください。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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