下期がはじまります。上期を締める前に、先に決めておきたいことがあります。下期の着地は、10月から何を取るかではなく、9月末に何が残っているかで大きく左右されます。
この記事では、公表されたばかりの受注の数字からいま仕事がどこへ流れているかを読み、下期の計画を3つの数字で組む手順を書きます。精神論は書きません。手元の台帳でたしかめられることだけを扱います。
まず、いまの位置を数字でおさえる
国土交通省の建設工事受注動態統計調査報告(令和8年7月分)から見ます。2026年9月10日に公表された、いちばん新しい月の数字です。
- 受注高(元請+下請)は 10兆9,346億円
- 元請受注高は 7兆1,398億円。前年同月比 1.4%減で、4か月続けて減っています
- 下請受注高は 3兆7,948億円。前年同月比 12.3%増で、4か月続けて増えています
元請が減って、下請が増えています。ここが、いまの数字でいちばん目を引くところです。
元請が減り、下請が増えている

元請の受注が4か月続けて減り、下請の受注が4か月続けて増える。これは、工事の流れ方が前の年と変わってきている、ということです。
業種別(元請)を見ると、もっとはっきりします。
- 総合工事業 4兆4,739億円(前年同月比 9.1%減、5か月続けて減少)
- 職別工事業 5,203億円(同 41.8%増、5か月続けて増加)
- 設備工事業 2兆1,456億円(同 9.8%増、20か月続けて増加)
総合工事業だけが減り、職別と設備は増えています。ひとくちに建設業といっても、向きが分かれています。
ここで気をつけたいのは、この数字は「業界が悪い」という話ではないことです。元請がとる仕事が減って、下請や専門工事がとる仕事が増えている。お金の流れる場所が動いている、と読むほうが実態に近いと考えます。
設備工事(元請)は、20か月続けて増えている

もうひとつ、はっきりしているのが設備です。設備工事業(元請)は20か月続けて増えています。前年同月比で見ると、1年8か月ずっと増え続けています。
工事の種類別では、土木工事が1兆7,989億円(0.9%増)、建築工事が4兆5,000億円(3.0%増)。いっぽうで機械装置等工事は8,409億円(23.0%減)でした。増えているのは、建物と土木にかかわる工事です。(建築工事には建築設備工事を含みます)
前年同月比で20か月続けて増えているのは、単月の波ではなく流れの変化と読むべき長さだと、私は考えます。自社が設備をとれる立場なら、下期の比率をどう上げるかを考える材料になります。
公共は、見る数字で答えが変わる
公共工事については、2つのちがう数字があります。混ぜると逆の結論になります。
- 元請受注高のうち公共機関からは 2兆1,428億円(前年同月比 0.9%減)
- 公共機関からの受注工事額(1件500万円以上)は 2兆390億円(同 1.4%増、3か月続けて増加)
前者は元請受注高の内訳、後者は1件500万円以上にしぼった別集計です。とり方がちがうので、数字もちがいます。「公共は増えている」「いや減っている」がぶつかるときは、たいていどちらの数字を見ているかのちがいです。
500万円以上の内訳では、国の機関が3,962億円(3.2%減)、地方の機関が1兆6,428億円(2.6%増)。地方のほうが伸びています。工事分類では「道路工事」4,095億円、「教育・病院」4,010億円が多くなっています。
いっぽう民間等からの元請受注は4兆9,969億円(1.6%減)で、5か月続けて減っています。
公共をとりにいくなら、点数の話がついてきます。手順は経営事項審査にまとめました。
下期の着地を、3つの数字で読む

統計は業界の向きを教えてくれますが、自社の着地は自社の台帳にしかありません。下期の計画は、つぎの3つを9月末で確定させることから始めます。
1. 受注残(手持ち工事の残工事高)
契約ずみで、まだ完成していない工事の残り。これが下期の売上の土台です。下期に新しい受注がゼロでも、ここから上がる分は読めます。
出し方はかんたんです。工事ごとに「請負金額 −(着手から9月末までの出来高)」を足すだけ。これが残工事高です。ただし、残工事高がそのまま下期の売上になるわけではありません。翌期にまたがる施工分が入っていること、完成引渡しで計上するなら既施工分も引渡し月に乗ることの2つがあるためです。下期の売上予定は、工程表で「下期に施工する分」と「下期に引き渡す分」を分けて出してください。
2. 引渡しの月

受注残を、引渡しの月ごとに並べ直します。売上が立つのは引き渡した月だからです。
月ごとに並べると、山と谷がはっきり出ます。3月にかたよっていれば、そこに人と協力会社が集まります。この並びは資金ぐりを読む出発点になります。ただし入金と出金の時期は、この並びだけでは決まりません。前受金・出来高払い・回収サイトと、材料費・外注費・給与の支払時期を重ねて、はじめて月ごとの資金の山と谷が出ます。
3. 手持ち工事のもうけ(実行予算との差)
受注残が多いことは、もうけが多いことを意味しません。実行予算にくらべて原価が超えている工事は、いまの原価率のまま進むなら、残工事が多いほど予算との差が開きます。ここで見るのは予算未達の額です。予算を超えていても、粗利が残っていれば赤字とはかぎりません。赤字になるかどうかは、契約金額から既発生原価と完成までの追加原価を引いて、工事ごとに確かめてください。
工事ごとに「実行予算の粗利率」と「9月末の実際の粗利率」を並べ、差がマイナスの工事だけを抜き出します。下期にまず手を入れるのは、新規の開拓ではなくここです。
受注残は、1枚の表にすると見えてくる
言葉で説明するより、形を見たほうが早いので、工事4本の会社を例にします。下の金額はすべて、説明のためにこしらえた架空の数字です。実在の会社の数字ではありません。
| 工事 | 受注残 | 引渡 | 粗利率(予算→実績) |
|---|---|---|---|
| A 改修 | 1,600万円 | 11月 | 14%→13% |
| B 新築 | 1億6,800万円 | 3月 | 12%→6% |
| C 土木 | 2,400万円 | 12月 | 10%→11% |
| D 設備 | 4,500万円 | 2月 | 16%→16% |
この表から読めることは、3つあります。
- 受注残2億5,300万円のうち、Bだけで1億6,800万円。全体の66%が1本に乗っています。Bがくずれると下期がくずれます
- そのBの粗利率が、予算12%に対して実績6%。半分になっています。残りがいちばん多い工事が、いちばん悪い状態です
- 引渡しは11月・12月・2月・3月。10月と1月がゼロです。この2か月は売上が立ちません(完成引渡しで売上に計上する場合)
この会社が下期に最初にやるべきは、新規の営業ではありません。Bのもうけをどう戻すかです。受注残の66%が乗っている工事で6ポイント落ちているなら、そこだけで1,000万円ほどの差になります(架空の例での試算です。9月末までの実績粗利率が残工事にもそのまま続くと置いた場合の数字です。実際には、残工事の見積原価を入れ直して完成時の利益を出してください)。同じ額を新しい受注で埋めようとすれば、粗利12%なら8,000万円を超える工事が要ります。
表をつくる手間は、工事の本数だけです。4本なら短時間で終わります。ここを惜しむと、3月にわかります。
手持ち工事の粗利を工事ごとに出す仕組みがない。そう感じられたら、無料経営相談でご相談ください。いまの台帳のままで何が出せるかを、いっしょに見ます。
なぜ「9月末で締める」ことに意味があるのか
下期の計画を10月の半ばや11月につくる会社があります。それでは遅い理由が2つあります。
ひとつは、打つ手が減ること。赤字工事の立て直しは、残りが多いほど効きます。Bのように残りが多い工事なら、まだ材料の買い方も工程も変えられます(この例では請負2億4,000万円のうち1億6,800万円、7割が残っている想定です)。残り1割で気づいても、打てる手は大きく減ります。
ふたつめは、協力会社の予定がうまること。谷の月をうめようと11月に動いても、いい協力会社の手はもう押さえられています。下期の人ぐりは、期中に入るほど選べる手が減ります。
元請が減り、下請が増えるとき、何が起きるか
統計の話に戻ります。下請の受注が4か月続けて増え、職別工事業(元請)が5か月続けて増えている。(職別工事業は元請・下請の合計でも4か月続けて増えています)これは、専門工事の会社に仕事が集まっているということです。
元請の立場から見ると、これは協力会社の受注金額が増えているという意味です。ただし金額の増加が、そのまま手の空き具合を表すわけではありません。労務費や資材の値上がりが金額を押し上げている分があり、下請受注高には二次下請以下も含まれます。実際に忙しいかどうかは、いつも使う協力会社に手持ち工事と稼働予定を聞いて確かめてください。
- 忙しい協力会社は、条件のいい元請から先に手を埋めます。声をかける順番が後だと、手が残っていません
- 支払いが遅い、手形で払う、といった条件は、選ばれない理由になります
- 逆に、いま条件を整えておけば、人手が足りない場面で先に回してもらえます
下期に支払いを早くする、手形をやめるというのは、原価を上げる話ではありません。下期からあとの施工能力を確保する話です。
ここは法律にも線が引かれています。建設業法第24条の3は、元請の下請代金の支払いについて定めた条文です。元請が出来形部分や完成後の支払いを受けたときは、その日から1か月以内で、できるかぎり短い期間内に支払わなければなりません。同条2項では、労務費にあたる部分は現金で支払うよう配慮することも求めています。
取引先の見方は建設業の与信管理にまとめました。
よくある3つの失敗
1. 受注と売上をまぜる
受注は契約した時点、売上は引き渡した時点です。受注が好調でも、引渡しが来期なら今期の売上にはなりません。下期の計画で見るのは引渡しの月であって、契約の月ではありません。
(工事進行基準など、進行に応じて売上を計上する方法をとっている場合は、この限りではありません。自社がどちらかは、顧問の税理士にご確認ください。)
2. 全社のもうけだけを見る
全社の平均が11%でも、中身が「16%の工事と6%の工事」なら、打つ手はまったくちがいます。平均は、いちばん悪い工事をかくします。工事ごとに並べないかぎり、Bは見つかりません。
3. 谷の月を、数でうめようとする
売上がうすい月をうめるために小口の工事をたくさんとると、現場監督の手が分かれて、大きい工事の管理がうすくなります。谷をうめるなら、月を指定して1本をとるほうが安全です。
統合最適化でみると、どう効くのか
株式会社アプリバンクは、人材育成・DX推進・収益改善を切りはなさずに見ます(統合最適化メソッド)。下期の計画も同じです。
人材育成 — 数字で話せる現場監督が育つ
受注残ともうけを工事ごとに出す作業は、現場監督が自分の工事を金額で語るけいこになります。「順調です」ではなく「粗利率が予算より3ポイント低い」と言えるようになると、手当てが早くなります。
DX推進 — 一度組めば、つぎの期からは同じ手順で出せる
上の3つは、工事台帳に請負金額・出来高・実行予算・引渡予定日の4つが入っていれば、機械でも出せます。実際の粗利率まで出すには、これに工事ごとの実際原価(未払・未請求分を含む)が要ります。完成時の利益を読むなら、残工事の見積原価も入れてください。逆にいえば、この4つがそろっていない台帳では、下期の計画は毎回、手作業になります。
収益改善 — 新しい受注より、いまの工事のほうが早い
新しい受注は、営業から入金まで時間がかかります。いま動いている工事の請求もれをひろうほうが、下期のもうけには早く効きます。
そしてこの3つは、別々の施策ではありません。工事ごとの数字を出す(DX)から、現場監督が金額で語れるようになります(人材育成)。その結果として、赤字工事が早く見つかります(収益改善)。ひとつの作業が3つに効くところを選ぶ、というのが統合最適化の考え方です。
まとめ
- 令和8年7月分では、元請が4か月続けて減り、下請は4か月続けて増えています(元請 1.4%減/下請 12.3%増)
- 業種別では総合工事業が9.1%減、職別工事業(元請)が41.8%増、設備工事業(元請)は20か月続けて増加。向きが分かれています
- 公共は見る数字でちがいます。元請受注高の公共分は0.9%減、1件500万円以上の受注工事額は1.4%増です
- 下期の着地は、9月末の受注残・引渡しの月・工事ごとのもうけの3つで大きく左右されます
- 協力会社が忙しくなる局面では、支払いの条件が、来期の施工能力を決めます
下期の計画を、いまの台帳から組み直したい。そうお考えでしたら、無料経営相談へどうぞ。建設業に特化して、人材育成・DX推進・収益改善をまとめて見ます。
本記事は統計・制度の一般的な内容をお伝えするものです。個別の経営判断、税務・法令の適用については、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
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出典
出典はいずれも 2026年9月27日時点で公式サイトを確認しています。統計は令和8年9月10日公表の令和8年7月分です。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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