展示会で見た。営業に勧められた。補助金が使えると言われた。それで買った現場用のIoT機器が、いま倉庫の箱にもどっていないでしょうか。
止まるわけは、たいてい製品の出来ではありません。「誰が見るか」「鳴ったら誰が動くか」を決めないまま入れたことです。
この記事では、建設現場の安全IoTを4つに分けたうえで、買う前に決めるべき4つを書きます。製品くらべはしません。決め方の話です。
機器そのもののしくみは建設現場の安全DXにまとめています。この記事は、その手前にある「買う前の決めかた」と、2025年6月に変わった義務だけを扱います。
まず、いまの位置を数字でおさえる

厚生労働省が令和8年5月27日に公表した令和7年の労働災害発生状況を見ます。労働災害による死亡者数は700人で、過去最少でした(前年比46人・6.2%減)。そのうち建設業は214人(前年比18人・7.8%減)です。
| 業種 | 死亡者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 建設業 | 214人 | ▲18人・7.8%減 |
| 製造業 | 115人 | ▲27人・19.0%減 |
| 陸上貨物運送事業 | 80人 | ▲28人・25.9%減 |
| 商業 | 61人 | +6人・10.9%増 |
建設業は、業種のなかで、いまも最も多いままです。しかも製造業が19.0%減、陸運が25.9%減。それに対して建設業は7.8%減です。減り方がにぶい。
事故の型べつ(全産業)では「墜落・転落」が186人。前の年より2人・1.1%減で、ほとんど減っていません。休業4日以上の死傷者(死亡を含む)は全体で135,333人(前年比385人・0.3%減)です。
死亡者数700人も、死傷者数135,333人も、新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害を除いた数です(公表資料の注記※1)。
ここから「人の注意力が限界にきた」と読むことはできません。厚生労働省の公表資料に、原因別の分析は載っていないからです。言えるのは、墜落・転落がほとんど減っていないという事実だけです。
減らない理由が何なのかは、現場ごとに違います。人が気づけない場面が残っているのか、気づいていても止められないのか、そもそも手順が守られていないのか。道具を入れるかどうかは、自社の現場で減らない理由を確かめてから決める話です。
2025年6月から、熱中症対策が義務になった
もう一つ、前提が変わりました。令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策が義務になりました。根拠は第612条の2です(e-Gov法令検索)。

どの作業が対象かは、条文ではなく通達(基発0520第6号)が示しています。「暑熱な場所」は、WBGT(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の場所です。
その場所で続けて1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われる見込みの作業が対象になります。夏場の屋外作業の多くが当てはまります。
条文が事業者に求めているのは、次の2つです。厚生労働省の資料では「体制整備・手順作成・周知」の3点として説明されています。
- 報告体制の整備と周知(1項) — 熱中症の自覚症状がある人。また、熱中症が疑われる人を見つけた人。その人たちが報告できる仕組みを、先に整えておく。整えたら、作業者に知らせる
- 措置の内容と手順を決めて周知(2項) — 作業から離す、体を冷やす、必要なら医師にみせる。悪化を防ぐ手立てとその手順を作業場ごとに決め、作業者に知らせる
ここを取り違えないでください。条文に「ウェアラブル」という言葉はありません。出てくるのは通達のほうです。
通達は、電話などの報告を受けるだけで終わらせない、という立場です。熱中症が疑われる人を早く見つけるために、次の方法を推奨される方法として挙げています。
- 責任者などによる作業場所の巡視
- 2人以上で互いの健康状態をたしかめるバディ制
- ウェアラブルデバイスを使ったリスク管理
- 責任者と作業者の、双方向の定期連絡
- これらを組み合わせたもの
そのうえで、通達はウェアラブルに留保を付けています。着けた人の状態を、いつも正しくつかめるとはかぎらない。だから他の方法と組み合わせるなどして、見落としを減らすほうが望ましい。通達はそう書いています。
「これを入れれば義務を果たせる」と読める売り文句には、根拠がありません。
それでも、IoTを入れる理由が「あれば良いもの」から「義務を果たす手段のひとつ」に変わったことは確かです。稟議の書き方が変わります。「事故が減るかもしれない」ではなく「安衛則が求める体制整備を、巡視と組み合わせたこの方法で行う」と書けます。
夏が終わったいま、実際にどう回っていたかを振り返る順番は全国労働衛生週間|建設業が9月中に点検する4つにまとめました。対象作業の線引きと休工の段取りは建設業の夏季休工にまとめました。手順の作成は、そちらの休工判断とセットで作ると現場が動きやすくなります。
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建設現場のIoTは、大きく4種類
「安全IoT」という一つの商品はありません。測っているものが違います。まぜて考えると、どれも中ぶらりんになります。

① 接近検知 — 重機と人の距離
バックホウやクレーンの旋回範囲に人が入ったら鳴る。方式が2つあります。タグ方式は、重機側と作業員側の両方に装置が要ります。重機側のカメラで人を見つける方式なら、作業員は何も着けません。見積りでは、重機の台数と、対象になる人の数を、別々に数えてください。方式によって、どちらが費用を決めるかが変わります。
② 墜落・転落検知 — 高さと衝撃
ハーネスや腰帯に付け、落ちたときの衝撃と、そのあと動かない状態を見つけます。これは、落ちたあとの発見を早める機器です。
落ちること自体を防ぐのは、手すり・開口部の養生・墜落制止用器具のほうです。順番を入れ替えないでください。防ぐ手立てを先に固める。そのうえで、見つけるのが遅れる場面を補う。足場・開口部・屋根の作業が多い会社なら、その補いの先に考える値打ちが出ます。
③ 熱中症・バイタル — 脈拍・体表温・WBGT
ここは、思っているものと、実際とのちがいが大きい分野です。市販のウェアラブルで、体の奥の温度を直接はかることはできません。脈や体の表面の温度から、あたりを付けているだけです。
「体温をはかる機械」ではなく「いつもと違う状態を早く見つける機械」。そう扱うのが正しい読み方です。前の章のとおり、巡視やバディ制と組み合わせる前提で、体制整備の一部に使えます。これ1つで体制が整うわけではありません。
④ 入退場・位置 — 誰がどこにいるか
カードやビーコンで、誰が現場にいるかを残します。安全書類や労務管理とつながりやすいのがこの種類です。すでに協力会社台帳をととのえている会社なら、つなぐ先があります。いざというときの安否のたしかめは建設業のBCP|発災72時間の実務とも直結します。
買ったのに使われなくなる、3つの理由

① 鳴りすぎる
しきい値がきつすぎて、1日に何十回も鳴る。そうなると、誰も見なくなります。そして本当に危ないときも、同じ音で鳴る。オオカミ少年になった装置は、付けているだけの重りです。
② 誰が受けるか決めていない
アラートが職長の私物のスマートフォンに全部飛ぶ。職長が現場を離れた時間帯は、誰も気づきません。受ける人を一人にすると、その人の休みの日に穴が空きます。
③ 充電と装着が回らない
よくあるのがこれです。毎朝の充電と、着ける係が決まっていない。数週間で使われなくなる例を見ます。1日の作業の流れのどこに充電を挟むか、朝礼で装着をたしかめるのは誰か。これは製品の話ではなく、段取りの話です。
買う前に決める4つ
稟議より先に、この4つを埋めます。ここが埋まらないまま入れた道具は、たいてい止まります。

1. 誰が見るか
現場の職長か、事務所か、両方か。現場をはなれる時間の受け手も決めます。
2. 何をしたら鳴るか
しきい値を数字で決めます。出発点は、メーカーがすすめている最初の値です。安全側の設定を下回る方向には変えないでください(次章)。
3. 鳴ったら誰が動くか
一次対応・つぎの対応・記録の3つを、役職ではなく名前で決めます。「職長が対応」と書くと、その日いない人の分が空きます。名前で決めると、穴がすぐ見えます。
4. 記録をどこに残すか
日々の記録を、安全書類・KY・作業日報のどこにつなぐか。二重の打ち込みになった瞬間、現場は入力をやめます。前章の体制整備・手順作成の証跡としても、ここが効いてきます。
鳴らしすぎない設計
しきい値は、最初から現場に合わせにいかないでください。出発点はメーカーのすすめている値です。そこから安全側を削る方向へは動かしません。動かすのは、鳴った記録を分けたあとです。

| 時期 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 導入〜2週目 | メーカー推奨の設定のまま動かす。鳴った記録をぜんぶ残す | いままでの見はりの人・立入りの制限・KYは外さない |
| 3〜4週目 | 鳴った記録を分ける(重機のいつもの通り道/休憩中/着け方のまちがい/本物) | 誤報(むだ鳴り)の出どころを見つける |
| 2か月目 | 誤報の出どころ側を直す(動線の変更・装着の指導・取り付けの位置) | 安全側のしきい値を下げずに誤報を減らす |
| 2か月目 | ヒヤリハットと実際の接近の記録を、警報の記録と突き合わせる | 鳴るべきときに鳴っていたかをたしかめる |
| 以降 | 3か月に1度、見なおす | 現場が変われば危ないところも変わる |
見るべき数字を間違えないでください。「鳴らなくなった回数」は、改善の指標になりません。鳴らない状態は、危険が減った結果かもしれませんし、危険を拾えなくなった結果かもしれません。見分けがつきません。
見るのは、次の2つです。
- 鳴った記録を分けた中身 — 重機のいつもの通り道か、休んでいるときか、着け方のまちがいか、本物か
- 実際に起きたヒヤリハットや接近が、記録の上で鳴っていたか — 鳴っていなければ、それは拾えていないということです
誤報を減らすときは、しきい値ではなく、誤報の出どころを直してください。通り道を変える。着け方を教える。取り付けの位置を変える。しきい値をゆるめれば数字は減りますが、それは見えなくなっただけです。
公共工事を受注している会社なら、NETIS(新技術情報提供システム)に載っている技術かどうかも見ておく値打ちがあります。工事成績評定で点が付くことがあるからです。ただし、加点のために現場に合わない道具を選ぶのは逆さまです。順番は、危ないところが先、制度は後です。
導入前に決める4つを、稟議書の形にするところまでご一緒します(毎月5枠)
道具ではなく、運用が資産になる
当社の統合最適化メソッド(人材育成 × DX推進 × 収益改善)で整理します。

人材育成 — 危険を、数字で語れるようになる
「あそこは危ない」ではなく「先週、この場所で接近が12回」と言えるようになります。経験の浅い社員でも、なぜ危ないかを、数字で言えます。これは職長教育で学ぶ内容を、現場のデータで裏打ちする作業でもあります。言葉になっていない勘どころを形にする話は建設業の技術伝承×AIにも書いています。
DX推進 — 記録が、ひとりでにたまる
安衛則が求める体制整備・手順・周知の、証跡の一部になります。
ただし、ここは分けて考えてください。周知した結果の記録の保存までは、法令では求められていません。通達(基発0520第6号)にそう書かれており、周知の方法も掲示・メールの送付・文書の配布・朝礼での口頭のいずれでも差し支えない、とされています。
同じ通達は、労働基準監督署の確認に際して事業者として適切に対応することを求めています。
だから記録は、義務だから残すのではなく、聞かれたときに出せるようにするために残します。体制表と手順書のほうは、作ること自体が求められるもので、機器のログとは別に要ります。作業日報とつなげば、二重の打ち込みになりません。逆に、つなぎを設計しないまま入れると、現場の入力作業だけが増えます。
収益改善 — 事故1件のコストと比べる
休業が出る事故が1件起きると、何が起こるか。現場が止まる。是正の報告。元請への説明。つぎの指名。
ただし、この差を当社は一般化した金額では出せません。事故1件の損失も、機器の総額(本体・通信・保守・運用の手間)も、現場の規模と台数で変わるからです。比べるなら、自社の直近の休業事故1件の実費と、入れようとしている台数の見積りを、同じ期間で並べてください。安全は費用ではありません。受注の条件です。
まとめ
- 令和7年の労働災害死亡者数は700人で過去最少。うち建設業214人は業種別で最多。製造業19.0%減に対し建設業は7.8%減で減り方がにぶい
- 墜落・転落は186人(全産業)で1.1%減にとどまる。公表資料に原因別の分析は無く、注意力の限界は読み取れない。死亡者数・死傷者数とも新型コロナり患による労働災害を除いた集計(注記※1)
- 2025年6月1日から熱中症対策が義務に(安衛則612条の2)。中身は報告体制の整備と周知/措置の内容と手順を決めて周知
- 条文に「ウェアラブル」の語はない。通達が巡視・バディ制・ウェアラブル・双方向の定期連絡を推奨される方法として挙げたもの。ウェアラブルには「他の方法と組み合わせる等により、リスク管理の精度を高めることが望ましい」という留保が付いている
- 建設現場のIoTは接近検知・墜落転落検知・熱中症バイタル・入退場位置の4種類。混ぜない。墜落検知は防ぐ機器ではなく、見つけるのを早める機器
- ウェアラブルで深部体温は直接測れない。「いつもと違う状態を早く見つける機械」として、巡視などと組み合わせて使う
- 止まる理由として運用側でよく見るのは鳴りすぎ・受け手未定・充電と装着の3つ。機器側の原因(検知の精度・通信・電池)も別にある
- 買う前に誰が見る/何で鳴る/誰が動く/どこに残すの4つを決める。3つ目は役職名でなく名前で
- しきい値はメーカー推奨の設定から始め、安全側は削らない。誤報はしきい値ではなく出どころを直す。「鳴らなくなった回数」は指標にしない。見るのは誤報の中身と、実際の危険が鳴っていたかの突き合わせ
買ってから考えるのではなく、決めてから買う。決めた内容そのものが、会社に残ります。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士などの専門家にご確認ください。
出典
- 令和7年の労働災害発生状況を公表(厚生労働省)
- 労働災害統計確定値(厚生労働省 職場のあんぜんサイト)
- 職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)
- 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(基発0520第6号・厚生労働省)
- 労働安全衛生規則 第612条の2(e-Gov法令検索)
- NETIS 新技術情報提供システム(国土交通省)
出典はいずれも 2026年9月21日時点で公式サイトを確認しています。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。あわせて職長教育とは・建設業のBCPもどうぞ。
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