大事なのは10月の1週間ではなく、9月のほうです
全国労働衛生週間は、毎年10月1日から10月7日までの1週間です。今年で第77回になります。
おおくの現場では、旗をかかげ、標語をはり、朝礼で一言ふれて終わります。それ自体は悪いことではありません。
ただ、実施要綱を読むと、力点はべつのところに置かれています。
なお、全国労働衛生週間の実効を上げるため、9月1日から9月30日までを準備期間とする。
(令和8年度 全国労働衛生週間実施要綱 3 期間)
そして準備期間にやることとして、こう書かれています。
下記の事項について、日常の労働衛生活動の総点検を行う。
(同 10 実施者の実施事項 (2))
点検するのは9月です。10月の1週間は、点検した結果を職場に見せる週になります。順番が逆になっている会社は、すくなくありません。
今年のスローガンは「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」です。
要綱は長い。建設業に効くのは4つです
実施要綱は全9ページあります。化学物質、放射線、テレワークまで入っています。全部を追う必要はありません。
建設業の会社が9月中に点検するとよい項目を、要綱のなかから4つにしぼりました。

① 夏の熱中症対策を、終わったいま振り返る
要綱の熱中症の項には、5つの事項が並んでいます。最後のひとつが、この時期ならではの内容です。
e 本年夏季に実施した各熱中症予防対策の取組に関する確認
(同 (2) ア 重点事項 (カ))
夏のあいだは、対策を回すので精一杯になります。ふり返る余裕はありません。9月は、記憶が残っているうちにふり返れる唯一の月です。今年の夏の止め方・動かし方は建設業の夏季休工に、働く日数の考え方は建設業の週休2日にまとめています。
見るところは3つで足ります。

- 今年、体調不良で作業を離れた人は何人いたか。どの時間帯だったか
- WBGT値をどこで測り、何度で何をすると決めていたか。その通りに動けたか
- 連絡体制は実際に使われたか。使われなかったなら、なぜか
要綱の同じ項には、こうも書かれています。
a 熱中症のおそれのある作業者の早期発見のための連絡体制の整備等を内容とする改正労働安全衛生規則に基づく措置義務の徹底
連絡体制の整備は、努力目標ではなく義務として書かれています。根拠は2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則(厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」)です。
紙に書いてあるかどうかではありません。この夏に実際に動いたかどうかを、たしかめておく必要があります。
糖尿病や高血圧の持病がある人への配慮も、要綱に明記されています。医師などの意見を踏まえること、とされています。
② 一人親方の健康管理が、注文者側の事項に入っています
ここが、今年の要綱で建設業がいちばん見おとしやすいところです。
重点事項に「個人事業者等の安全衛生の確保に関する事項」という項目があります。要綱の言葉は「個人事業者等」で、一人親方はそこに含まれます。原文を引くときは、この語で探してください。
中身を読むと、本人がやることと、注文する側がやることが、分けて書かれています。
(b) 個人事業者等への安全衛生教育や健康診断に関する情報の提供等注文者等が実施する事項の推進
(同 (2) ア 重点事項 (ク) b)
さらに、費用の話も入っています。
c 安全衛生経費の確保等、個人事業者等が安全で衛生的な作業を遂行するための配慮

建設業は、一人親方に支えられている業種です。「雇っていないから健康管理は本人の問題」という整理は、要綱の書きぶりとずれています。
9月中にできることは、そう重くありません。
- 常時入っている一人親方が何人いるか、名簿で数える
- 健康診断を受けているかどうか、聞いたことがあるか確かめる
- 安全衛生にかかる費用を、見積の中で見える形にしているか確かめる
取引条件の話にもつながる論点です。一人親方とフリーランス法の記事もあわせてご覧ください。
ここまでの①②が自社にかかるかどうかで迷う場合は、無料相談(月5件まで)をご利用ください。要綱のどの項目が自社の工種にかかるかを、一緒に絞り込みます。
③ 転倒と腰痛 ― 件数は墜落の6割弱でも、休みが長引く災害
要綱には「転倒・腰痛災害の予防に関する事項」という独立した項目があります。
先に、数字を置きます。令和7年の建設業で、休業4日以上の死傷者は13,437人でした。事故の型で見ると、こうなっています。

| 事故の型 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 墜落・転落 | 4,343人 | 32.3% |
| 転倒 | 1,579人 | 11.8% |
| はさまれ・巻き込まれ | 1,496人 | 11.1% |
| 切れ・こすれ | 1,158人 | 8.6% |
| 飛来・落下 | 1,127人 | 8.4% |
| 動作の反動・無理な動作(腰痛等) | 915人 | 6.8% |
いちばん多いのは墜落・転落です。転倒と腰痛を足しても2,494人で、墜落・転落の4,343人には届きません。
それでも要綱が転倒・腰痛を独立した項目に立てているのは、件数ではなく、経営への効き方が違うからです。
墜落・転落は安全管理の領域で、対策も確立しています。いっぽう転倒と腰痛は、年齢とともに増え、休業が長引きます。
そこから離職につながることもあると当社は見ています。人が採れない会社ほど、1人の離脱が重くのしかかります。
要綱が挙げている対策のうち、中小の会社でも手がとどくのは、このあたりです。

- 身体機能の低下を織り込んだリスクアセスメントを行う(若い人を基準にしない)
- 「高年齢者の労働災害防止のための指針」に沿って、作業環境と作業の管理を見直す
- 雇入時と定期の健康診断を確実に行い、あわせて体力チェックで本人に気づいてもらう
- ストレッチを中心にした転倒・腰痛予防体操を、朝礼に組み込む
体操は形だけになりがちです。ですが、体力チェックの数字を一度本人に見せてからだと、受けとめ方が変わります。気づいてもらうことが目的で、体操はその手段です。教育の組み立て方は職長教育の記事にまとめています。
④ 石綿 ― 解体・改修をやる会社は、毎年ここを見ます
要綱の石綿の項は、8つの小項目まで分かれています。建設業に直接かかるものです。
- 有資格者による事前調査の実施、調査結果の掲示と備え付け
- 労働基準監督署への届出
- 隔離・湿潤化(水で湿らせて粉じんを抑えること)
- 呼吸用保護具の使用と、正しい使い方
- 作業後の洗身(体に付いた粉じんを洗い落とすこと)、工具の付着物の除去
- 石綿作業主任者の選任と、職務の遂行
- 健康診断の実施と、離職後の健康管理
- 作業実施状況の写真等による記録
最後の「写真等による記録」は、あとから効いてきます。数年後に問われたとき、記録がなければ説明ができません。
金額と面積の基準は、石綿の事前調査の記事にまとめています。

要綱に書いてある「10月にやること」は5つだけ
9月の点検が終わったら、10月の1週間です。要綱が挙げているのは、次の5つです。

- 事業者または総括安全衛生管理者による職場巡視
- 労働衛生旗の掲揚、スローガンの掲示
- 優良職場・功績者の表彰
- 緊急時の災害を想定した実地訓練
- 講習会・見学会、作文や標語の掲示など
このうち、いちばん効くのは表彰だと考えています。
安全衛生の取り組みは、うまくいっても何も起きません。何も起きないことは、評価しづらいのです。だからこそ、年に一度、名前を呼んでわたす場が要ります。続ける人がいるから、続く仕組みになります。
9月中に終わらせる、点検の順番
| いつ | やること | 誰が |
|---|---|---|
| 今週(9/17〜) | 今年の夏の熱中症対応を振り返る(離脱者・WBGT・連絡体制) | 安全衛生担当 |
| 今週 | 一人親方の人数を数え、健康診断の受診状況を確かめる | 工務・総務 |
| 来週(9/22〜) | 健康診断の未受診者と、有所見(健診で異常の所見が出たこと)のまま放置している人を洗い出す | 総務 |
| 来週(9/22〜) | 10月の職場巡視の日を決め、表彰する人を決める | 経営者 |
| 来週(9/22〜) | 解体・改修があれば、石綿の記録の残し方を確かめる | 現場代理人 |
1日でやろうとすると終わりません。本記事の公開は9月17日です。9月末まで2週間あるので、週に2項目ずつなら間に合います。
なぜ、これが経営の話なのか
労働衛生は、総務の仕事だと思われがちです。ですが、数字で見ると経営の話になります。
収益の面では、ひとり離脱したときの損失が効きます。熟練工が腰痛で3か月抜ければ、代わりはすぐに見つかりません。工期がのび、外注費が増え、次の受注をことわることもあります。
健康診断の受診率を上げる費用より、離脱1件の損失のほうが大きくなると当社は見ています。自社の1人あたり粗利で試算してみてください。
デジタル活用の面では、点検の記録をデータとして残せるかどうかが分かれ目になります。紙のバインダーに綴じると、翌年に見返されません。
表計算でもかまいません。年ごとにならべて比べられる形にしておくことです。WBGT値も体力チェックの結果も、ならべてはじめて傾向が見えます。
人の面では、この点検そのものが教育になります。一人親方の健康診断を聞いて回る作業は、若手の総務担当に向いています。
相手の事情を知り、会社としてどこまで踏み込むかを考える機会になるからです。安全衛生は、教えるより、やらせたほうが早く身につきます。

まとめ
- 全国労働衛生週間は10月1日から7日。ただし準備期間は9月1日から30日で、点検はこちらで行います
- 今年のスローガンは「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」(第77回)
- 建設業が見るべきは①夏の熱中症の振り返り ②一人親方 ③転倒・腰痛 ④石綿の4つです
- 熱中症の連絡体制の整備は義務として要綱に書かれています
- 一人親方の健康管理は、注文者側が実施する事項にも入っています。安全衛生経費の確保も含みます
- 10月にやることは5つ。中でも表彰が、続く仕組みをつくります
要綱の原文は、厚生労働省の実施要綱(PDF)で読めます。報道発表もあわせてご確認ください。
自社の点検をどこから手をつけるか決めきれない、という場合は無料相談をご利用ください。月5件までとさせていただいています。要綱のどこが自社にかかるかを、一緒に絞り込むところからご一緒します。
出典(2026年9月13日時点)
- 令和8年度 全国労働衛生週間 実施要綱(厚生労働省・PDF・全9ページ)
- 令和8年度「全国労働衛生週間」を10月に実施(厚生労働省 報道発表)
- 令和7年における労働災害発生状況(確定値・厚生労働省・PDF) ※本文の災害件数はこの別表4より
- 職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省・PDF/令和7年6月1日 改正労働安全衛生規則 施行)
- 職場における熱中症予防情報(厚生労働省)
- 高年齢労働者の安全衛生対策について(厚生労働省)
- エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン・PDF)(2026年4月から「高年齢者の労働災害防止のための指針」に移行)
- 個人事業者等の健康管理に関するガイドライン(厚生労働省・PDF)
- 職場における腰痛予防の取組を!(厚生労働省・職場における腰痛予防対策指針)
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。
建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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