工事は終わった。検査も通った。それなのに、入金の日に金が入らない。
このとき失うのは、その1件の代金だけではありません。仕入先への支払い、職人の給料、次の現場の材料。相手の倒産が、こちらの資金繰りをそのまま止めます。これが連鎖倒産です。
そして連鎖倒産は、ある日突然に始まるものではありません。相手の資金が細りはじめた時点で、すでに芽は出ています。こちらから取りにいかないと見えない、というだけです。
与信管理とは、取引先の支払う力を調べ、いくらまで取引してよいかの線を決め、支払いの条件をそれに合わせておく仕事です。
「与信」は、相手を信じてお金を貸している状態を指します。工事を進めて、まだ代金をもらっていない。その間ずっと、相手にお金を預けているのと同じです。
効くのは、この芽の段階です。倒れてから動くのではなく、取引を始める前に見つけておく。信用調査会社に高い会費を払わないとできない、と思われがちですが、そんなことはありません。
建設業には、公的に確かめられる情報が他業種より多くあります。その多くは無料で、決算書を出してもらえない相手でも調べられます。
調べ方には4つあります。ただしこの記事は、表の番号順には並べていません。①と②を先に置き、③は「危険信号」の章で、④は必要になったときの選択肢として扱います。実務で先に手が届く順にしたためです。
| 調べ方 | 中身 | 費用 |
|---|---|---|
| ① 相手からもらう | 決算書を見せてもらう | 無料。ただし出してもらえるとは限らない |
| ② 公に出ているものを見る | 経審のP点・許可の状況・監督処分・官報・登記 | 登記以外は無料 |
| ③ 自社の中にあるものを使う | 現場の気づき・支払いの実績・過去のやりとり | 無料。いちばん早い |
| ④ 外に頼む | 信用調査会社の調査報告書 | 有料。1件あたり費用がかかる |
そのうえで、いくらまで取引してよいかの線を決めるところまでを、実務の手順として並べます。
建設業の与信が、他の業種より難しい3つの理由
同じ「売掛金の回収」でも、建設業は構造が違います。

① 着工から入金まで、期間が長い
小売や飲食は、売ったその場で現金が入ります。ところが建設業は、受注してから引き渡すまでに数か月、長ければ年をまたぎます。そのあいだずっと、材料費と人件費のほうが先に出ていきます。相手のふところが苦しくなってから、入金の日が来るまでに、時間がありすぎるのです。
② 出来高払いで、途中の債権が積み上がる
工事のとちゅうで出来高を請求していくやり方が、ふつうです。つまり、完成する前の時点で、すでに数百万から数千万のお金を相手にあずけたままにしている、ということになります。相手が倒れたときに危なくなるのは「さいごの1回分」だけではありません。
まだ入金されていない出来高が、まとめて回収不能のリスクにさらされます。(すでに支払いを受けた分は対象外ですし、倒産しても配当や担保・保証で一部が戻ることはあります。それでも、預けている額が大きいほど傷は深くなります。)
③ 重層構造で、相手の相手が見えない
元請、一次、二次、三次。自分の直接の取引先が健全でも、その上の元請が飛べば、連鎖でこちらまで来ます。見るべき相手は、契約書に名前がある1社だけではないということです。
この3つがあるため、建設業の与信管理は「取引が始まってから様子を見る」では間に合いません。
数字で見る、いまの建設業の倒産
感覚の話ではなく、公表されている数字で確認します。

東京商工リサーチの集計では、2026年上半期(1〜6月)の建設業の倒産は1,026件で、前年同期比5.8%増。5年連続で前年同期を上回りました。上半期としては2014年(1,035件)以来、12年ぶりに1,000件を超えています(2026年7月8日公表)。
同じ集計で、全産業の倒産は5,346件(前年同期比7.1%増)、負債総額は7,340億8,200万円。このうち「人手不足」関連の倒産が237件(同37.7%増)、「物価高」倒産が439件(前年同期344件)です。
年間で見ると、2025年の建設業の倒産は2,014件(前年比4.6%増)。内訳で注目すべきはここです。
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| 総合工事業 | 774件 |
| 職別工事業(専門工事) | 814件 |
| 従業員1〜4人 | 1,522件 |
| 従業員5〜9人 | 351件 |
| 従業員10人未満(合計) | 1,873件 |
※ 構成比は出典側に公表がありますが、集計の区分によって分母が異なるため、ここでは件数のみを載せています。1,873件は、建設業の倒産2,014件のうち9割を超えます。
倒れているのは、圧倒的に小さい会社です。そして件数では、職別工事業(専門工事)が総合工事業を上回っています。
ただし、これは「専門工事の会社が先に倒れる」という意味ではありません。業種ごとに会社の数そのものが違いますし、総合工事業も施工をしています。件数として専門工事に多く出ている、という事実だけを受け取ってください。
元請から見れば協力会社が消えるということであり、下請から見れば同業が消えて仕事が回ってくるということでもあります。どちらの立場でも、相手の体力を測る目が要るという結論は同じです。
まず、法律が決めている「入るはずの日」を押さえる
与信の話をする前に、前提として押さえておくことがあります。建設業では、元請と下請の契約について、支払いの期日が法律で決まっています。(発注者と元請のあいだの支払いは、この規定の対象ではありません。)ここを知らないと、「遅れている」という判断そのものができません。

ここからは、条文をひとつずつ見ていきます(出典は建設業法・e-Gov法令検索。2026年9月時点の条文で確かめています)。
① 完成の通知を受けたら、20日以内に検査を終える
元請負人は、下請負人からその請け負つた建設工事が完成した旨の通知を受けたときは、当該通知を受けた日から二十日以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その完成を確認するための検査を完了しなければならない。(建設業法 第24条の4第1項)
同条第2項で、検査で完成を確認した後、下請負人が申し出たときは直ちに引渡しを受けなければならない、と定めています。
ただし例外があります。同項のただし書が、その例外です。下請契約のなかで「工事完成の時期から20日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける」と特約している場合。この場合は、この限りでないとされています。
起算点を実務で使うときは、契約書にこの特約があるかどうかを先に見てください。
② 特定建設業者は、引渡しの申出から50日以内に払う
特定建設業者が注文者となつた下請契約(中略)における下請代金の支払期日は、第二十四条の四第二項の申出の日(同項ただし書の場合にあつては、その一定の日。以下この条において同じ。)
から起算して五十日を経過する日以前において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならない。(建設業法 第24条の6第1項)
起算点は「引渡しの申出の日」です。50日の期限そのものは、発注者から元請にお金が入ったかどうかで動きません。
ただし「入金は無関係」という意味ではありません。あとで見る第24条の3で、元請が発注者から支払を受けたときはその日から1月以内に下請へ回す義務が別にあります。
2つは両方効きます。先に来るほうが実際の期限です。入金が早ければ「受領から1月」が先に来ますし、入金が遅ければ「申出から50日」が先に来ます。
ただし、①で触れた20日特約がある契約では、起算点そのものが変わります。この条文の括弧書きで、特約がある場合は「その一定の日」から数えると定められているためです。50日を数え始める日が動くので、契約書に特約があるかどうかを先に確かめてください。
そして同条第4項の遅延利息は、契約で決めた支払日を1日過ぎたら発生する、というものではありません。条文は「引渡しの申出の日から起算して五十日を経過した日から支払をする日までの期間」について課すと定めています。
50日を過ぎた分に対する、特別な利息です。契約上の支払日を過ぎたことに対する遅延損害金とは別のものなので、混ぜないでください。その率は、
法第二十四条の六第四項の国土交通省令で定める率は、年十四・六パーセントとする。(建設業法施行規則 第14条)
年14.6%です。支払いが遅れているのに何も言わないままだと、請求できるはずのものを、実際には受け取らないまま終わります。(黙っていること自体が権利の放棄になるわけではありませんが、時間が経つほど言い出しにくくなり、時効の問題も出てきます。)
ただし、この50日のルールには適用されない場合があります。条文の括弧書きで、2つの場合が除かれています。下請側が特定建設業者である場合と、資本金の額が4,000万円以上の法人である場合です。金額の基準は建設業法施行令 第7条の2にあります。
つまり50日のルールが効くのは、下請側が中小の事業者であるときです。自社がどちらに当たるかを、先に確かめておいてください。
③ 元請が発注者から受け取ったら、1月以内に下請へ回す
元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは……当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。(建設業法 第24条の3第1項)
この3つを知っていると、与信の見方が変わります。「うちは末締め翌々月末払いです」と言われたとき、それが法定の期間に収まっているかを、その場で判断できるからです。
そして与信管理の観点で本当に重要なのはここです。支払サイトを法定より長く設定してくる相手がいます。期日を過ぎても遅延利息の話をされたくない相手もいます。どちらも、資金繰りが苦しいことがあります。契約条件そのものが、相手の体力を映します。
なお、原価を下回る契約の禁止は、建設業法第19条の3で二段構えになっています。第1項は注文者を縛るものです。「自己の取引上の地位を不当に利用して」、通常必要と認められる原価に満たない金額で契約することを禁じています。
第2項は建設業者自身を縛るものです。条文は「国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き」としています。自分が請け負う工事で原価割れの契約を結ぶことを禁じる規定です。
例外は「なんとなく事情がある」ではなく、省令で定められたものに限られます。条文には「自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができること」が例として書かれています。
買いたたく側だけでなく、受ける側も対象です。極端に安い金額を提示してくる相手は、与信の面でも気をつけたい相手になります。赤字で受けた工事のしわ寄せは、下請への支払いに出ます。
資材高騰への対応そのものは、スライド条項とは|資材高騰は交渉ではなく請求で通す3つの条項に整理しています。
取引の前に見る、決算書の4か所
決算書を全部読む必要はありません。建設業なら、見るべきは4か所です。

| 見るところ | 計算 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| ① 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 | 損失に対してどれだけ余裕があるか |
| ② 手元流動性 | (現金預金+有価証券)÷ 月商 | 決算日時点の資金の厚み |
| ③ 未収入金の伸び | 完成工事未収入金の伸び率と、完成工事高の伸び率を並べる | 売上以上に債権が増えていないか |
| ④ 支払サイト | 法定の期間と照らす | 条件そのものが体力を映していないか |
危険とみなす水準は、業種や規模で変わります。ここでは数値の線引きを置かず、何を見て、どう読むかまでを書きます。
① 自己資本比率 — 損失をどれだけ吸収できるか
自己資本 ÷ 総資産。資産のうち、返さなくてよいお金がどれだけあるかの割合です。低いほど、損失が出たときに債務超過へ届くまでの余裕が小さくなります。
ただし「何回耐えられるか」を測る指標ではありません。耐えられる金額を見るには自己資本の絶対額が要りますし、資金繰りで倒れるかどうかは、この比率だけでは分かりません。
② 手元流動性 — 決算日にどれだけ現金を持っていたか
(現金預金 + すぐに換金できる有価証券)÷ 月商。なん月分の現金を持っているか、という見方です。建設業はお金が入ってくるまでが長いので、もうけが出ていても、手元の現金が尽きて倒れることがあります。いわゆる黒字倒産です。
だからこそ、もうけを示す損益計算書ではなく、持っているものを示す貸借対照表と、日々の資金繰りのほうを見ます。
ただし、決算書で分かるのは決算日時点の残高です。そのあとの入出金、自由に使えない預金(担保に入っているものなど)、直近の支払予定までは見えません。
「明日払えるか」を決算書だけで判定することはできません。手元流動性は、あくまで相手の資金の厚みを比べるための目安として使ってください。自社側の資金繰りは建設業の資金繰り改善に書いています。この記事で見ているのは、相手側の資金繰りです。
③ 完成工事未収入金の伸びを、完成工事高の伸びと並べる
ここが建設業特有の見どころです。売上が10%伸びているのに、未収入金が40%伸びている。このとき、回収が滞っている可能性を疑います。
ただし、これだけで「回収できていない」と決めつけないでください。期末の近くに工事が集中して完成した、契約上の支払日がまだ来ていない、という理由でも未収入金は増えます。
本当に見たいのは、支払期日を過ぎても入っていない分がどれだけあるかです。決算書だけで分からなければ、次の取引条件を詰めるときに支払サイトを確認する材料にしてください。
④ 支払サイト — 法定の期間と照らす
「材料費は現金、労務費は手形で120日」のような条件が出てきたとします。その手形が、ほんとうに割引に応じてもらえるものかどうかを見てください。
これは建設業法の第24条の6第3項の話です。特定建設業者は、自分が注文者になった下請契約について、割引が困難だと認められる手形を交付してはならないとされています。条文でいう「割引」は、一般の金融機関で現金に換えることを指します。
禁じられているのは、渡された側が現金化に困る手形です。渡された側が困る手形は、そもそも渡してはいけないものだ、ということです。
読み方に慣れるまでは、公表されている資料をそのまま使ってみるのがいちばん早いと思います。自社の資金繰りのとなりに、業界ぜんたいの倒産の動きを置いてみてください。そうすると、自分の会社がいまどのあたりにいるのかが、なんとなくつかめるようになります。
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決算書がなくても取れる、4つの公的情報
建設業は、他業種より公的に開示されている情報が多い業種です。決算書をもらえなくても、ここまで分かります。

① 経営事項審査の結果(P点)
公共工事をじかに請け負う建設業者は、経営事項審査を受けることになっています。そしてその結果は、建設業情報管理センター(CIIC)がインターネットで公表しています。だれでも、お金をかけずに検索できます。
P点の中には、自己資本額・利益額・完成工事高といった財務の評価が含まれています。相手が経審を受けているなら、決算書をもらわなくても財務の輪郭がつかめる。しかも毎年更新されるので、点の推移を追えば傾向が見えます。
点数の中身は経営事項審査とは|点は決算日までに決まる2026年改正の3つに書いています。
② 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム
国土交通省の企業情報検索システムで、許可のじょうきょうと営業所を確認できます。
監督処分は、別のサイトです。ネガティブ情報等検索サイトにまとまっています。2つは別物なので、片方だけ見て「処分なし」と判断しないでください。また、掲載されるのは公表の対象期間内のものです。過去の処分がすべて残っているわけではありません。
もし相手が営業停止の処分を受けていたら、その処分の中身を必ず確認してください。営業停止には、営業の全部を止めるものと一部だけを止めるものがあり、対象の業種や地域も処分ごとに違います。
「処分が出ている=すべての契約ができない」ではありません。停止の期間と範囲を見て、こちらが依頼しようとしている工事が入っているかどうかで判断します。
③ 官報
破産手続開始決定などの倒産関連情報が掲載されます。インターネット版官報で確認できます。取引先の名前が出たときには、すでに手遅れではありますが、連鎖の2社目・3社目を止めるための情報として使えます。
④ 登記情報
商業登記の変更の履歴です。本店をなんども移している、役員がつづけて辞めている、目的の変更が急である。こうしたことが見えてきます。ただし、これだけで判断してはいけません。ほかの信号と重なったときに、はじめて裏づけとして使えるものだとお考えください。
この4つの共通点は、相手に何も聞かずに取れることです。「決算書を見せてください」は言いにくくても、これなら関係を壊さずに調べられます。
1点だけ補足します。登記の履歴を取るのは有料です。登記情報提供サービスや登記事項証明書には手数料がかかります。無料で確認できるのは、経審のP点・国交省の検索システム・官報のほうです。登記は「必要なときに、お金を払って取りにいく」ものとお考えください。
いくらまで取引してよいかを、先に決める
調べたあとに出てくるのが、「では、いくらまでなら取引してよいのか」という問いです。一般に与信限度額と呼ばれるものです。
これを決めずに調べるだけで終わると、判断が担当者の感覚に戻ります。金額の線を先に引いておくと、断る理由が個人の意見ではなくなります。
① 相手の体力から引く
相手の純資産に、一定の割合を掛けて上限とする考え方です。実務では1割前後から始めて、取引の実績を見ながら動かします。
純資産は決算書から取れます。決算書をもらえない相手なら、経審の結果に載る自己資本額で代用するという手もあります。総合評点(P点)そのものは純資産ではありません。経審の結果には自己資本額が別に記載されるので、代用できるのはそちらです。
② 自社の体力から引く
もう一方の見方です。その1社が倒れて全額回収できなかったとき、自社が持ちこたえられるか。自己資本や年間の利益と並べて、耐えられる金額を上限にします。
相手が大きくても、自社が耐えられない額なら線は引き下げます。2つを出して、小さいほうを採ってください。
③ 建設業では「請負金額」ではなく「未入金の残高」で見る
ここが他業種と違うところです。一般的な与信限度額は、月々の売上と回収サイトから決めます。
ところが建設業は、出来高で請求しながら工事が進みます。いま危ないのは、契約金額ではなく、まだ入金されていない出来高の合計です。
1件の請負金額が限度内でも、同じ相手の現場が3つ動いていれば、預けている残高は3件分です。現場ごとではなく、相手ごとに合算して見てください。
なお、これらの決め方に法令上の根拠はありません。実務で使われている考え方であって、正解が1つあるわけではありません。自社の体力と、取引の性質に合わせて決めるものです。
危険信号は、この順番で出る
倒産は、ある日突然起きるように見えて、兆候には出やすい順番があります。
ただし、いつもこの順で出るわけではありません。資金以外の理由で監督処分が先に出ることもありますし、途中の段階が飛ぶこともあります。順番どおりでないから安全、とは考えないでください。早く出やすいものから並べた見取り図として使ってください。

| 段階 | 出る信号 | 見つけ方 |
|---|---|---|
| 1. 資金が細り始める | 支払条件の変更を打診してくる/手形のサイトが伸びる | 契約・請求の実務 |
| 2. 現場に出る | 材料の納入が遅れる/職人の入りが薄くなる/小口の未払いの噂 | 現場の職長・仕入先 |
| 3. 数字に出る | 経審のP点が下がる/完成工事高が急減する | CIICの公表 |
| 4. 人が動く | キーマンの退職/役員の変更 | 登記・現場の会話 |
| 5. 公的に出る | 監督処分/官報掲載 | 国交省システム・官報 |
注意すべきは、1と2が最も早く、そして最も見過ごされることです。この2つは、経営者ではなく現場の人間が先に気づきます。職長が「あそこ、最近ちょっと変ですよ」と言ったとき、それは与信情報です。
与信管理の実務で一番効くのは、この現場の声を拾って書き留める仕組みを持つことです。
信用調査会社のレポートも、支払遅延の情報や取材でつかんだ変化を早い段階で伝えてくることがあります。外部の調査が遅い、と決めつけないでください。ただし「この現場の職長が感じた違和感」は、自社にしか入ってきません。外の情報と、自社の中の情報。両方を並べて見るのがいちばん確かです。
自社で調べきれないときは、外に頼む
決算書も出てこない、公的情報だけでは足りない。現場からの声も上がってこない。そういう相手のときは、信用調査会社の調査報告書を取るという選択肢があります。
1件あたり費用はかかりますが、取りはぐれの金額と比べれば小さいことがほとんどです。新規の相手で金額が大きいときだけ使う、という決め方でも十分に機能します。
取引を切らずに、身を守る5つの打ち手
危ないと分かった相手と、すぐ取引を止められるとは限りません。売上の3割を占めている元請なら、なおさらです。切らずに守る方法があります。
① 出来高の刻みを細かくし、支払サイトも詰める
月1回の請求を、半月ごとにする。ただし、請求の回数を増やすだけでは足りません。入金の日が変わらなければ、預けている残高はあまり減らないからです。
請求の間隔と一緒に、支払サイトも短くしてもらうこと。この2つをそろえて初めて、預け金が小さくなります。契約時に決めておけば、途中から言い出すより角が立ちません。
② 前受け・材料支給に切り替える
材料を自社で立て替えず、相手(元請)に購入・支給してもらう形に変える。立て替えをやめれば、その分の持ち出しがなくなります。ただし消えるのは材料費の立替分だけで、人件費の持ち出しは残ります。それでも、預ける金額を小さくする効果はあります。
③ 手形をやめて現金にする
法律の側に根拠があります(建設業法第24条の6第3項)。「割引が困難な手形は交付できないことになっているので」と切り出せば、個人的な不信ではなく制度の話にできます。
④ 注文書と検査記録を、その都度そろえる
相手が破産したとき、債権があること自体は口頭の約束でも成り立ちます。消えるわけではありません。問題は、それを証明できるかどうかです。
破産手続では債権を届け出て、中身を認めてもらう必要があります。書面がなくても、やりとりの記録や関係者の証言で認められることはあります。ただし手間も時間もかかり、認められない場合もあります。追加変更こそ、その日のうちに書面にしてください。
⑤ 依存度を測って、1年かけて分散する
1社の元請で売上の何%か。この数字を出していない会社が多いのが実情です。目安として3割を超えているなら、与信の管理だけでは支えきれません。(3割という数字に法令上の根拠はありません。1社が倒れたときに会社が持ちこたえられるか、という実務上の感覚です。)
そして代替先は、探し始めてすぐ見つかるものではありません。危なくなってから動いたのでは間に合わない、というのが実務の感覚です。
元請にどれだけ頼っているかの洗い出しから、代わりの取引先づくりまで。順番を決める無料の経営相談はこちら(毎月5枠)
与信を「人」から「仕組み」へ
多くの会社で、与信は社長か番頭の頭の中にあります。「あそこは長い付き合いだから大丈夫」「あそこは払いが渋い」。この判断は当たっていることが多い。問題は、その人が現場を離れた瞬間に消えることです。
わたしどもが申し上げている統合最適化メソッドが、この場面でそのまま使えます。人材育成とDX推進と収益改善を、ひとつにして考えるやり方です。

人材育成 — 判断の基準を、言葉にする
基準を言葉にすると、番頭以外も判断できるようになります。「支払条件の変更を打診されたら、金額にかかわらず報告」。この一行があるだけで、現場の若手が第一発見者になれます。属人的な勘を、教えられる基準に変える作業です。
DX推進 — 取引先台帳に、与信の欄を足す
経審のP点、前回確認日、支払条件、現場からの気づき。新しいシステムを買う必要はありません。協力会社台帳をすでに作っているなら、そこに列を足すだけです。年1回、P点の更新時期にまとめて見直す運用にすれば、続きます。
台帳の設計そのものは大福帳に学ぶデータの置き方で書いた考え方がそのまま使えます。
収益改善 — 守りは、攻めより効率がいい
取りはぐれを1件ふせぐ効果は、値引きの交渉を何十回もするのと同じくらいの重さがあります。たとえば売上1億円で、粗利のわりあいが10%の会社を考えてみてください。
500万円を回収できなかったとすると、その穴を売上で埋めるにはあらたに5,000万円を受注しなければなりません。取りに行くより、まもるほうがずっと軽いのです。
3つは別々の施策ではありません。基準を言葉にする(人材育成)→ 台帳に載せる(DX推進)→ 貸倒れが減る(収益改善)という一本の線です。
まとめ
- 建設業の与信が難しいのは、入金までが長い・途中の債権が積み上がる・相手の相手が見えないの3つの構造による
- 2026年上半期(1〜6月)の建設業の倒産は1,026件。上半期としては12年ぶりに1,000件を超えた
- 2025年の年間では2,014件。うち従業員10人未満が1,873件で、9割を超える。倒れているのは施工する側の小さい会社
- 支払期日は法律で決まっている。引渡しの申出から50日(特定建設業者)、遅れれば年14.6%の遅延利息。契約条件そのものが相手の体力を映す
- 決算書で見るのは4か所。自己資本比率・手元流動性・未収入金の伸び・支払サイト
- 決算書がなくても、経審のP点・国交省の検索システム・官報は無料で確認できる(登記の履歴は有料)
- 調べたら、いくらまで取引してよいかの線を先に引く。建設業は請負金額ではなく未入金の出来高残高を相手ごとに合算して見る
- 危険信号には出やすい順番がある(順番どおりに出るとは限らない)。最も早い信号は、現場の職長が持っている
- 切らずに守る打ち手は5つ。最後の1つ、元請依存度が3割を超えたら、与信の管理では支えきれない(3割は法令上の基準ではなく実務の目安)
与信管理は、疑うための仕事ではありません。長く付き合うために、無理のない取引条件を先に決めておく仕事です。
出典
- 建設業法(e-Gov法令検索)
- 建設業法施行規則(e-Gov法令検索)
- 2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産5,346件(東京商工リサーチ・2026年7月8日)
- 止まらない建設業の倒産、職別工事が総合工事を抜く(東京商工リサーチ・2026年7月6日)
- 経営事項審査結果の公表(建設業情報管理センター)
- 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム(国土交通省)
- インターネット版官報
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。
建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
あわせて協力会社台帳の作り方|許可・保険の期限を切らさない・経営事項審査とは|点は決算日までに決まる2026年改正の3つもどうぞ。
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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