MENU
Newspicks認定エキスパートに就任いたしました。                              「DX認定事業者」に認定されました。

建設現場の二重チェック|中堅が薄い会社で効かせる3つの方法

建設現場の二重チェックを表すアイキャッチ。仮支えの上の鉄骨梁を、1人目と別の目の2人目が別々に確かめる図

二重チェックは、2人目が「1人目と別の目」で見たときにだけ効きます。

同じ前提で、同じ資料を、同じ時間に見るだけなら、ハンコが2つ並ぶだけです。東京・八重洲の再開発現場で起きた鉄骨落下事故(大林組・大成建設の共同企業体が施工)の報道は、そのこわさを示しています。

この記事では、国がことし3月に出した留意事項を原典で読みます。そのうえで、中堅の社員が少ない会社でも二重チェックを効かせる3つの方法をまとめます。

目次

八重洲の鉄骨落下で、何が起きたか

まず、この事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りし、けがをされた方の回復をお祈りします。

厚生労働省の通達は、事故をこう書いています。

令和5年9月19日、東京都中央区のビル建築現場において、鉄骨の組立作業中に鉄骨梁を支えていた仮設構造物が崩壊し、鉄骨建方作業に従事していた労働者及び下層で作業を行っていた労働者6名が被災し、うち2名が死亡するという重大な災害が発生しました。

八重洲の鉄骨落下事故から書類送検までの流れ。2023年9月19日の事故、2026年3月10日の厚生労働省の留意事項、2026年9月18日の書類送検
図1 事故から送検までの流れ(厚生労働省の通達と報道から作成)

警視庁は2026年9月18日、大林組の社員2人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検しました。日経クロステック(2026年10月5日)が報じています。送検は捜査の段階です。刑事責任は、まだ決まっていません。

日経ビジネス(2026年10月6日)は、次の3点を報じています。どれも「とされる」という書き方です。

  • 仮支えの強度計算をになったのは、経験のない当時30代前半の作業主任だった
  • 重さを半分以下とした計算に、リース会社が強度不足を指摘していた
  • 上司も報告を受けたのに、直らなかった

同じ記事で、東京都市大学の野城智也学長は次のように述べています。

就職氷河期世代の採用減で中堅が薄くなり、ミスを補う『補完の連鎖』が働きにくくなった

当社は、この事故を1つの会社の問題として読みません。報道によれば、指摘は届いていたとされ、上司も報告を受けていたとされます。それでも止まらなかったとされます。

もしそうなら、この形は、会社の大きさを問わず、どの建設会社にも起こりうると当社は見ています。

二重チェックが、効かなくなる3つの穴

報道の3点を、二重チェックのしくみに置きかえると、次の3つの穴になります(当社の整理です)。

二重チェックが効かなくなる3つの穴。指摘が閉じない、検算が同じ前提に立つ、補う中堅がいない
図2 二重チェックが効かなくなる3つの穴(当社の整理)
穴 起きること この記事の方法
1. 指摘が閉じない 外からの指摘を「聞いた」で終え、直ったかをだれも確かめない 方法1 指摘を台帳で閉じる
2. 検算が同じ前提に立つ 2人目が1人目の数字を写して計算し、前提のあやまりに気づけない 方法2 AIで数え直し、シニアが判断する
3. 補う中堅がいない 若手と部長のあいだが空き、「おかしい」と言える人がいない 方法3 年代の空白を表にする

建設業の死亡災害は、令和6年に232人でした。業種別でいちばん多い数字です(厚生労働省 令和7年5月30日)。確かめる仕組みの穴は、そのまま人の命にかかわります。

国は3月に、確認体制を計画に明記するよう示した

厚生労働省は2026年3月10日、この事故の調査結果をふまえた留意事項を出しました(基安発0310第1号・第2号)。鉄骨の梁などを仮に支える仮設構造物がくずれるのを防ぐためのものです。

あて先には、日本建設業連合会のほか、全国中小建設業協会や建設産業専門団体連合会も入っています。大手だけの話ではありません。

二重チェックにかかわる部分は、次の4つです。

厚生労働省の留意事項のうち二重チェックにかかわる4点。確認体制を計画に明記する、計画を変えたら計算からやり直す、安全率と根拠を書く、計画とちがったら止めて報告する
図3 留意事項のうち、二重チェックにかかわる4点(厚生労働省 基安発0310第1号・第2号から作成)

1. 確認の体制を、計画に書く

建設工事現場の代理人による確認のほか、店社による確認、仮設構造物の構造設計を行った者による確認等、十分な確認体制による確認を行うとともに、当該確認体制を同計画に明記すること。

現場の中だけで見ない、ということです。現場の代理人のほかに、本社(店社)と、構造を設計した人が入ります。

留意事項がもとめているのは「体制」を書くことです。だれの名前を書くかまでは、決めていません。当社は、さらに一人ひとりの名前まで書くことをすすめています(当社の見方です)。役わりだけだと、だれも見ないまま進むことがあるからです。

2. 計画を変えたら、計算をやり直す

留意事項は、計画を変えるときも「再度」安全性を確かめ、計画に書いた確認体制で確かめるようもとめています。チェックリストにも、変えたときの強度計算と、その結果の確認が項目として並びます。

3. 安全率と、その根拠を書く

破壊強さ(こわれる強さ)に対して2.0〜2.5の安全率をとるなど、十分な安全率をとることとしています。とった安全率と、そう決めた根拠は、計画に書いておきます。

4. 計画とちがったら、止めて報告する

計画とちがう設置の状態や荷重条件(重さや、片寄った載り方など)が生じたら、ただちに作業を止めます。確かめた結果を元請(通達の言葉では「元方事業者」)に報告し、見直してから再開します。点検は、点検した人の氏名と結果を記録します。

あわせて、労働安全衛生規則517条の2は、作業計画を定めることをもとめています。対象は、高さ5メートル以上の、金属の部材でできた建物の骨組みなどを組み立て・解体・変更する作業です。根拠は労働安全衛生法施行令6条15号の2です。

事業者は、令第六条第十五号の二の作業を行うときは、あらかじめ、作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。

同じ条の2項2号は、作業計画にしめす事がらとして、次の方法をあげています。

部材の落下又は部材により構成されているものの倒壊を防止するための方法

方法1 外からの指摘は、直るまで追いかけて閉じる

リース会社、協力会社、設計者、検査の担当。外からの指摘は、現場の中の人が見落とした点を教えてくれる、いちばん安い二重チェックです。

ただし、聞いただけでは効きません。「直ったことを、だれが確かめたか」まで残して、はじめて閉じます。当社は、次の5つの欄の台帳をすすめています(当社の整理です)。

指摘台帳の5つの欄。受けた日、だれから、中身、直す人と期限、閉じたことを確かめた人
図4 外からの指摘を閉じる台帳の5つの欄(当社の整理)
欄 書くこと ねらい
受けた日 日付と時刻 放置した日数が見える
だれから 会社名と担当者 あとで問い合わせられる
中身 指摘をそのまま写す 言いかえで中身を軽くしない
直す人と期限 名前と日付 「みんなの宿題」にしない
閉じたことを確かめた人 直した人とは別の人 直した本人の「直した」で閉じない

いちばん大事なのは、最後の欄です。直した人と、確かめた人を分けます。これが二重チェックの本体です。

もう1つ、線を引きます。荷重や強度にかかわる指摘が閉じるまで、その部分の作業に入らない。留意事項の「計画とちがったら止める」と同じ考え方です。

方法2 計算書は、AIで数え直し、シニアが判断する

報道では、重さの見積もりが実際の半分以下だったとされています。こうしたあやまりは、計算の式よりも、拾い出し(何を何本、どれだけの重さで数えたか)で起きやすいと当社は見ています。

2人目が1人目の拾い出しをそのまま使うと、あやまりもいっしょに写ります。そこで、図面から別の道すじで数え直す役を、AIに持たせます。この記事では、2人目が計算を確かめることを「照査」とよびます。

計算書を数え直す流れ。担当者が計算し、AIが別の道筋で数え直し、差が出たらシニアが判断し、確認者が名前を残す
図5 計算書を数え直す流れ(当社の整理)

AIにたのむのは、次の3つです。

  • 拾い出しの数え直し:図面や部材表から、部材の本数と重さを別に数え、計算書とくらべる
  • 前提の書き出し:計算書に書かれた荷重条件・安全率・単位を一覧にして、空いている欄を見つける
  • 前の版との差:計画を変えたとき、どの数字が変わったかを並べる

AIにさせないこともあります。安全かどうかの判断と、確かめた人の名前は、人が持ちます。AIはまちがえます。だからこそ、AIと人の数字が合わないときに、「なぜ合わないか」を経験のあるシニアが見ます。

数字が合ったときも、それで終わりにしません。同じ前提で計算すれば、まちがっていても数字は一致してしまうからです。合ったときもシニアは、次の3つを自分で確かめます。

  • 原図:計算に使った図面が、最新の版の原図か
  • 対象の部材:仮に支える部材を、もれなく数えているか
  • 施工段階ごとの荷重条件:組み立ての途中など、段階ごとに荷重条件を置いているか

そのうえで、確かめた人の名前を残します。「AIが合っていると言った」は、確認の記録になりません。

当社は、AIを「人をへらす道具」ではなく、シニアの目を、本当に見るべき1か所に集める道具として使うことをすすめています。

自社の計算書と、照査のしかたを、いちど外の目で見てほしい。そうお考えでしたら、無料経営相談からお声がけください。手元の計算書と台帳で、どこに穴があるかをいっしょに見ます。

方法3 年代の空白を、表にして見えるようにする

国土交通省の資料では、建設業で働く人は令和6年に477万人です。そのうち55歳以上が36.7%、29歳以下が11.7%でした(最近の建設産業行政について 令和7年9月)。

上と下がいて、まん中がうすい会社では、「若手が計算し、部長がハンコを押す」形になりがちです。そのあいだで「この数字、おかしくないか」と言う人がいません。

まず、自社の空白を表にします。年齢の欄だけでなく、だれが何を確かめられるかを書くのがこつです(当社の整理です)。

確かめられる人を年代ごとに数える表の例。年代ごとに、計算できる人、2人目として確かめられる人、現場で止められる人の人数を書く。穴かどうかは工種ごとに見る
図6 確かめられる人を、年代ごとに数える表。穴かどうかは工種ごとに見る(当社の整理・記入例は架空)
年代 計算できる人 2人目として確かめられる人 現場で止められる人
20代      
30代      
40代      
50代      
60代以上      

穴かどうかは、工種ごとに見ます。ある工種を「2人目として確かめられる人」が社内に0人なら、それがいまの穴です。一方、年代の空白は、ほかの年代の人が確かめられるうちは穴ではありません。10年後に穴になる予兆として見ます。うめ方は3つあります。

  • 外の目を、計画に入れる:構造の設計者や、仮設機材のメーカー・リース会社の技術担当。留意事項の「確認体制」と同じ形です。当社は、ここにも名前まで書くことをすすめます
  • シニアに、照査の役を残す:定年後の再雇用でも、照査と若手への説明だけを受け持ってもらう
  • 照査の記録を、教材にする:差が出た計算と、その理由をためて、若手が読めるようにする

当社は、この3つのうちシニアに照査の役を残すことを、まず考えてほしいと見ています。

計算は若手でも覚えられます。一方で、「この数字は重すぎる・軽すぎる」と気づく勘は、現場の年数でしか育ちにくいからです。だからこそ当社は、気づいた理由を記録に残し、若手が読めるようにすることも、あわせてすすめています。

人を育てる、道具で確かめる、事故の損失を防ぐ。この3つを同時に進めるのが、当社の考える二重チェックです。

今月、社長が決める5つのこと

今月社長が決める5つのこと。確認の体制を計画に書く、指摘台帳を作る、変えたら計算をやり直す、AIの役と人の役、年代ごとの表
図7 今月、社長が決める5つのこと(当社の整理)
  1. 仮設や揚重の計画に、確認の体制を書く(現場の代理人・本社・外の人)。当社は、一人ひとりの名前まで書くことをすすめます
  2. 指摘台帳を作る。「閉じたことを確かめた人」の欄をかならず入れる
  3. 計画を変えたら計算をやり直すことを、社内のきまりに書く
  4. AIにたのむ範囲と、人が判断する範囲を1枚に決める
  5. 確かめられる人を年代ごとに数え、空白のうめ方を決める

よくある質問

Q1. うちは小さな工事しかしません。この留意事項は関係ありますか。

留意事項の対象は、鉄骨の梁などを仮に支える仮設構造物です。あて先には全国中小建設業協会も入っています。

確認体制を書く・変えたら計算し直す・ちがったら止める。当社は、この考え方は足場や型枠支保工でも役に立つと見ています(当社の見方です)。ただし、足場や型枠支保工には、それぞれ別の条文があります。

Q2. 二重チェックとダブルチェックは、ちがいますか。

同じ意味で使われます。この記事では、2人目が別の目で見ることを二重チェックとよんでいます。同じ資料を2人でながめるだけでは、二重チェックとは言いません。

Q3. 強度計算をAIにまかせてもよいですか。

おすすめしません。AIはまちがえます。この記事でAIにたのむのは、数え直し・前提の書き出し・前の版との差までです。安全の判断と、確かめた人の名前は、人が持ちます。

Q4. 書類送検された社員は、有罪になったのですか。

なっていません。書類送検は捜査の段階で、起訴するかどうかは検察が決めます。業務上過失致死傷は刑法211条に定めがあり、いまの条文の法定刑は「五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金」です。

ただし、拘禁刑を入れた改正は2025年6月1日に施行されました。それより前の行為には、改正前の刑が使われます。根拠は、刑法改正にともなう整理法の441条1項(「なお従前の例による」)です。

2023年の事故なので、改正前の「五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金」が当てはまります。

Q5. 中堅を採用できません。どうすればよいですか。

採用だけでうめようとしないことです。外の目を計画に入れる・シニアに照査の役を残す・照査の記録を教材にするの3つを、同時に進めます。

まとめ

  • 二重チェックは、2人目が別の目で見たときにだけ効きます
  • 国は2026年3月、確認体制を計画に明記する・変えたら計算し直す・ちがったら止めることを示しました
  • 当社は、確認体制に一人ひとりの名前まで書くことをすすめます
  • 外からの指摘は、直した人と確かめた人を分けて、台帳で閉じます
  • 計算書は、AIが別の道すじで数え直し、シニアが判断します
  • 中堅の空白は、だれが何を確かめられるかで表にしてうめます

確かめる仕組みを、人の育て方とあわせて作り直したい。そうお考えでしたら、無料経営相談へどうぞ。人材育成・DX推進・収益改善を一つにする「統合最適化メソッド」で、まとめて見ます。

この記事は一般的な内容をお伝えするものです。個別の工事の計画や法令の当てはめは、専門家におたずねください。報道の内容は、各報道機関の記事によるものです。

関連記事

出典

出典はいずれも 2026年10月13日時点で確認しています。条文はe-Gov法令API(同日取得)の現行条文です。報道は各社の公開部分によります。

監修

佐藤 望

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。

保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。

経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。


建設業を支援する経営コンサル、株式会社アプリバンクをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

建設現場の二重チェックを表すアイキャッチ。仮支えの上の鉄骨梁を、1人目と別の目の2人目が別々に確かめる図

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次