建設DXとは、データとデジタルの道具を使って、建設会社の仕事の進め方と、もうけ方そのものを変えることです。
タブレットやアプリを入れることは、その入り口にすぎません。この記事では、国の定義と施策を原典で読み、中小の建設会社がどこから手をつけるかを5つの手順にまとめます。
建設DXとは — 意味をひとことで
DXは「デジタル・トランスフォーメーション」の略です。経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0は、DXをこう定めています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
長い文ですが、大事なのはうしろ半分です。変える先は、道具ではなく、売り物やもうけ方、仕事のやり方、組織と社風です。そのうえで、競争で勝てるようになることを目ざします。
建設業に当てはめると、次のように言いかえられます(当社の言いかえです)。
- 図面・工程・原価・勤怠などのデータを、つないで使えるようにする
- 少ない人数で、同じ量の工事を安全に回せるようにする
- その結果、受ける工事の選び方や、もうけ方まで変える
同じコードは「経営者が積極的に関与することが極めて重要」と書いています。そのうえで、経営者は次のように考えることが求められる、としています。
DX推進はIT部門ではなく、経営陣(経営者や執行役員等)や取締役会の役割である
建設会社なら、現場まかせ・IT担当まかせにしない、ということです。
IT化・デジタル化と建設DXのちがい
「IT化」と「DX」は、よく同じ意味で使われます。ちがいは、道具を入れたあとに、仕事の決め方が変わったかどうかです。日報を例にすると、次のとおりです。
| 段階 | 日報でいうと | 変わること |
|---|---|---|
| 1. 紙をデータにする | 手書きの日報を、表計算に打ちこむ | しまう・さがすが楽になる |
| 2. 1つの仕事をデジタルで回す | 現場からアプリで日報を送る | 事務所への行き来がへる |
| 3. 建設DX | 日報の人数と時間を、工程と原価につなぐ | 人の配り方と見積もりの決め方が変わる |

アプリを入れても、日報が「出して終わり」なら、まだ2段目です。データを見て、人の配り方や見積もりを決めるようになると、DXの段階に入ります。
ただし、冒頭の定義が求めるのは、その先です。受ける工事の選び方やもうけ方、組織まで変えて、競争で勝てるようになることがDXのゴールです。
なぜいま建設業でDXなのか — 人の数と時間の上限
理由は、人がへり、1人が働ける時間にも上限がついたからです。国土交通省の資料「最近の建設産業行政について」(令和7年9月)から数字をひろいます。
- 建設業で働く人は、令和6年平均で477万人。いちばん多かった平成9年の685万人から、約30%へりました
- 年れいでは、55歳以上が36.7%、29歳以下は11.7%です

この先も、人はふえにくい見通しです。働く世代の人口は、2040年度に2020年度より約2割へる予測です(国交省i-Construction 2.0の本文)。
時間にも上限があります。建設業の残業の上限規制は、労働基準法附則139条2項の猶予が、原則として令和6年3月31日まででした。
いまは建設業にも上限がかかっています。災害の復旧・復興の仕事には、同じ条の1項で一部の例外があります。くわしくは建設業の2024年問題をご覧ください。
人はへる。1人の残業も、上限をこえてはふやせない。それなら、1人あたりでこなせる仕事をふやすことが要ります。当社は、建設DXを流行ではなく、仕事を受けつづけるための条件と見ています。
国の施策 — i-ConstructionからBIM/CIM、i-Construction 2.0へ
国の動きを、国土交通省の資料で順にたしかめます。
i-Construction(2016年度から)
国交省は2016年度から「i-Construction」を進めてきました。測量から設計、施工、検査、維持管理まで、ICTを使うとりくみです。目標は、現場の生産性を2割上げることでした。
その中心がICT施工です。i-Construction 2.0の本文によると、2022年度は、ICT施工ができる直轄土木工事の87%で行われました。2015年度とくらべ、作業時間は平均で約21%へったとしています。
国の工事だけの話ではありません。都道府県と政令市でも、ICT施工の公告は2016年度の84件から、2022年度は13,429件にふえました。
BIM/CIMの原則適用(2023年度から)
BIM/CIMは、建設の仕事であつかう情報をデジタルにするとりくみです。設計から施工、維持管理までの建設生産プロセス全体を効率よくします。国の直轄土木の業務・工事では、2023年度から原則として行うことになりました。
i-Construction 2.0(令和6年4月)
国交省は令和6年4月16日に「i-Construction 2.0」を公表しました。目標は、2040年度までに現場の省人化を少なくとも3割、つまり生産性を1.5倍以上にすることです。本文では、くらべる基準を2023年度としています。
柱は次の3本です。
- 施工のオートメーション化
- データ連携のオートメーション化
- 施工管理のオートメーション化
本文は、これまでの「ICT等の活用」から「自動化」へ進める必要がある、と書いています。中小の会社の始め方はi-Construction 2.0の記事にまとめました。

建設業法も「ICTの活用」を求めている — 公共工事は下請も
DXは、国の工事を受ける会社だけの話でもありません。建設業法25条の28第1項は、こう決めています。
特定建設業者は、工事の施工の管理に関する情報システムの整備その他の建設工事の適正な施工を確保するために必要な情報通信技術の活用に関し必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
対象は特定建設業者で、「努めなければならない」という努力義務です。
同じ条の2項では、発注者から直接請け負った特定建設業者は、下請が同じとりくみをできるよう指導に努めるとされています。
公共工事では、対象が広がります。入札契約適正化法16条は、公共工事について、この条の1項と2項の「特定建設業者」を「建設業者」と読みかえています。
国交省のICT活用の指針も、公共工事では下請業者にも同じ努力義務がかかる、と説明しています。建設業の許可があれば、一般建設業でも、下請でも対象です。
民間工事でも、下請に入る会社は、元請から情報システムを使うよう求められる場面がふえる、と当社は見ています(推定)。
建設DXで使われる技術
よく名前が出る技術を、中小の目線で並べます。どれから入れるかは、困りごとで決めます。
| 技術 | 何が変わるか | 中小での入り方 |
|---|---|---|
| ICT建機・ドローン測量 | 測量と土工の手間がへる | 公共の土木工事を受ける会社から |
| BIM/CIM | 設計と施工の情報を3次元でつなぐ | 国の土木工事を受けるなら、まず読めるように |
| クラウドの施工管理 | 写真・図面・日報を、現場と事務所で同時に見る | 1つの現場で試してから広げる |
| 勤怠・原価のデータ化 | 人の時間と工事の原価を、同じ表で見る | 残業の上限と赤字工事の両方に効く |
| AI | 書類の下書きや、さがしものが速くなる | データの置き方を決めてから |
| IoT(センサー・カメラ) | 危ない場所を、はなれて見る | 安全の困りごとがある現場から |
現場アプリの選び方は施工管理アプリの選び方、安全の技術は建設現場の安全DXにまとめています。
中小建設業は何から始めるか — 5つの手順
道具の名前から入ると、「入れたが使われない」で終わりがちです。当社は、次の順をおすすめしています。
先に知っておきたい、つまずきやすい3つ
建設DXの解説の多くが、同じつまずきをあげています。まとめると、次の3つです。
- お金:何に効くかを決めずに買うと、費用だけが残る
- 人:社内にくわしい人がいないと、設定と教え役が1人に集まる
- 現場:職人が使いにくいと、紙とアプリの二重になる
3つとも、入れる前の決め方でかなり減らせる、と当社は考えています。入れたあとの教え方や、使い方の見直しも欠かせません。次の5つの手順は、その決め方です。

1. 困りごとを、数字で1つに決める
「現場監督の残業が多い」ではなく、「月に何時間か」まで書きます。数字で書けると、あとで効いたかどうかが分かります。
2. データの置き場所と書き方を決める
工事の名前や日付の書き方が人ごとにちがうと、あとでつなげません。置き方は大福帳に学ぶデータの置き方でふれました。
3. 1つの現場で、期間を決めて試す
全社に一度に入れず、協力してくれる現場で試します。現場の職人が使えるかどうかを、ここで見ます。
4. 費用対効果を、工事ごとに見る
会社全体でならすと、効いた現場と効かない現場が見えません。測り方は建設業DXの費用対効果にまとめています。
5. 社長が「何のためのDXか」を出す
国のコードも、DXは経営陣の役割だとしています。「残業をへらして、受けられる工事をふやす」のように、目的を1行で現場に出します。
大手と同じ額は使えません。中小の勝ち筋はゼネコン3社のDX投資と中小の勝ち筋で書きました。ほかの会社の例は、別の記事「建設DXの事例」で紹介します。
自社の困りごとを、どの数字で測るか決めたい。そうお考えでしたら、無料経営相談からお声がけください。手元のデータで何が出せるかを、いっしょに見ます。
統合最適化でみる建設DX
株式会社アプリバンクは、人材育成・DX推進・収益改善をひとつにして見ます(統合最適化メソッド)。建設DXなら、日報と勤怠を工程・原価につなぐ1つの作業が、3つに同時に効きます。
人材育成 — 若手が早く判断できるようになる
ベテランの頭の中にあった段取りが、データで見えるようになります。若手は、過去の工事の数字を見ながら判断をおぼえられます。
DX推進 — 手で集める仕事をへらす
同じ数字を、日報・勤怠・原価で何度も打ちこむ手間をへらせます。働き方改革×DXでも、勤怠と工期の話を書きました。
収益改善 — 赤字の工事に早く気づく
人の時間が工事ごとの原価につながると、月末を待たずに、もうからない工事に気づけます。次の見積もりにも、その数字を使えます。
よくある質問
Q1. 建設DXとIT化は、どうちがいますか。
IT化は、道具を入れて今の仕事を楽にすることです。建設DXは、そのデータで、人の配り方や工事の選び方まで変えることです。
Q2. 社員が少ない会社にも、建設DXは要りますか。
要ります。人が少ない会社ほど、1人がぬけたときの影響が大きいからです。困りごと1つから始めれば、最初から大きな投資をしなくてすみます。
Q3. i-Construction 2.0は、民間の工事しか受けない会社にも関係しますか。
i-Construction 2.0は、国土交通省がまとめた国の取り組みです。ただ、ICT施工は都道府県などの工事にも広がっています(2022年度の公告13,429件)。人や機械の流れを通じて、まわりの会社にも及ぶと当社は見ています(推定)。
Q4. 建設DXは、法律の義務ですか。
「DXをしなさい」という法律はありません。ただし建設業法25条の28は、特定建設業者に、情報通信技術を使うための措置を講じる努力義務を定めています。公共工事では、入札契約適正化法16条の読みかえで、下請を含む建設業者が対象になります。
Q5. まず何を買えばよいですか。
買う前に、困りごとを数字で1つ決めてください。道具は、その数字を動かせるかどうかで選びます。
Q6. どれくらいの費用がかかりますか。
何をどこまで入れるかで大きく変わるため、この記事では金額を示しません。工事ごとに回収を見る方法は、費用対効果の記事にまとめています。
まとめ
- 建設DXとは、データで仕事の進め方ともうけ方を変えることです。道具を入れるのは入り口です
- 背景は、働く人が477万人までへり、残業にも上限がついたことです
- 国はi-Construction 2.0で、2040年度までに省人化を少なくとも3割(2023年度比)をかかげています。建設業法も、特定建設業者に(公共工事では下請を含む建設業者に)ICTの活用を求めています
- 中小は、困りごとを数字で1つ決めるところから始めます
建設DXを、道具選びではなく経営の話として進めたい。そうお考えでしたら、無料経営相談へどうぞ。人材育成・DX推進・収益改善をまとめて見ます。
この記事は一般的な内容をお伝えするものです。個別の契約や法令の当てはめは、専門家におたずねください。
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出典
- デジタルガバナンス・コード(経済産業省)
- デジタルガバナンス・コード3.0 本文(経済産業省・PDF)
- 最近の建設産業行政について(令和7年9月・国土交通省 不動産・建設経済局 建設振興課・PDF)
- 「i-Construction 2.0」を策定しました(国土交通省・令和6年4月16日)
- i-Construction 2.0 ~建設現場のオートメーション化~ 本文(国土交通省・PDF)
- 建設業法(e-Gov法令検索)
- 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(e-Gov法令検索)
- 情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針(国土交通省・PDF)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
出典はいずれも 2026年10月3日時点で公式サイトを確認しています。条文はe-Gov法令API(同日取得)の現行条文です。
監修

監修:佐藤 望(株式会社アプリバンク 代表取締役)。建設業界30年。大手ゼネコンで国内の大規模プロジェクトを担当し、海外では子会社の立ち上げと経営再建に従事。
保有資格は認定ファシリティマネジャー/日商簿記1級/建設業経理士1級/第一種衛生管理者。日本内部監査協会 会員、東京商工会議所 会員。
経済産業省「DX認定事業者」(DX-2026-06-0021-01)。建設業に特化し、人材育成・DX推進・収益改善を統合した支援(統合最適化)を提供。お問い合わせは無料経営相談または TEL 03-6826-0180 へ。
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