お盆前のこの時期、「今年の夏も、現場をどう回すか」で頭を悩ませている経営者は多いはずです。気温35度を超えるなかでの作業は、熱中症のリスクだけでなく、能率の低下、若手の離職、そして工期の遅れという形で、確実に経営を削ります。
その状況に対して、国が動きました。国土交通省は2025年12月23日に「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定し、猛暑期間に現場を休める工事発注(夏季休工)を、2026年夏に向けて具体的に進めると打ち出しています。すでに関東地方整備局の宇都宮国道事務所では、特記仕様書に猛暑期間の施工回避を協議できる旨を明記した工事が動いており、2025年7月時点で契約済み16工事のうち6工事で、受注者が実際に猛暑期間を避ける取組を実施(予定を含む)しています。
問題は、これが「直轄工事の話」で終わってしまうことです。中小建設会社の多くは民間工事や下請の立場にあり、「休んでいいと言われても、休めば売上も職人の日給も止まる」というのが実感でしょう。本記事では、国の制度で何が変わるのかという事実を押さえたうえで、中小建設会社が今夏から実行できる実務を、時間シフト・契約・費用計上の順に整理します。
夏季休工とは何か——国が「休める工事」を作りにきた
夏季休工とは、猛暑期間(おおむね7〜8月)に現場での外作業を一定期間止め、その間を内業・準備工・工場製作などに充てる働き方のことです。単なる「夏休み」ではなく、工期設定・積算・契約図書とセットで設計される施工計画である点が要点です。
国土交通省のサポートパッケージは、この考え方を4つの柱で支えています。
| 柱 | 主な中身 | 中小への影響 |
|---|---|---|
| ①猛暑期間・時間の作業回避 | 猛暑日を考慮した工期設定、猛暑期間を休工可能とする工事発注の試行、特記仕様書への協議明記、早朝・夜間への時間シフト、1年単位の変形労働時間制 | 「休みたい」と言い出せる契約上の根拠ができる |
| ②効率的な施工・作業環境の改善 | i-Construction 2.0による遠隔施工、作業環境の改善に資する技術開発の促進 | 人を暑い場所に置かない工法が評価される |
| ③猛暑対策に必要な経費等の確保 | 現場管理費・現場環境改善費での熱中症対策費用の計上、実態に応じた費用の確保 | 対策費を「自腹」から「見積に載せるもの」へ |
| ④地方公共団体・民間発注者等への周知・要請 | 「工期に関する基準」の対応状況調査、好事例の横展開 | 県・市・民間発注者にも波及していく |
(出典:国土交通省「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」2025年12月23日)
とくに注目すべきは①のなかの2項目です。ひとつは、猛暑期間を休工可能とする工事発注の試行。休工に必要な追加費用を当初発注時にどう明示し、どう積算するかを、国が検証する段階に入りました。もうひとつは、特記仕様書への協議明記の全国展開です。宇都宮国道事務所が用いている「本工事は、働き方改革、熱中症予防の一環として、猛暑期間(7〜8月)の現場施工回避について、監督職員と協議を行うことができる」という一文を、他の事務所へも広げる方針が示されています。

宇都宮国道事務所の試行は、熱いアスファルト(敷き均し時は110度以上)を扱う舗装工事から始まりました。ここで明らかになったメリットが、経営者にとって示唆的です。熱中症・夏バテの予防といった健康面に加え、猛暑期間が学校の夏休みやお盆と重なるためワークライフバランスに寄与すること、さらに舗装は施工後に温度が50度以下にならないと交通開放できない基準があるため、気温の高い時期は温度低下の待ち時間が延びるという品質・効率面の事情まで挙げられています。「暑い時期に無理に打つ」ことは、そもそも生産性の面でも合理的ではないということです。
なぜ2026年夏が分岐点なのか——3つの外圧
「毎年暑いのに、なぜ今年から変わるのか」。答えは、経営に効く外圧が3つ同時に来ているからです。
第一に、法規制です。2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、安衛則第612条の2として、熱中症の重篤化を防ぐための「報告体制の整備」「手順の作成」「関係者への周知」が事業者の義務になりました。対象は、WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、継続して1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業です。夏場の建設現場の多くがこれに該当します。努力義務ではなく義務であり、対応していなければ是正指導の対象になり得ます。「暑いから気をつけよう」という精神論では、もはや法令を満たせません。安全管理の記録をどう残すかについては現場の安全DXも合わせてご覧ください。
第二に、担い手の確保です。宇都宮国道事務所の資料には、栃木県建設業協会との意見交換において「猛暑の現場作業が若手をリクルートする障害となっている」という指摘があったと明記されています。夏にクーラーのない職場は就職先として敬遠される——この現実は、採用難に直面するすべての中小建設会社に当てはまります。猛暑対策は安全衛生の話であると同時に、採用と定着への投資です(人手不足を経営改善で解決する方法)。
第三に、工期と積算のルール変更です。国土交通省は「直轄土木工事における適切な工期設定指針」を2023年3月に改定し、年ごとのWBGT31以上の時間を日数換算した5年間の平均値を「猛暑日日数」として、天候等による作業不能日と同じ扱いで工期に織り込むようにしました。加えて、当初発注時の積算で見込んでいた以上に猛暑日等があり、作業を休止せざるを得なかった場合には、工期延長日数に応じて精算するとしています。さらに民間工事も含めた「工期に関する基準」が2024年3月に改定され、猛暑日が「自然要因による不稼働」として追加されました。つまり「暑さで動けなかった日」は、契約の世界で正当な理由として扱われる土台ができているのです(出典:同パッケージ 別紙2)。
この3つを合わせると、経営者が取るべき立場ははっきりします。猛暑対応はコストではなく、法令遵守・採用・工期交渉の3方向にリターンがある投資として設計すべきものです。この構造は2024年問題(時間外労働の上限規制)への対応とまったく同じで、規制を守るために現場を止めるのではなく、規制を前提に工期と価格を組み直すことが本質です。
中小建設会社が「休めない」3つの理由と、その解き方
とはいえ、現場を持つ経営者ほど「理屈はわかるが、うちは休めない」と感じるはずです。休めない理由はほぼ3つに整理でき、それぞれに実務上の解き方があります。

理由①:日給制の職人の収入が減る。これが最大の壁です。休工日をそのまま無給にすれば職人の年収が下がり、離職や他社流出を招きます。国土交通省もこの点を中長期の課題として明記しており、日給制の技能労働者が適切な年収を確保するには「1日あたりの適切な日給」と「1年あたりの適切な労働日数」の両方が要ると整理しています。実務上の解き方は、年間で総労働時間と賃金を設計し直すことです。夏に減らす分を春・秋の稼働で取り戻す前提で年間カレンダーを組む。1年単位の変形労働時間制は、そのための制度です。
理由②:発注者が休ませてくれない。直轄工事なら特記仕様書に協議規定が入り始めていますが、民間工事や下請の立場ではそうはいきません。ここでの解き方は、交渉の根拠を国の基準に置くことです。「工期に関する基準」で猛暑日が不稼働として認められていること、国が発注者向けに周知・要請を進めていることを、見積提出時の説明資料に一行入れる。感覚ではなく基準を示すことで、工期交渉は「お願い」から「制度に沿った協議」に変わります。価格そのものの交渉については価格転嫁の5ステップが土台になります。
理由③:現場が止まっても固定費は止まらない。リース料、事務所経費、月給制社員の人件費は休工中も発生します。解き方は2つ。ひとつは、休工期間を内業・準備工・工場製作に振り替えて稼働を維持すること(宇都宮国道事務所の試行でも、休工は「内業または準備期間」と位置づけられています)。もうひとつは、熱中症対策費用と休工に伴う追加費用を見積に計上することです。サポートパッケージは、現場管理費・現場環境改善費で熱中症対策費用を計上できること、実態に応じた費用の確保を進めることを明記しています。制度上「取れる費用」を取らずに自社が飲み込んでしまうのが、中小に最も多い損の形です。休工期間の資金の持ち方については資金繰り改善の5つの実務を参考にしてください。
この3つの壁は、どれも「夏単体で採算を合わせようとする」と行き詰まり、「年間で設計する」と解けます。年間工程・賃金・資金繰りを同じ表で組み直す作業は、第三者の目が入ると一気に進みます。毎月5社までの無料の経営相談では、自社の工程表と決算書をもとに、猛暑期間の稼働をどう組み替えるかまで具体化します。
今夏から実行できる実務6ステップ
ここからは、明日から動ける手順です。すべてを一度にやる必要はなく、①から順に着手すれば今年の夏でも間に合います。

ステップ1:猛暑リスク作業を棚卸しする
自社の作業を、WBGT28度以上または気温31度以上で継続して1時間以上・1日4時間超になるかどうかで仕分けます。この線引きが、法令上の義務範囲であると同時に、休工・時間シフトの優先順位そのものになります。舗装・鉄骨・屋根・外構・除草など、輻射熱を受ける作業が上位に来るはずです。
ステップ2:法令対応(体制・手順・周知)を先に済ませる
熱中症の疑いを誰に報告するか、誰が判断し、どう救急搬送につなぐかを紙1枚にまとめ、朝礼で周知する。これは義務であり、コストもほぼかかりません。記録をデジタル化しておけば、元請への提出も監督署対応も一度で済みます(勤怠管理から始める働き方改革×DX)。
ステップ3:休工の前に「時間シフト」から始める
全面休工はハードルが高くても、時間をずらすだけなら今日からできます。国土交通省が挙げている実例が参考になります。高水敷除草工では、勤務体制を8〜17時から6〜15時に変更し、熱中症による死傷者の発生が最も多い15時台を避ける運用にしました。閉鎖空間での作業では、猛暑日は昼休憩を1時間延長して実作業を1時間短縮し、気温が下がった時期に1時間追加で作業する運用がとられています。ある県の工事では11〜14時を休憩とする「クールワークタイム」も導入されています。作業場所を、夏は山地部・それ以外は平地部と入れ替えた除草工の例もあります。
ステップ4:契約前に「協議できる」状態を作る
公共工事なら、特記仕様書に猛暑期間の施工回避について協議できる旨があるかを確認する。無ければ、入札説明・質問回答の段階で確認を出す。民間工事なら、見積書に「猛暑日は不稼働日として工期に算入」と一行入れて提出する。契約後に「暑いので休ませてください」と言うのは交渉ですが、契約前に入れておけば条件です。この差は決定的です。
ステップ5:費用を見積に載せる
熱中症対策費(クールベスト、スポットクーラー、ミスト、飲料・塩分、休憩所の設置)は、現場管理費・現場環境改善費として計上できる項目です。合わせて、猛暑期間の休工に伴う仮設・機械の遊休費用も、工期設定の協議のなかで提示します。国が積算方法を検討している段階だからこそ、実績データ(何日休み、何円かかったか)を持っている会社が交渉で強くなります。原価をどう拾うかは実行予算の作り方と労務費に対応した原価管理が土台です。
ステップ6:年間の労働時間と賃金を設計し直す
1年単位の変形労働時間制を導入し、夏に減らす稼働を他の季節で吸収する。同時に、日給制の職人については年間の総支給額が下がらないよう、日給単価の見直しか、休工日の手当支給かを決める。ここは資金繰りと直結するため、年間工程と資金計画をセットで見る必要があります。技能者の処遇を客観的に示す仕組みとしてはCCUS(建設キャリアアップシステム)の活用も有効です。
統合最適化の視点——休むことが、人・DX・利益を同時に動かす
夏季休工は「休むかどうか」の議論に見えますが、実際には経営の3つの軸が同時に動く施策です。
人材育成の軸。猛暑期間を内業に振り替えれば、その時間は技術伝承と資格取得に使えます。ベテランの段取りを言語化する、施工計画の作り方を若手に教える、施工管理技士や各種特別教育の受講に充てる。「真夏に休める会社」は採用市場での差別化にもなり、若手の定着率を押し上げます。暑さで人が辞める会社と、暑さを避けて育てる会社では、5年後の技術者数が変わります(技術伝承×AIで暗黙知を残す)。
DX推進の軸。時間シフトや分散稼働は、紙とホワイトボードの管理では回りません。勤怠・工程・安全記録をデジタル化して初めて、「誰がいつどこで何時間働いたか」を年間で管理できます。遠隔臨場やIoTによる作業員のバイタル管理は、暑い場所に人を置かない工法への入口でもあります。国土交通省がi-Construction 2.0による遠隔施工を猛暑対策の柱に据えているのは、この理由からです。
収益改善の軸。熱中症対策費を見積に載せ、猛暑日を不稼働日として工期に織り込めば、これまで自社が飲み込んでいたコストとリスクが価格に反映されます。加えて、熱中症による労災は休業補償だけでなく、現場の停止・元請からの評価低下という形で利益を削ります。事故を1件防ぐことは、粗利を積むことと同じです。
3つの軸は別々の施策ではありません。夏季休工という1つの意思決定が、人材・DX・収益を同時に動かす。これが、株式会社アプリバンクの独自メソッド「統合最適化メソッド」の考え方です。自社がいまどの課題から着手すべきか迷う場合は、建設業の経営課題2026|7大課題と優先順位の付け方で全体地図を確認してください。
よくある質問
Q1. 夏季休工は義務ですか。
いいえ、休工そのものは義務ではありません。義務なのは、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則に基づく熱中症対策(報告体制の整備・手順の作成・関係者への周知)です。夏季休工は、国土交通省が発注者側の環境を整えて「受注者が選べるようにする」方向で進めている施策であり、現時点では直轄土木工事での試行・展開段階にあります。
Q2. 民間工事や下請の立場でも、休工や時間シフトを言い出せますか。
言い出せます。根拠になるのは、2024年3月に改定された「工期に関する基準」で猛暑日が自然要因による不稼働として位置づけられていること、そして国が地方公共団体・民間発注者への周知・要請を進めていることです。重要なのは契約前に条件として提示することで、見積書と工程表に「猛暑期間の作業回避」を明示するのが最も通りやすい形です。
Q3. 休んだ分の職人の収入はどうすればよいですか。
月給制であれば年間の総労働時間の設計、日給制であれば「日給単価の見直し」か「年間労働日数の確保」のいずれかが必要です。国土交通省も、日給制の技能労働者の年収確保を中長期の課題として明記しており、1年単位の変形労働時間制の運用改善を含めて議論が続いています。自社では、年間工程・資金繰り・賃金の3点を同じ表で見ることから始めてください。
まとめ——「暑いから止まる」を「暑い時期は別のことをする」に変える
猛暑は自然災害と同じで、なくすことはできません。できるのは、暑い時期に何をするかを設計し直すことです。
- 国土交通省は2025年12月23日に「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定し、2026年夏に向けて、猛暑期間を休工可能とする工事発注の試行、特記仕様書への協議明記の展開、熱中症対策費用の確保を進めている
- 2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、熱中症の報告体制整備・手順作成・周知は事業者の義務になっている(WBGT28度以上または気温31度以上で継続して1時間以上・1日4時間超の作業が対象)
- 中小がまず着手すべきは、①猛暑リスク作業の棚卸し ②法令対応 ③時間シフト ④契約前の協議条件化 ⑤費用の見積計上 ⑥年間の労働時間・賃金設計の6ステップ
- 夏季休工は、人材育成・DX推進・収益改善を同時に動かす統合最適化の施策である
今年の夏をどう乗り切るかは、来年の採用と、5年後の技術者数に直結します。自社の工程・契約・賃金をどう組み替えればよいか迷われている場合は、毎月5社までの無料の経営相談でご相談ください。年間工程と資金繰りを合わせて拝見し、実行できる形に落とし込みます。
出典
- 国土交通省「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」(2025年12月23日策定)——4本柱の施策、猛暑期間を休工可能とする工事発注の試行、熱中症対策費用の計上
- 同パッケージ 別紙2(詳細版)——適切な工期設定指針(2023年3月改定・WBGT31以上を猛暑日日数として算入)、工期に関する基準(2024年3月改定・猛暑日を自然要因の不稼働に追加)、早朝施工・クールワークタイム等の実例
- 国土交通省 関東地方整備局 宇都宮国道事務所「猛暑を避けた働き方改革・担い手確保の取組みについて」(2025年7月29日)——特記仕様書への協議明記、契約済16工事中6工事で猛暑期間回避、アスファルト110度以上・舗装50度以下で交通開放
- 厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」(基発0520第6号)(2025年5月20日)——安衛則第612条の2、2025年6月1日施行、WBGT28度以上または気温31度以上で継続して1時間以上・1日4時間超の作業が対象
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(昭和47年労働省令第32号)——第612条の2(熱中症の症状の悪化を防止するための措置)の条文本体(2026年7月時点)
【執筆・監修】株式会社アプリバンク 代表取締役 佐藤 望
建設業専門の経営コンサルタント/建設業界30年(現場〜本社財務、海外5カ国の施工経験)。独自メソッド「統合最適化(人材育成 × DX推進 × 収益改善)」で、建設業の経営改善を一気通貫で支援。経済産業省「DX認定事業者」(2026年6月認定)。
お問い合わせ・無料相談:株式会社アプリバンク 公式サイト / 最終更新: 2026年7月29日
本記事は法令・制度の一般的な内容をお伝えするものです。法令の適用についての個別の判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。
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