2026年1月に、下請法が「取適法」に変わりました。手形払いが禁止された、というニュースをご覧になった方もおおいと思います。
ここで、ひとつたしかめていただきたいことがあります。その禁止は、工事の下請への支払いには、そのまま当てはまりません。取適法が対象にしている取引の中に、工事の請負が入っていないからです。
では、建設会社は何も変わらないのか。そうではありません。工事の請負には建設業法が別に効いていて、こちらは手形のサイトが120日から60日に短くなりました。根拠も対象も違いますが、向かっている先はおなじです。
この記事では、どの取引にどちらの決まりが効くのかを整理します。そのうえで、現金払いに変える前にたしかめる数字と、今月のうちにできることをお伝えします。
2026年1月、下請法は「取適法」になった

公正取引委員会によると、改正法は2026年1月1日に施行されました。正式な名前は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称が取適法です。
呼び方も変わりました。これまでの「親事業者」は委託事業者に、「下請事業者」は中小受託事業者になっています。書類のひな形に古い呼び方が残っていないか、この機会にみておくとよいと思います。
中身で大きいのは、禁止行為が増えたところです。手形払いが禁止されました。あわせて、電子記録債権などのほかの支払手段についても、支払期日までに代金の満額を受け取ることがむずかしいものは禁止されます。
なお、取適法そのものの全体像と、発注の場面での実務対応は取適法と建設業の発注でまとめています。この記事はそのうち「支払手段」だけを取り出し、建設業法との切り分けに絞ってお伝えします。
対象も広がりました。これまでの資本金の基準に加えて、従業員の基準(300人・100人)が足されています。資本金が小さくても、人数で当てはまることがあるということです。取引の種類にも「特定運送委託」が加わりました。
ところが、工事の請負は対象に入っていない

ここが、いちばん間違えやすいところです。
取適法が対象にしている取引は、製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の5つです。役務提供委託は、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限られます。
この中に、工事の請負はありません。
国土交通省の資料も、そこをはっきり書いています。建設業法の禁止の対象は工事請負契約であり、それ以外の契約については、下請法の4つの類型に当てはまるときに同法が適用される、という整理です。
つまり、同じ会社の中でわかれます。工事の下請への支払いには建設業法。資材の購入や運送、システムの委託には取適法。「手形が禁止された」という一言でまとめてしまうと、片方を見落とします。
ぎゃくにいえば、工事以外の取引をもっている建設会社は、取適法の対象になる可能性があります。資材メーカーへの加工の依頼、図面や積算の外注、資材の運送。ここは今年から、手形払いそのものが使えなくなる取引です。
建設業法の手形は、60日になった

では、工事の請負のほうはどうなっているのか。
建設業法には、こういう条文があります。
特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。
これが、いわゆる「割引困難手形」の禁止です。対象は、特定建設業の許可をもつ元請と、資本金4千万円未満の下請のあいだの工事請負契約になります。
大切なのは、手形そのものは禁止されていないということです。禁止されているのは、割引がむずかしい手形を渡すことです。では、どこからが「むずかしい」のか。そこを決めているのが、運用の基準です。
国土交通省の資料によると、これまでの基準は120日でした。下請法のほうは、繊維業が90日、そのほかの業種が120日です。それが令和6年11月から、60日に統一されました。60日を超える手形は、割引困難手形のおそれがあるものとして指導の対象になります。
さらに、対象外の取引についても手を打つよう求められています。公正取引委員会から民間の事業者団体あてに出た通知では、手形の期間を60日以内に短くする、できる限り現金払いとするなど、支払手段の適正化に努めることとされました。建設工事については、発注者が前払いの比率、期中払いの比率をできる限り高めるなど、支払条件の改善に努めることも書かれています。
もうひとつ、見落とされがちな条文があります。建設業法第24条の3第2項です。
前項の場合において、元請負人は、同項に規定する下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない。
労務費にあたる部分は、現金で払うよう配慮する。これは新しい決まりではなく、まえからある条文です。手形の話が出るたびに、まずここに戻るべきだと考えています。
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現金に変える前に、たしかめる3つの数字

ここからが、経営の話になります。
手形をやめて現金に変えることは、決まりの上では正しい方向です。ただ、それを決めたつぎの日に、資金が出ていく順番が変わります。払う日がはやくなるということは、その分の現金をさきに用意しなければならないということです。
たしかめる数字は3つです。
1つ目は、追加で要る運転資金です。おおよそのめやすは「月の支払額 × 縮める日数 ÷ 30」で立ちます。月に3,000万円を払っている会社が、サイトを60日から30日に縮めるなら、およそ3,000万円がさきに出ていく計算になります。
2つ目は、いま使える枠です。当座貸越の未使用の枠と、手元の現金を足します。これが1つ目より小さければ、縮める日数をわけます。60日をいきなり30日にせず、まず45日にする。それでも方向は変わりません。
3つ目は、受け取る側のサイトです。元請から自社への入金が何日かをみます。ここが長いまま、払うほうだけを短くすると、その差がぜんぶ、自社の負担になります。
この3つを出さずに支払条件だけをさきに変えると、利益が出ているのに資金が回らない、というかたちになります。建設業の資金繰り改善で書いたとおり、受注産業では、利益と資金の動きがずれるのがふつうです。
なお、3つ目は交渉の材料にもなります。先ほどの通知には、発注者が前払いや期中払いの比率を高めるよう努めること、と書かれています。払うほうを短くする話と、受け取るほうを短くしてもらう話は、おなじ紙の上に載せてください。片方だけをもっていくと、こちらの資金だけが薄くなります。
今月やること:支払いを4つに仕分ける

ぜんぶをいちどに直そうとすると、資金繰りのほうがさきに折れます。まず、自社の支払いを4つにわけてください。
1つ目、工事の下請への支払い。効くのは建設業法です。手形のサイトが60日を超えていないかをみます。超えていれば、指導の対象になりえます。
2つ目、資材や機材の購入。効くのは取適法です。当てはまる取引では、手形払いそのものが禁止されます。
3つ目、運送やシステムの委託。こちらも取適法です。特定運送委託が2026年1月から加わりました。荷物を運んでもらう契約が、新しく入ってきています。
4つ目、受け取る側の条件。元請から自社への支払いサイトです。ここは自社で決められませんが、数字にしておけば交渉に使えます。
4つのうち、どれが自社にあるのかをさきに決めます。ひとり親方に近い規模なら1つ目と4つ目だけ、という会社もあります。それでかまいません。ないものを探すより、あるものを1つずつたしかめるほうがはやいです。
統合最適化でみると、どう効くのか
アプリバンクは、人材育成・DX推進・収益改善の3つをまとめて動かす「統合最適化メソッド」でご支援しています。支払条件の話も、この3つでみると打ち手が変わります。
人材育成の面。支払いのサイトを社内の誰が把握しているか、をたしかめてください。社長だけが知っている会社はおおいと思います。経理の担当者が「この取引はどちらの決まりか」を言えるようになると、確認が社長の手から離れます。判断を任せる練習にもなります。
DX推進の面。4つの仕分けは、一度やれば終わりではありません。取引先が増えるたびに増えます。会計ソフトの取引先マスタに「工事/工事以外」の区分を1つ足しておくと、つぎからは一覧で出せます。紙でもつと、更新が止まります。
収益改善の面。手形をやめれば、割引料の負担が消えます。受け取る側で手形を割り引いている会社なら、その分がそのまま残ります。一方で、払う側では運転資金が要ります。この差し引きを出さないまま「現金化はいいことだ」と決めると、資金が痩せます。
3つはつながっています。区分を持てば(DX)、担当者が判断でき(人材育成)、割引料と運転資金の差し引きが毎月見える(収益改善)。ひとつずつ別にやるより、同じ表の上でやるほうがはやく効きます。
まとめ
整理します。
- 2026年1月1日、下請法は取適法になり、手形払いが禁止された
- ただし、工事の請負は取適法の対象取引に入っていない
- 工事の下請への支払いに効くのは建設業法。割引困難手形の交付が禁止されている
- その運用の基準が、令和6年11月から120日→60日に統一された
- 労務費にあたる部分は、現金で払うよう配慮する(建設業法第24条の3第2項)
- 現金に変える前に、追加運転資金・使える枠・受け取り側のサイト、の3つを出す
決まりがさきに動き、資金の話があとから来ます。順番をぎゃくにしてください。数字をさきにおいてから、条件を決めるほうが、けっきょくははやく着地します。
自社の支払条件が、どちらの決まりに当たるのか。30分あれば整理できます。
建設業に特化した無料の経営相談を、毎月5社まででお受けしています。支払サイトの一覧と、直近3か月の資金繰り表をお持ちください。その場で、追加で要る運転資金までお出しします。
この記事について
執筆:佐藤 望(さとう のぞむ)/株式会社アプリバンク 代表取締役
建設業界での経験は30年。大手ゼネコンでは20年にわたり、現場・財務・人事を横断して担当してきました。海外5カ国での施工経験もあります。現在は建設業に特化した経営コンサルティングを行い、人材育成・DX推進・収益改善を同時に動かす「統合最適化メソッド」を提供しています。
ゼネコンの財務にいた頃、手形の話になるとかならず出てきたのは「では、うちの資金はどこから出るのか」という問いでした。決まりが変わること自体に反対する人は、あまりいません。詰まるのは、いつも資金の出どころです。この記事で数字の話をさきに置いたのは、そのためです。
お問い合わせ:株式会社アプリバンク/無料経営相談
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出典
- 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」(リーフレット)
- 国土交通省「手形による下請代金の支払」
- 公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について」(令和6年10月1日)
- 建設業法(e-Gov法令検索)
本記事の内容は2026年8月4日時点の情報にもとづきます。具体的な取引が取適法または建設業法のどちらに当たるかは、契約の内容と当事者の規模によって変わります。個別の判断は、公式の資料をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。


